なぜパフォーマンス広告に行動心理学アプローチが必要なのか
MarkeZine編集部(以下MZ):一口に「ネット広告」と言っても、ディスプレイ広告やリスティング、そしてスマートフォンのモバイル広告など様々なフォーマットがありますし、配信するプラットフォームも異なれば運用の仕方も違います。さらに最近はより高い効率を目指し、ますますチューニングが複雑になっている感がありますが、そんな中、「行動心理学の知見をベースにした広告クリエイティブのPDCAサービス」というのは、非常にユニークなアプローチですよね。こうした発想は、どのような経緯で生まれたのですか?
松村氏:ネット広告の黎明期だった2000年の創業以来、一貫してディスプレイ広告に携わってきましたが、これまでのさまざまな経験を経て、最近とくに「広告クリエイティブにおける情報設計の大切さ」を痛感しています。
悪質なレベルのギミックやネイティブ風クリエイティブを見かけることもありますが、CTRが一時的に上がっても、恒常的な広告効果の向上には決してつながりません。やはり、ユーザーとの好意的なコミュニケーションが前提となって、CVが成立して、広告主の利益となるのです。配信テクノロジーや効果測定の技術が進んだ今、中長期的な話ではなく短期的な話として改めてそれを実感します。
MZ:より効率性や効果を求めるパフォーマンス系広告において、やはり運用だけでは限界があるのでしょうか。
亀谷氏:運用型の広告の場合、入札やオペレーションで獲得効率は調整できますが、それだけではどうしても規模がシュリンクしていってしまいます。1本の勝ちバナー頼みでは誘導できるユーザーの層が偏りますし、KPIを合わせるために小手先の運用をしただけでは早々に規模的に行き詰ってしまいます。
松村氏:実際、広告クリエイティブへの注目があがってきているのは感じます。とはいっても、結果オーライの物量作戦や、要素の組み替えレベルのクリエイティブ改善では、思ったような効果が出ないことも多々あります。本当の意味で広告効果をあげるには、ターゲットに沿ったシナリオ設計や好意をもってもらえるコミュケーションが必要ですし、そのためには行動心理学的なアプローチが有効だと考えました。
「Web行動心理学研究所」は成功ルートを検証・実証するプラットフォーム
MZ:そこで2015年春に「Web行動心理学研究所」を立ち上げ、その後、亀谷さんが所長に就任されたわけですね。具体的に、どのような役割があるのでしょうか。
亀谷氏:Web行動心理学研究所では、ディスプレイ広告のパフォーマンスを向上させるため、ユーザーがネット広告と接触して反応する際の「行動心理」について、基礎的な研究やテスト配信に基づいたデータの蓄積~公開を行っています。
なぜこうしたアプローチが必要なのかといえば、起きている現象を知識として理解することで、その原因や理由を把握でき、それが成功への近道を知ることにつながるからです。私自身、これまで数多くのクリエイティブテストを経験する中、アイデアを出すのに行き詰まったことがたびたびありましたが、その時に行動心理学の本を読んで、「あ、これだ」という気付きを得てテストを繰り返していました。
松村氏:ユーザーの考え方や行動様式に沿ったクリエイティブが作れれば、間違いなく広告効果はあがります。その精度を上げるため、バックボーンとなる実証データをここで蓄積します。常に最新データを投影しながら、ユーザーの行動心理に即したクリエイティブ設計を実現し、広告主とユーザー双方に有益な構造を作っていきたいと考えています。
ユングの学説を元にした広告パフォーマンス最大化プログラム「beehave」
MZ:このWeb行動心理学研究所の知見を元にして開発されたサービス「beehave」を、今年1月にリリースしていますね。具体的なサービス内容を教えてください。
松村氏:行動心理学的な見地から、ユーザーに反応されやすいクリエイティブを制作~改善していくクリエイティブ視点のPDCAパッケージサービスです。具体的には、ユングが提唱する類型論に基づき、人間のものの感じ方や、それによって引き起こされる行動パターンを類型化し、コミュニケーション設計に利用していきます。
ユングの類型論は、広告コミュニケーションに特化したものではありませんので、その学説をデジタル広告とユーザーとの接触フェーズに当てはめて4つのモデルタイプを作りました。サービスは、「企画制作」→「目標設計」→「広告運用」→「レポーティング」のタスクで構成されており、亀谷さんにも情報設計やクリエイティブ分析などの部分で、多くのアドバイスをいただいています。
MZ:人間の行動パターンを類型化するというアプローチは面白いですね。具体的に、どのようにパターン化されているのでしょうか。
松村氏:大きくわけて次の4つのタイプがあります。
- 思考タイプ
- 感情タイプ
- 感覚タイプ
- 直感タイプ
クリエイティブの企画段階から、これらのタイプの人々がどんな要素や表現に対して反応しやすいのかを明確にし、その観点から情報設計を進めていきます。
思考タイプの方には、論理的に納得してもらうための「説得型コミュニケーション」。感情タイプの方には、喜怒哀楽の感情を揺さぶる「共感型コミュニケーション」。感覚タイプの方には、反射的に関心を引き出す「知覚型コミュニケーション」。直感タイプの方には、発想力を刺激する「創造型コミュニケーション」が、それぞれ適しています。
なお、このコミュニケーション名称は、当社で作った用語です。beehaveではこのように、それぞれのタイプの方が広告に接触してからレスポンスに至るまでの行動心理に沿ったシナリオ設計を行い、その上でコピーやビジュアルをカタチにしていきます。ユーザー属性やパーチェスファネルとの組み合わせで、さらに細分化することもあります。
MZ:すでにトライアルとして、いくつかの企業や代理店の方がbeehaveを利用なさっているそうですが、どのような効果が出ていますか?
松村氏:大手の広告主を中心に10社程度ご利用いただいていますが、非常に良い結果が出ています。これまでダイレクトレスポンスに注力してきた広告主の方からも、「新たな発見があった」という評価をいただきました。
一番わかりやすい成果は、これまで「勝ちパターン」として君臨してきたものが、実は改善の余地があったことがわかったことです。これまでの勝ちバナーを上回る効果のバナーが、いずれのケースにおいても作成できたことは、大きな自信にもなっています。
beehaveの効果は「発見」「スピード」「精度」が実感できること
MZ:勝ちパターンのクリエイティブでも、まだまだ改善の余地があるということですね。
亀谷氏:勝ちパターンが定まってくると、なかなかチャレンジしなくなるんです。なぜなら、ある程度反応がわかっているクリエイティブを入稿して、「あとは運用で回していけばいい」となりがちなんですね。
松村氏:クリエイティブに変化をつけるにしても、ボタンやテキストの色を変えるくらい。そういった改善をくり返しても、ベースとなる反応を超えるクリエイティブはなかなか生まれません。
逆にしっかりした情報設計に基づいて制作すれば、コンセプトはそのままに別の表現やビジュアルに展開したり、大きなジャンプが狙いやすくなります。また、見せ方が変われば反応する層も変わりますので、CTRだけでなくCVRへの影響もでてきます。
亀谷氏:作り上げた勝ちバナーも、そもそもそれが決まった経緯に問題があるというケースも珍しくありません。例えば「CTRが高く、コンバージョンが低いバナー」と「CTRが低く、コンバージョンが高いバナー」の2種類がある場合、CTRが低いバナーでCVした人が、高いCTRのバナーに反応するとは限らない。クリエイティブの設計意図が明確であれば、そういう部分から気付きや発見も得られるんです。
MZ:なるほど。PDCAサイクルのスピードや、ノウハウの精度という面ではいかがでしょうか?
松村氏:制作スピードを劇的に速くすることは難しいですが、データを共有しながら、ある程度、制作面でのイニシアティブを取らせていただければ、PDCAサイクルを高速化できると考えています。広告主の利益に直結しますので、そこは今後も体制を含めて注力します。
今、効果が出るには1~2か月必要ですが、逆にいえば、その期間で何らかの成果やノウハウがご提供できますので、ぜひチャレンジしていただければと思います。
亀谷氏:さらなるデータ・知見の蓄積については、テスト方法のロジック策定などもあわせて、Web行動心理学研究所で今まさに取り組んでいるところです。裏付けとなる有用なデータを取得して、クリエイティブ設計の精度をより高めていきたいですね。
今こそ、「楽しいとか、役に立つとか、思ってもらえる広告づくり」が大切
MZ:最後に、今後の方向性について改めてお願いします。
松村氏:広告主だけでなく、メディアや広告会社、制作会社などデジタル広告領域に関わるすべての方の共通意識として、ユーザーに広告をもっと好意的に受け入れてもらえる工夫をしていく必要があると考えています。
具体的には、クリックやタップの障壁を下げないといけないと思います。広告から訪問した先で、すごく面白いものがあるとか、特別なメリットがあるとか、全体のしくみを含めてレスポンスを考えていく必要があると感じます。
そういった問題意識を含めて、弊社では「データ」×「クリエイティブ」をテーマに、ユーザーの皆さんにポジティブに反応してもらえる効果の高いデジタルマーケティング施策を、企画・実施していきたいと思っています。
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