AIエージェントが目指す「バイヤーイネーブルメント」
MarkeZine編集部(以下、MZ):まずは、中谷さんの現在の事業ミッションを教えてください。
中谷:マツリカではカスタマーサクセス統括やセールス&マーケ統括、事業開発を経て社内起業を2度経験しました。1度目は“日本初のデジタルセールスルーム”である「Mazrica DSR」の立ち上げです。そして2度目が、マーケティング・営業AIエージェント「Mazrica Engage(マツリカエンゲージ)」のリリースです。私はプロダクトオーナーとして、ビジョンや機能の定義、そして事業全体の統括をミッションにしています。
MZ:「Mazrica Engage(マツリカエンゲージ)」開発の背景には、どのような課題感や想いがあったのでしょうか?
中谷:前提にある最大のテーマは「バイヤーイネーブルメント」の実現です。売り手と買い手の間に情報格差がある時、売り手が優位だと不適切な押し売りや誤情報が増え、逆に買い手が過剰に優位だと過剰要求やカスタマーハラスメントが起きてしまいます。
そうではなく、両者のパワーバランスを取って情報格差を整え、買い手が主体的になって適切な検討推進・購買決定ができるような環境を作ることが大切です。その観点で見ると、日本のBtoB企業のWebサイトは大きな課題があると考えていたのです。
なぜ日本のBtoBサイトは「99%の機会損失」が起きているのか?
MZ:具体的には、どのような課題でしょうか?
中谷:日本のBtoB企業のWebサイトは、問い合わせなどに結びつくCVRは平均約1%未満と言われることが多いです。米国だとCVRはその2倍以上とされるデータもあり、明らかに日本のBtoBサイトは低い傾向があるのです。
CVRが低い背景には、日本的な「人に価値を持たせる」営業観があると考えられます。直接人が会って信頼を築くことが価値だという思想が強く、人に会ってもうらために、Web上の情報開示は控えめにしてしまっているケースが多くあります。すると、その企業やサービスを知ったばかりの人や、少し興味がある程度の来訪者は、情報が少ないため関心も高まらず、わざわざ問い合わせせずに離脱してしまいます。これではナーチャリングが機能しづらく、ハウスリストからの再CVも伸びません。つまり、「情報を出さない」という姿勢が、CVR低迷の構造を生んでいるのでしょう。
また、CVRが低い背景のもう一つに、Webサイトの技術や法規制上の限界があります。現在のWebサイトでは、サイト訪問者一人ひとりに対して、本当の意味で情報を出し分けるというパーソナライズされた体験を作ることは不可能です。どんな訪問者が来ても、一律で同じ情報を出し、訪問者に読み解いてもらうという、いわばWeb上に置かれた「ただの看板」になってしまっています。個々の関心に即した「最適な体験」を提供できないこの状態が、結果としてCVRの向上を阻む大きな壁となっているのです。

