地域アセットを「資源」へ転換し、MaaSの構築に挑む
本記事では、MarkeZine編集部が主催するマーケティングアワード「BEST OF MARKETING AWARD 2026」において、ソーシャル・インパクト部門にノミネートされた博報堂の事例を紹介する。
本事例において博報堂が取り組んでいるのは、地域の生活インフラ課題、特に移動の足が確保できなくなりつつある地方自治体に向けたMaaS(Mobility as a Service)の構築と社会実装である。2019年から戦略策定を開始し、2021年には富山県朝日町において、住民ドライバーが自家用車で近隣住民を運ぶ公共ライドシェアサービス「ノッカル」を本格運行させた。
この事業の特筆すべき点は、博報堂が自社事業として取り組んでいることだ。コンサルティングやシステム提供に留まらず、持続的な運営のためのエコシステムそのものを構築している。
同 黒住 奈生氏、同 工田 菜央氏
取り組みに至った背景には、既存の交通モデルが限界を迎えつつある地方部の深刻な現状があった。先進的な交通サービスの議論は人口密集地を前提に進められ、膨大なコストを要する。一方で、過疎問題に悩む人口1万人未満の地方自治体では、採算性の悪化から民間バス・タクシー事業者の撤退が相次ぎ、自治体が運営するコミュニティバスなどへの切り替えを余儀なくされている。
しかし、そういったバスも大型車両に数名しか乗らないような状態が常態化し、自治体の財政を圧迫する形に。結果、必要な時だけ使える乗り合いタクシーやスクールバス、マイカー活用に手段が移るなど、既存の交通網では維持困難な「交通空白地帯」が急速に拡大している現状があった。
博報堂はこの課題に対し、マーケティング視点による「アセットの再定義」を行った。地方部において公共交通の維持に課題がある一方で、1人1台レベルで所有される自家用車は圧倒的な数で存在している。この住民の自家用車を地域の移動資源(アセット)と捉え直すことが、戦略の骨子となった。
これにより目指したのは、既存の交通事業者と競合するのではなく、むしろ「事業者協力型」という枠組みで共存する形だ。住民が自分の用事で外出するついでに近所の人を乗せる“お互い様”という共助の精神を、デジタル技術によって安心・安全な公共サービスへと昇華させる。これにより、自治体の車両購入費や人件費を抑えつつ、生活者の移動の選択肢を増やすことが可能になる。
