「モバイルシフト」はコマースの在り方を変革させる
すでに、一般生活者の日常に深く溶け込んでいる、Facebook。しかしこの日、新宿のハイアットリージェンシーで同社が催したセミナー参加者の多くは、EC事業者とマーケターであった。 「モバイルがビジネスを加速する」。セミナータイトルともなった「Mobile Moves Commerce」にかけて冒頭にそう宣言したのは、Facebook Japan代表取締役の長谷川晋氏だ。
同社は4月にも「モバイル」をテーマにした同様のセミナーを行ったが、今回はFacebookやInstagramが、どのようにECやその他ビジネスに影響を及ぼすかについて、より具体的に語る場となった。
スマートフォンの普及により、インターネット全体のトラフィックに占めるモバイルの割合は、日に日に高まっている。それはFacebookも例外ではなく、長谷川氏いわく、国内における同サービスの月間アクティブ利用者のうち、モバイルからアクセスしているユーザーは実に96%に及ぶという。
「このモバイルシフト、あるいはスマホシフトは、コマースの在り方自体を変革させる、新しい時代に入る大きなトレンドだと捉えています」(長谷川氏)
Facebookは、認知、検討、購入の「フルファネル」に対応
セミナー全体を通して頻繁に登場したのが「フルファネル」という言葉だ。今回のセミナーでは、マーケティングファネルを、「認知」「検討」「購入」に大別。2,600万人のユーザーを擁するFacebookと同1,200万人のInstagramは、ファネルの各ステージにおいて優位性を持つプラットフォームであり、そのリーチの規模や広告タイプの豊富さなどから、ソーシャルメディアとしての側面以上の可能性を有していると語った。
たとえば「認知」の段階では、情報過多ともいわれるWebの世界において、多種多様なデータの波から自社の商品を認知してもらうだけでも難易度が高い。長谷川氏は、そのために必要なFacebook上での広告を「思わず親指を止めてしまうようなクリエイティブ」と表現し、ビジュアルだけではなく、メッセージング、コミュニケーションの文脈がもたらす重要性について語った。
今回のセミナーでは、「モバイル×フルファネル」をメインテーマに、Facebookらが提供する各種ソリューションとモバイルの組み合わせが、集客やPR、売上増加など、マーケティング上のさまざまな課題に幅広く対応できることがアピールされた。
EC向けに開発された「ダイナミック広告」 今後は他業種に特化も
EC事業者が実際にFacebook上でビジネスを加速させたいと考えた場合、具体的にどのようなことが可能なのだろうか。
今回のセミナーでその1つとして強調されたのが、ダイナミック広告だ。これはひとことで言うなら、FacebookやInstagramで利用できるインフィード型のリターゲティング広告。広告主は、製品カタログを登録することで複数の商品のPRができるようになる。商品やサービスに関心を持っているユーザーに対して広告を掲出できるため、高い効果が見込まれることと、Facebookのタイムライン上で表示されるため、ユーザーの目に留まりやすいことが利点だ。
元々EC向けに開発された広告商品であったものの、今後同社ではEC以外にも、業種に特化したダイナミック広告をリリースする予定があるとのこと。その第1弾として発表されたのが、旅行業界に特化したダイナミック広告だ。これを活用すれば、たとえばトラベル系アプリで航空券を予約し、アプリを閉じてFacebookに訪れると、先ほど予約した航空券の到着地に関連したホテルの広告が表示される、などの流れが実現する。
クッキーを超える「人単位」のデータから見えた、検索連動型広告との相乗効果
今回のセミナーでは複数のFacebook Japan社員が登壇したが、長谷川氏に続いて登場した同社執行役員、田野崎亮太氏からは、Facebook広告と検索連動型広告との相乗効果について語られた。
「我々Facebookは、生活者の検索の方法に影響を与えていることがわかってきました。たとえば、会社にいる時に見たFacebook上のフィード広告が気になり、家に帰って検索した際に表示された検索連動型広告から購入した、といったようなパターンを分析してみると、アメリカでの事例ながら、検索連動型広告、およびFacebook広告の両方を見たユーザーと、検索連動型広告のみを見たユーザーとの比較で、広告の投資対効果で30%、1人あたりの売上では24%の優位性がありました」(田野崎氏)
この種の計測には、ブラウザなどの「クッキー」が利用されることが多いが、Facebookアカウントに紐付けられた「人単位」のデータを利用すれば、より正確に、さらにはデバイスをまたいで効果を測定することができ、広告の運用効率を改善しやすくなることも強調された。
360度対応も。動画広告の強い認知効果
壇上では、ダイナミック広告など広告の仕組みだけではなく、FacebookやInstagramが持つ複数の広告フォーマットも紹介された。たとえばカルーセル広告は、複数の商品を横に並べスクロールさせて表示させることが可能な機能で、従来のバナー広告よりも多くの情報を載せることが可能になった。
また、最先端の動画広告の試みとして「360動画」の紹介がなされ、サンプルとして、人気映画『スター・ウォーズ』のクリエイティブが登場。スマートフォンをかざすことで、360動画を楽しめる、世界を見回せるような魅力について語られた。
ちなみに、Facebook上でも動画広告の効果はやはり高いようで、特に認知効果に関しては、静止画が8.6ポイント増であったのに対し、動画広告は17.3ポイント増にも達したとのことだ。
テレビCMとFacebook広告、両方見た人が最もコンバージョン率が高い
続いて登壇したClient Solutions Managerの丸山祐子氏が紹介したのは、FacebookやInstagramを活用した具体的なケーススタディについてだ。
まずは、住宅情報サイト「SUUMO」を運営するリクルート住まいカンパニーの事例。若年層へのリーチ、および利用頻度の向上を目的とし、全国7都市で地元の言葉を使った「SUUMOラップ」という動画広告を掲載したところ、広告認知や好感度、利用意向などで上昇が見られたという。
また、楽天トラベルの事例では、テレビCMとの相関関係を調査。結果的に、テレビCMおよびFacebookでの動画広告の両方を見た人が、最もコンバージョン率が高いと結論付けられたとのことだ。
「テレビでCMを見て、その後またデジタルで同じ広告が出てくるなど、タッチポイントやチャネルが複数あることにより想起が上昇し、コンバージョンに寄与するものと考えられます」(丸山氏)
1日100億回もの計算。広告の最適化に関するアルゴリズムは機械学習で進化
Facebook Japan入社後、一貫して広告の効果測定、データの分析を行ってきたMarketing Science Leadの秋葉大輔氏からは、広告のパフォーマンス向上について語られた。
Facebookのユーザー数はすでに世界中で18億人を超えているが、同社はそのすべてのユーザーIDに対し、広告を1つひとつマッチングさせているという。その算出には「いいね!」「シェア」など、同社特有の機能から生成されたアルゴリズムを用いており、最適な広告を掲出するための計算は、1日に100億回を超えるとのことだ。さらにその仕組には機械学習を用いているため、膨大なセッションデータや購買行動をもとにしたマッチング精度は、日に日に向上を続けているという。
「我々のミッションは、広告主様のお手伝いをさせていただくこと。1円でも無駄にしないよう、Facebookが持つポテンシャルと優位性を活用していただくことです」(秋葉氏)
モバイルファースト時代を生き残るため、Facebookができること
最後に登壇したのは、執行役員本部長の黒田俊平氏。今回のセミナーを総括し、企業がいかにしてモバイル時代を生き残っていくか、そのためにFacebookとInstagramをどのように活用していくかについて語った。
「まずはやはり、長谷川からも出た『親指を止めるクリエイティブ』。ユーザーに発見されることが重要です。そして、正確なターゲティング。モバイルファーストの世界で、ビジネスをより加速させるため、Facebookが持つユーザーの属性情報を是非活用していただきたいと思います」(黒田氏)
黒田氏は最後に、「Facebookと企業が協力しながら、誰も経験したことのないスマホ時代のマーケティングを進め、お互いのビジネスの成長に繋げていきたい」と今後の抱負を語り、セミナーを締めくくった。