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Back to Mail Marketing(AD)

「メールのCVRはあえて見ない」ユナイテッドアローズ流、顧客視点のCRM×メールマーケ術

 9月13日にチーターデジタル(旧・エクスペリアンジャパン)が開催した「Back to Mail Marketing 2017」では、メールマーケティングに関する様々な最新事例が紹介された。本記事では、「CRM×メールで実現する『長期的な関係構築』のための戦略」をテーマに、株式会社ユナイテッドアローズ(以下、ユナイテッドアローズ) デジタルコミュニケーションチームリーダーの安藤彩子氏が登壇。同社がCRM戦略の中で実践しているメールマーケティングが紹介された。

総会員数330万 ハウスカードを使った顧客との関係構築

 ユナイテッドアローズは、コンセプトの異なる19のストアブランドを全国に250店舗展開している。同社ではCRMへの取り組みとして、2007年に独自のポイントプログラム「UNITED ARROWS LTD. HOUSE CARD(以下ハウスカード)」を開始し、これまで顧客とのコミュニケーション基盤を築いてきた。

 運用から11年目を迎え、現在の総会員数は約330万人。その内直近1年間に購入のあったアクティブ会員は約130万人、ハウスカード利用の購買回数シェアは約60%で、購買単価は非会員の約1.5倍という状況だ。

 ハウスカードでは、ポイントサービス、会員優待などのサービスを提供。カードの特徴として、全ストアブランドor全社共通のサービスと、ストアブランド別のサービスを用意しており、共通ではグレードアップ特典として、貯めた獲得ポイント数でステージを「ベーシック」・「ファースト」・「セカンド」・「プレミアム」に分け、各ステージに応じたサービスを、また、ストアブランド別にはエクストラサービスとして、ブランドオリジナルのサービスを提供している。

 2016年8月にはこの会員サービスを刷新し、ハウスカード会員と「UNITED ARROWS LTD. ONLINE STORE」(以下、オンラインストア)の会員IDを統合。これにより、それぞれの会員サービスが共通化され、リアル店舗とオンラインストアの購買データを結びつけた顧客分析ができるようになった。

ユナイテッドアローズ 安藤 彩子氏
ユナイテッドアローズ 安藤 彩子氏

 この会員サービスリニューアルを指揮したのが、デジタルマーケティング部 デジタルコミュニケーションチームのリーダー安藤彩子氏。安藤氏がCRMに取り組み始めたのは10年ほど前から。前職は外資系下着メーカーのトリンプで、ポイントカードの運用から始まり、CRMシステムリプレイス、サービス刷新を実施してきた。

 その後、産業技術総合研究所との共同研究で、ポイントカードを通し蓄積された購買データ、顧客データの分析することになり、分析領域に携わることになったという。ユナイテッドアローズに入社後は、ハウスカードを用いたCRMにおける戦略・戦術のプランニングをメイン業務としている。

CRM活動のゴールは「生涯顧客化」

 ユナイテッドアローズのCRMにおけるビジョンは、「お客様に愛され続ける商売を実現するためにハウスカード会員様をより深く理解し最適な会員サービスを提供する」だ。

 「CRMではお客様との適切な関係構築を図っています。それはお客様を知ることから始まります。つまり、お客様に寄り添って深く理解する姿勢をもつことがCRMを行う上で最も重要なポイントです」(安藤氏)。

 そのビジョンに向け、「ハウスカード会員の新規獲得・維持・育成を行い顔と名前のわかる(=ロイヤルティの高い)ハウスカード会員様を増やす」ことをCRM戦略として掲げている。

 主な活動は次の通りだ。

  1. 会員の購買履歴・顧客情報を分析、顧客を基点としたマーケティング活動
  2. 新規会員の獲得

 1.に関しては、ハウスカード会員がアクティブな状態であることを維持することで、顧客ロイヤルティの向上、各ストアブランドとファンのつながり強化を支援する。2.では、「●万人の新規顧客獲得」というような根拠のない目標を立てるのではなく、会員の“新規休眠比率”を把握し、「休眠離反の数」と「新規顧客獲得数」のバランスを見ている。

 「活動のゴールは、“生涯顧客化”を実現すること。KGIは顧客ロイヤルティ(LTV)としています。継続年数・利用頻度が高いことがロイヤルティの高い状況だと考えているため、金額ではなく独自の計算式でLTVを計算しています。普段月次で追いかけているのは、『維持率・新規会員数』からなる稼働会員数です。特に重要だと捉えている維持率の推移は細かく見ています」(安藤氏)。

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メールのCVRはあえて見ないことを選択

 前段までで説明したビジョンのもと、安藤氏はメールマーケティングの目的を「ハウスカード会員様との長期的な関係構築のためのコミュニケーション」と説明し、メールはCRMの中のコミュニケーションツールの一つだと言う。

 「お客様との関係構築のために、お客様の購買価値を最大限大きくしたいと考えています。商品の価値だけでなく、それ以上の付加価値を提供していきたい。その付加価値はコミュニケーションにおいて生まれるものと捉えています。

 当社では、店舗でのコミュニケーションを最もリッチなコミュニケーションと位置付けていて、店舗で商品の価値をお伝えしたり、アフターケア方法をご紹介したりしています。その補完手段の一つとなるのがメール。お買い物の前後で情報提供することで、お買い物の価値を向上させお客様との良好な関係構築ができると考えています」(安藤氏)。

 CRMにおけるメールについては、CVRなど短期的な指標はあえて見ず、開封・クリック率を見ることで、「どれぐらい読まれているか」を測っているという。安藤氏はその理由を「CVRばかりを追いかけてしまうと、顧客志向ではなく販売思考のコミュニケーションになってしまうから」だと説明する。

目的に合わせてメッセージ・プラットフォームは使い分ける

 では、具体的にどのようなメール配信をしているのか。同社では、どういうコミュニケーションを取りたいのか、目的に沿って「誰に」「何を」を送るのかを整理、最適なセグメント・メッセージ・プラットフォームを選択し、以下のような分類で配信を行っている。

ハウスカード会員向け全配信メール

 ストアブランド横断メール。普段利用していないストアブランドも知ってもらう目的で、年数回テーマを決めてそれに即したストアブランドのコンテンツを紹介。

ストアブランド全体配信メール

 該当ストアブランドのメール受信希望会員に対し、ストアブランド担当者がブランドやアイテムへの想いを語り、ファン化を図るメール。

ストアブランドセグメントメール

 普段の活用用途に応じて最適なコンテンツや商品を紹介する。購買履歴から需要をわけて配信など、個人の利用に即してパーソナライズする。

MAシナリオベースメール

 お客様のアクションのタイミングに合わせてメールを配信。

 ストアブランドのメール配信は各ストアブランドが担当しており、担当者がメールを作成したら、CRMシステムで企画を立て、デジタルコミュニケーションチームが承認する体制となっている。メールは、内容分析のためテキストだけのメールも極力HTML化している。

 「最初はHTMLメールの制作を外注していましたが、コストがかさむ上にディレクションに労力を割くという課題がありました。そのため社内での内製化に取り組み、現在では、HTMLなどの専門知識がなくても簡単にHTMLメールが制作できるHTMLメール専用制作ツール『Lynx』を活用し、すべてHTML化して配信しています」(安藤氏)。

 メール配信後は、デジタルコミュニケーションチームが各ストアブランドへ、数値・クリエイティブ両面から結果のフィードバックを行っている。

 「このフィードバックがすごく大切です。時間はかかりますが、チームメンバーはあえて手作りでレポートを作成しています。そうすることで、配信結果をしっかり読み込み知見を深めています。ただ、今は試験的に『MailPublisher』のマーケティングレポートも使っていて、どのリンクのクリックが多かったかがヒートマップで見られるクリック分析レポートや、開封率、クリック率などをグラフ化するメール傾向分析レポートを作成して効果検証を行っています」(安藤氏)。

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特性を理解することでメールの効果は高められる

 こうした活動を経て、現在同社のメール開封率は25%以上、ストアブランドによっては30%を超える高い数値をキープしているが、安藤氏によると、これはメールの特性を生かしたメールマーケティングを実行した結果だと話す。

 「私たちの考えでは、メールは『Pull型』『ブランディング』『読み物』という3つの特性を持ったコミュニケーションツールだと考えています。かつてメールはPush型のツールでしたが、他のPushチャネルの登場により、今はお客様が自発的に情報を得るようなPull寄りのツールになっています。

 そのため、他チャネルでのコミュニケーションに切り替える選択をされているマーケターの方も多いと思いますが、こうした特性に理解して向き合えば、『デザインの自由度が高くブランドの世界観を忠実に表現できる』『文字数に制限がない』『時間をかけてゆっくり味わっていただける』という他のチャネルにはない効果を享受できると思っています」(安藤氏)。

 最後に、今後の展望として安藤氏は、「顧客軸」「Optimization(最適化)」の2つのキーワードをあげた。

 「今はメールの結果を、開封率とクリック率によって見ていますが、それはメール軸の考えで、これからは顧客軸で購読率を見ていく必要があると思っています。そうすることでそのお客様にとって適切な情報提供の頻度や、情報を欲しているタイミングを検証していきたい。

 最適化については、3年前にMAの導入を検討開始したときの反省からきています。その時は最適化に注力するあまり、何のために最適化をするのか目的を忘れてしまったことがありました。常にお客様のロイヤルティを高めるためということを忘れてはいけません。

 一斉メールやセグメントメールもすべて最適化できると考えています。ただ、お客様をよく理解していないと最適化を実現することはできません。それを忘れないよう常にお客様視点をもって、最適化に取り組んでいきたいと思います」とし、講演を締めくくった。

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2017/12/13 22:53 https://markezine.jp/article/detail/27140