"自分"という商品をマーケティングできているか
昨今、デジタルマーケティングの普及にともない、「マーケター」という職業も広く認知されるようになりました。爆発的なヒット商品を仕掛けたり、これまで聞いたこともなかったような新たな体験ができる画期的なサービスを生み出したりする仕事に、やりがいを感じている方も多いはずです。
しかし、これまで数多くのマーケターからキャリア相談を受けてきたという著者の山口氏は、『マーケティングの仕事と年収のリアル』の冒頭で以下の問題提起をします。
マーケティング業界で働いていても、労働市場における”自分”という商品のマーケティング戦略がおろそかになっている人は意外と多い。
商品・サービスの売り上げやユーザーの行動データなどと日々格闘し、試行錯誤を重ねながら新たな施策を練るうちに、自身のキャリアについての考察や分析を行う意識が希薄になってしまう傾向にあるというのです。これは、多くの業界・業種におけるマーケターたちのコンサルティング的な活動を通じて、マーケターという職業の酸いも甘いも見届けてきた著者ならではの視点だと感じます。
同書では、そうしたマーケターの言わば「セルフマーケティング」における成功を「年収1,000万円」と仮定。この"KPI"を達成するために重要となる指針が次々と提示されていきます。著者曰く、キャリア戦略を考える上で大切な軸は以下の4つ。
- 事業会社か支援会社か
- 成長ステージ
- 年齢
- 年収
本編では、マーケターそれぞれの「流派」と題し、より細分化された具体的なマーケター像が紹介されますが、これらの軸を踏まえた上で、まずは自分自身のマーケターとしての現在地を把握することが大切なのだそうです。
「やりがい」で終わらないキャリア形成のために
マーケターに限定された話ではないのかもしれませんが、キャリアを左右するものには、「スキル」「実績」以外にも、「運」「巡り合わせ」といったある種コントロール不能な要素が挙げられると思います。中でも、市場規模の拡大/縮小や、世の中のトレンドなどによって立場・年収が大きく変動するマーケターという職業は、もしかすると複数の不確定要素が複雑に絡まり合う稀有な職業なのかもしれません。
これはあくまで個人的な印象に過ぎませんが、そういった業界では「やりがい」「将来への自己投資」といった言葉を耳にする機会が増えるように感じます。同書はまさに、タイトルにある通りマーケティング業界の「リアル」をあらわにすることによって、そうした幻想を一刀両断しようという意図を持っているのではないでしょうか。
そしてその意図の先には、「日々奮闘するマーケターにより良いキャリアを歩んでほしい」という熱い想いを感じずにはいられません。
マーケターの実態を知りたいと思う人、次のキャリアパスを考え転職を検討している人、そしてマーケターたちを育成していく立場にある企業の経営層にも、是非一読していただきたい1冊です。