はじめまして! コピーライター・プランナーの押部由紀奈と申します。外資系の広告会社でNY本社とグローバルピッチに参加したり、外資系のクライアントを担当したりさせていただく中で、世界に通用するアイデアやコピーを追求するようになり、ついに今年、国内予選を勝ち抜いた各国代表による若手部門・ヤングライオンズコンペティション(通称ヤングカンヌ)の日本代表として、初めてカンヌライオンズに参加してきました。
少子化で国内市場がシュリンクしてきており、アウトバウンド・インバウンドが成長の鍵となっている現代日本。世界最大のマーケティングコミュニケーションの祭典・カンヌライオンズから、グローバル視点の広告コミュニケーションのヒントを、3つのポイントに分けてご紹介します!
ポイント1. ブランド周りの社会問題を解決する
ブランドを好きになってもらうために、みんなの関心事とブランドの接点を作っていくのが、広告の基本。その「みんなの関心事」の究極系が「みんなの問題」、つまり「社会問題」です。
みんなが好きなタレントを起用すると、一時的に興味をもってもらえますが、起用をやめた途端、そのブランドのことは忘れ去られてしまいます。だけど、困っていることを解決したり、希望を持てる考え方を教えてくれたりした恩人のようなブランドのことは、ずっと覚えてるし、好きでいてくれる。サステナブルなCRMのためには、当然、後者が有効です。
P&GのグローバルCMO マーク・プリチャード氏も、「ジェンダーや平等性を促進することが、社会だけでなくブランドの成長の原動力になるのは明らかである」と断言しています。
すべての商品やサービスは、それを通して誰かを幸せにするために存在します。それがどんな幸せなのかを突き詰めて考え、心に残るよう真剣に伝えようとすると、こういった答えに行き着くのだと思います。
そんな背景からか、ここ5年ほど、世界では「ブランド周りの社会問題の解決」がテーマのキャンペーンが激増。カンヌライオンズでも、評価されています。
「情報格差」を解消したコロンビア政府
たとえばこちらは、Googleの協力で実現した、コロンビア政府による施策。これまでスマホでしか利用できなかった「Googleアシスタント」の検索機能をガラケーの音声通話で使えるようにする電話番号を作りました。これによってユーザーは、インターネット接続なしでGoogleアシスタントと通話し、情報を検索することができるようになったのです。
MINTIC「My Line powered by Google」
世界では今、インターネット環境による情報格差が進んでいます。それを解決するこのサービスは、ガラケーとスマホの情報格差が進む日本でもワークしそうですね。
政府による施策としても素晴らしいアイデアですが、もしもGoogle自身や通信会社がこの施策を行っていたとすると、ビジネスに直結した、より腹落ちするものになっていたかと思われます。
「移民問題」に着目したスーパーマーケット
こちらは、多様な品揃えで知られるドイツのスーパーマーケットの施策です。
EDEKA「The Most German Supermarket」
ドイツ在住の移民は、政府が把握しているだけでも約2,000万人。人口の1/4が移民であり、スーパーにとっては、彼らも重要な戦略ターゲットです。
そこである日、店舗にあるすべての輸入品を棚から取り払い、ドイツ人の生活がいかに他国の人たちの力で成り立っているかを可視化。多様性がもたらす豊かさを伝え、大きな話題を呼びました。PRやバズに乗せるためには、インパクトのある画づくりが重要なことを示す好例です。
「石鹸での手洗い」を促進した石鹸ブランド
インドの小学生には石鹸で手を洗う習慣がなく、チョークの粉をつけたまま手づかみで給食を食べています。そこで、イギリスに本社を置く製薬会社、グラクソ・スミスクライン社の石鹸ブランド「Savlon」は、水にぬらすと石鹸に変わるチョークを開発して学校に配布するという施策を行いました。
Savlon「Healthy Hands Chalk Sticks」
自社の技術を使って、問題を解決できる形に商品を変換し、トライアルとPRで商品の良さを伝えていく。とても本質的でクレバーなイノベーション・ソリューションです。既存の習慣に商品を上手く入れ込む手法や、学校を商品のトライアルプラットフォーム化し、生涯顧客価値の高い子どもをエントリーユーザーとして獲得する戦略も秀逸ですね。
社会問題とは、つまりは、そこにニーズがあるということ。単なるCSRではなく、ビジネス的にも、取り組む価値はありそうです。
ちなみに、審査員の方々に伺ったところ、日本からフィルム部門シルバーを受賞したUHA味覚糖「さけるグミVSなが〜いさけるグミ」CMシリーズは、食品の形状の違いをダイバーシティーを象徴するものと捉えて、LGBT問題に取り組んだ広告であるとして評価されたそうです。実際にはそのような意図で企画されたものではなかったそうですが、キャンペーン成功の秘訣は、そういった社会的文脈を汲めていたことかもしれません。以前受賞した資生堂「High School Girl?」と同様のパターンですね。
今後は、企画段階からこの視点を持ったキャンペーンが、日本でも増えていくのではないでしょうか。