クラウド会計ソフトのリリースにともないWeb動画広告に着手
――はじめに、お二人の自己紹介をお願いします。
庄子:マーケティング担当として、法人向けの「弥生会計 オンライン」と個人事業主向けの「やよいの青色申告 オンライン」の新規獲得および契約後におけるカスタマーサクセスのマネジメントをしています。
弊社では、クラウド会計ソフトをリリースする以前はインストール型のソフトを家電量販店やECサイトで購入いただくことが主でした。そこから2014年1月にクラウド型のプロダクトが加わり、自社のWebサイトに集客する必要性が高まる中、Webマーケティングに本格的に取り組むようになりました。
伊藤:アルファアーキテクトで動画広告事業のプロダクトマネージャーをしており、自社プロダクト「VeleT(ベレット)」の開発責任者を務めています。業務内容としては、チームマネジメントから新製品の開発、アドネットワークのメディアマネジメントに至るまでプロダクト全般に関わる業務を担当しています。
――弥生さんでは、これまでどのような動画広告を展開してきたのでしょうか?
庄子:動画広告の取り組み当初は、まずは製品理解を深めてもらうことを目的とした動画コンテンツを製品ページに設置していました。そこから、徐々により多くのお客様の共感を得ることを目的とした動画広告を作成し、配信するようになっていきました。
マス向けの動画配信では適切なプロモーションができない
――その中で感じていた課題について教えてください。
庄子:マス型の配信になりがちで、効果検証が十分に行えないことが悩みでした。会計ソフトは誰もが使う商品ではないため、ターゲットにリーチした後にしっかりとコンバージョンにまでつなげることが求められます。
お客様は、大きく分けて「個人事業主」「法人」の2種類。個人事業主の場合、毎年2月から3月にかけての確定申告という一大イベントがありますから、その時期に合わせて集中的に配信すれば、コンバージョンまでの貢献度は比較的可視化しやすくなります。
一方で、法人のお客様の場合は、個人事業主のように大きく需要が高まる特別なイベントはありません。また、弊社の製品は、法人の中でも小規模の事業者や起業したばかりのお客様がターゲットの中心となります。こうしたお客様に製品を訴求するタイミングは捉えづらく、対象者が限られることから広範囲にマス広告を打つだけでは効率がよくありません。どう動画広告を配信すればコンバージョンに寄与できるかを、今も試行錯誤しているところです。
――このような課題は、他のBtoB企業でも共通して抱えているものでしょうか?
伊藤:そうですね。最近では、BtoB領域でも認知獲得を目的としたテレビCMを展開する企業が増えていますが、マス寄りの動画広告配信ではリーチの可視化が難しいという問題があります。また、その反動なのか、Web上で配信セグメントをピンポイントに絞り込むことや、必要以上に配信後の効果をよりダイレクトな指標数値で可視化しようとする傾向があるように思います。
広告効果の可視化はWebの持つ良さでもあるので、それ自体を否定するつもりはありません。それでも、Web動画広告においては、CPC(Cost Per Click)やCPA(Cost Per Action)のような細かいレベルのKPIにこだわりすぎるのは本質的ではないと考えています。確かに、Web動画広告は配信単価が比較的高額となりますが、バナー広告やリスティング広告と比べ、CPCや直接的なCPAが高いことだけを問題視されるケースもありますね。
アトリビューションの可視化を実現する「VeleT」
――弥生さんが導入した「VeleT」について詳しく教えてください。
伊藤:「VeleT」は、アルファアーキテクトが提供する動画広告のDSPです。国内の主要メディアに動画広告を配信するだけでなく、動画視聴がその後のコンバージョンにどの程度貢献したかを示す「アトリビューション」も可視化するのが本サービスの持つ特徴であり、ひいては我々の動画マーケティングにおける提案の一つです。
その他にも、動画広告の運用をしながらアトリビューション分析を行い、「ビュースルーコンバージョン」「ビュースルーサーチ」などの指標を提供しています。運用期間中も、効果を最大化できるようクリエイティブを含めた改善提案を行い、お客様をサポートしています。さらに、動画の制作も手がけているので、企画から運用までワンストップで提案できるのが我々の強みです。
――庄子さんにお伺いします。「VeleT」を導入した目的は何だったのでしょうか?
庄子:「VeleT」を導入した目的は、これまでは難しかった法人を対象にした商品で動画広告の効果を検証することでした。弊社では、毎年秋頃に「弥生シリーズ」の新しい機能を盛り込んだ業務ソフトを販売します。この時期に合わせて様々な施策を展開する中、動画広告のトライアルとして「VeleT」を試してみたのが2018年10月末のことです。
通常、新製品における情報の鮮度は1ヵ月程度。「VeleT」を試した1ヵ月間は、アルファアーキテクトさんと効果検証ツールを共有して成果を把握していました。これまでは、一回の予算投下で特定のメディアに配信するというやり方だったため、結果は配信後にしか明らかになりませんでした。「VeleT」の場合は日次でレポートを提出してくれますし、運用しているという納得感がありました。
クリエイティブごとの評価も可能に
――そこから本格的に「VeleT」を導入されていったんですね。これまで得られた具体的な成果などはありますか?
庄子:定量・定性の両面で手応えを得ることができています。定量的な効果としては、「自然検索流入率」「CV(コンバージョン)到達率」の2つで、動画接触しなかった人と比べたときの数字が前者では約30%、後者では約75%向上しました(下記図参照)。
定性的な効果は、クリエイティブ調査の結果に表れていました。クリエイティブ自体の評価の他、「特定のクリエイティブを見た後にブランドに対して抱いた好感の有無」「他のブランドと比べての好感度」「検討する際に選択するブランド」などを属性ごとに細かく分析しているのですが、どの項目でも良い結果が出ています。
伊藤:Web動画広告の評価は、デバイス・クリエイティブごとに行います。弥生様の場合は、商材の特性上PCのコンバージョンリフトが高いことがわかっていますから、PCにより比重を置いて在庫を割り当てるといった運用をしています。
庄子:あとは、運用状況を毎日確認できるのはやはり大きな変化ですね。このおかげで、運用の調整もスピード感を持って行うことができます。確定申告シーズンの運用であっても、その時々で最も良いパフォーマンスが出せるクリエイティブを投入することができると期待しています。
目的ドリブンでクリエイティブを設計できているか
――伊藤さんは、動画広告におけるクリエイティブの重要性をどのように捉えていますか?
伊藤:動画の立ち位置が、消費者の生活に深く浸透してきているというのが前提としてありますね。消費者のライフスタイル自体が大きく変化し、これまでテレビCMが担っていたナーチャリングなど、購買ファネルの上部の役割も、Web動画広告で担えるようになってきているという実感があります。
その意味で、Web動画広告においては、単純にコンテンツとしての魅力だけではなく、目的がどこにあるのかをしっかり設計段階でクリエイティブに落とし込めているかが重要です。最近でこそ少なくなりましたが、バズればOKという企業の方もいました。
認知獲得なのか、コンバージョンなのか。目的が違えばコンセプトも変わります。核となる目的の部分が明確であればプランニングやメディアのマッチングも容易ですし、効果にもつながりやすいと思います。
――トライアルで使用した動画広告のクリエイティブは、共同でプランニングをされたんですか?
庄子:前回は、別途配信していたものを流用しましたが、今回は相談して動画内に少しギミックを加えることも挑戦しています。ちょうどA/Bテストをしているところですが、ギミックを加えた方がクリックを誘発する動きがあることが既にわかっています。もう少しデータが貯まったら、繁忙期に向けてクリエイティブを変えていくことも検討したいです。
伊藤:我々がクリエイティブのプランニングを行う際に重視しているのは、ユーザーが動画を視聴するときのシチュエーションです。「VeleT」は基本的に強制視聴型の配信フォーマットではないため、ユーザーの目に留まるクリエイティブを考える必要があります。
また、動画視聴後のリアクションがポジティブかネガティブかも注視しています。広告主が意図した通りにメッセージが伝わっているかに加えて、動画のクリエイティブがブランドイメージの棄損につながっていないかも分析しています。
あらゆるファネルでWeb動画広告を活用
――最後に、両社での今後の展望について教えてください。
伊藤:いまだにWeb動画広告を単体で実施することに対して是非を問われることが多いのですが、既存のバナー広告やサーチ広告などと連動させて、デジタルにおけるマーケティング効果を最大化する手段の一つとして、Web動画広告の認識を広げていきたいですね。
また、Web動画活用は直接的に効果に結びつくだけではなく、最終的な目標に対する間接的な貢献もできる点を評価してもらいたいと思います。潜在層を顕在化させるようなナーチャリングをバナー広告で行うには、クリエイティブで伝えられるメッセージボリュームに限界があると感じています。
そのためにも、Web動画広告事業を継続しながら、企業のデジタルマーケティングをスケールさせる提案を続けていきたいと思います。紹介できる事例を増やすことも、市場の理解を進める上では重要なので。
庄子:弊社の製品は一般消費者向けではありません。だからこそ、製品を使うとどんなメリットが得られるかを丁寧に説明し、実際に使ってみようと思ってもらえるような導入のハードルを下げる試みも必要になると思っています。そのために、Webコンテンツの提供やプロモーションを推進していくつもりです。
今は、潜在層向けに利用機会を増やす動画コンテンツを配信していますが、今後はより検討段階にあるお客様向けのコンテンツを展開し、弊社を選んでいただく最後の背中をひと押しするような取り組みとして、Web動画広告の活用を進めていきたいです。