ソーシャルメディアは生活者の新たなインフラに
Twitter 4,500万人、Instagram 2,900万人、Facebook 2,800万人、そしてLINE 7,600万人。カンタージャパンの調査や各プラットフォームの発表(Twitter/LINE)から明らかになった、現在の国内における各ソーシャルメディアのユーザー数だ。ICT総研の調査結果によると、ネットを利用する人の8割が、SNSを利用しているとのデータもある。今や、ソーシャルメディアは生活者のインフラになったと言っても、誰も異を唱えないだろう。
同時に企業での活用も進んでいるが、“バズ”や“エンゲージメント”、“ブランドリフト”といったソーシャルメディアマーケティングに期待する価値や効果も複数出てきており、「一体どこにピントを合わせるのが最もその本質的な価値を引き出せるのか?」が見えにくくもなっている。
長くメディア業界と広告業界に携わり、近年は電通デジタルにてソーシャルメディアを通じたマーケティング支援を行う西山孝氏は「ソーシャルメディアが登場して約10年のタイミングに、改めてその“ピント合わせ”をして、実務のヒントにしていただければ」と、次の3つの項目をひも解いた。
ソーシャルメディアのピント合わせの3ステップ
- 本質的な価値はどこにある?
- コミュニケーション構築をどう考える?
- どこから始める?
ソーシャルメディアの本質は「群れの可視化」
まず一つ目の本質的価値について、西山氏はソーシャルメディアの歴史を振り返り、その背景には「Web2.0」があると、西山氏は語る。
「Web2.0」というデジタルのトレンドは、「送り手と受け手が流動化し、誰もがWebサイトを通じて自由に情報を受発信できるように変化した利用状態のこと(※一部意訳)」と、Wikipediaで紹介されている。Wikipedia自体、誰もが自由に編集できるサービスだ。
「自由な情報の受発信、とは今聞くと当たり前のようですが、これによって私たちの生活は大きく変わりました。ポイントは、かつてマスメディアなどに点在していた情報が、人々によってWebサイトに密集し、可視化されるようになったことです。同時に、その中からGoogleの検索サービスで簡単に情報を探せたり、Amazonのユーザーレビューのような生の声を得られたりと、以前とはまったく違う価値を提供するネットサービスが次々と生まれました。GoogleやAmazonの現在を考えると、今もこのトレンドの中で成長を続けていることがわかります」(西山氏)
ソーシャルメディアも、この流れの中から生まれたものだが、すぐに焦点が“情報の可視化”から“人の可視化”へ移っていった。個人のアカウントから情報を受発信するために、情報が人にひもづいていったからだ。そして個人同士は、属性や興味関心の軸で様々なつながりを有している。これに注目し、西山氏はソーシャルメディアの本質的な価値を「群れの可視化」と提示する。
“関係線”の上で生まれた会話は自発的に広がる
デジタルというと、パーソナライズによる個人最適化がイメージされがちだが、西山氏は「ソーシャルメディアに関してはむしろ人々を密集させ、個人ではなく群衆を可視化し最適化したことに、唯一無二の価値があると考えています」と語る。人同士のつながりを含めた“群れ”をマーケティングに活用するなら、対個人とは明らかに異なる情報伝達構造や話法を理解することが不可欠だ。
そこで、2つ目のピント合わせとして、西山氏は群れに対するコミュニケーションの理想像を解説する。たとえば、1)従来の不特定多数のマスに向けたコミュニケーションと、2)現在デジタルで追求されているパーソナライズのコミュニケーション、そして3)ソーシャルメディアでのコミュニケーション、の3つを比較した場合、1)と2)は対象とするボリュームや表現方法は違っても「企業が受容してもらいたいメッセージやコンテンツを一方的に伝える」点は共通している。一方、3)は可視化された群れの中で「ブランドやプロダクトについて自発的な会話が生まれるようなメッセージやコンテンツで、多方向へ伝えてもらう」ことを狙う。
ここでのポイントは、「つながっている関係性=“関係線”の上でのコミュニケーション」だと西山氏は語る。
関係性を分析することが、コミュニケーション設計の第一歩
関係線は、ソーシャルグラフ(フォロー/フォロワー)はもちろん、興味関心の方向性、あるいはモーメントやトレンド、フィーリングなど、様々な観点で描かれる。それは日常的に、また瞬間的にもつながったり離れたりして、群れは随時形成されている。この可視化された関係線を分析することが、コミュニケーション設計の第一歩だ。関係線でつながっている双方が反応しやすいコンテンツを提供できた場合、そこには自発的な会話が生まれる。
「そこから、結束したり分業したり協働したりと、群れ特有の行動を繰り返しながら、その先の関係線上を通って多方向へうねりのような情報伝達が起こることがあります。関係の間にコンテンツが置かれ、会話が生まれていくという体験を通じて、態度変容と行動が促進されていく、これがソーシャルメディアマーケティングであるべきコミュニケーションの姿だと考えています」(西山氏)
関係線の分析、その線上へのコンテンツ提供、群れ特有の情報伝達の実現。この3ステップが踏襲された参考事例を、西山氏は紹介する。
人気ハッシュタグに見る余白と参加動員力
Twitter内で自発的に生まれた人気ハッシュタグ「#世界一いらない報告をする見た人もやる」をご存じだろうか。「今、◯時」「彼女できた」など、タグの通りどのような内容でも投稿でき、それが見た人の行動を誘発し、連鎖していく。企業の公式アカウントがこれに乗って、製品の細かな情報をつぶやいたりもした。
「このタグの特徴は、圧倒的な余白と参加動員力。情報がシンプルに“バズ”るのもリーチ効率は高いですが、関係線上で会話だけでなく行動が生まれたり、新しい線ができたりすることを設計段階から考慮すると、ソーシャルメディアならではのうねりがつくれると思います」(西山氏)
WHAT、WHO、WHENの視点から紐解く
最後のピント合わせは、どこから始めるか。西山氏は電通デジタルで踏襲している方法として、広くマスの中から顧客の群れを可視化するための「WHAT/WHO/WHEN」の3つの視点を解説する。
WHATの視点とは、ソーシャル上で何が語られているのかを分析することだ。ブランドやプロダクトについての投稿内容を時系列で定量的に把握したり、さらに定性的に興味関心や行動を把握したりもしているという。
WHOとは当然、顧客が誰なのかを捉えること。ブランドのファンの顧客像を、属性情報とソーシャル上の投稿を掛け合わせて浮かび上がらせることができる。セグメントごとのインサイトやフィーリングを捉えて深く考察することで、精緻なペルソナを描くことも可能だ。
WHENは、全体的な傾向とブランド特有の両方でシーズナル変化を捉えること。たとえば「働くモチベーション」の年間の上下変動も、ソーシャル上から読み解ける。
他にも、電通デジタルではソーシャルメディアならではのリアリティのある声から、たとえばコアユーザーからエントリー層など新たなセグメントを発掘し、顧客ファネルの新規構築にも取り組んでいるという。どこから始めるかという点では、以上の切り口に加えて、顧客理解を中心とした分析から効果測定まで一貫して支援する同社をパートナー企業とするのも手だろう。
「群れはそもそも、生物の生存戦略のひとつだそうです」と西山氏。「ソーシャルメディアは、生活者がこの変化の激しい時代に選択した生きる知恵とも言えそうです。その実態を丁寧に捉えることで、マーケティングに必要なヒントが発見できると思います」と語り、講演を締めくくった。