アプリによるシームレスなエクスペリエンス提供の重要性
――博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が発表した「メディア定点調査2019」(PDF)によると、スマートフォンの所持率は8割を超え、今や消費者の最も身近なメディアとなっています。さらに、スマートフォンの利用時間は1日3時間を超え、その8割以上はアプリの利用時間が占めており、シームレスなエクスペリエンスを提供するアプリという顧客接点は日に日に重要性を増しています(ニールセン調査より)。今日は、マーケターがアプリ上でデータドリブンなマーケティング施策を展開する秘訣について、セールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース)の伊藤さん、永野さんにお伺いします。では、まずはお二人が今どんな業務に携わっているのか、お話しください。
伊藤:私はセールスフォースでPaaS(Platform as a Service)領域のプロダクトマーケティングを担当しています。弊社はCRMやSFAを中心とした「Sales Cloud」や統合マーケティングプラットフォームの基盤となる「Marketing Cloud」のイメージを強く持っている方も多いかと思いますが、顧客体験を重視している点は「Salesforce Platform」にも共通しています。
永野:私は先ほど伊藤が申し上げた「Salesforce Platform」というカテゴリーの中で、スピーディーなアプリ開発を支援する「Heroku(ヘロク)」事業の、日本と韓国の統括責任者をしています。
――「Heroku」はエンジニアの方にとっては既に身近なサービスですが、マーケターにとってはどんな魅力があるのでしょうか?マーケターが知っておくべきHerokuの機能や特徴について、教えてください。
永野:まず前提として、現在の消費者の環境は、急速にデジタルにシフトしています。我々は毎年、「コネクテッドカスタマーの最新事情」という調査レポートを出しているのですが、その調査から「消費者の方は製品やサービスと同様にエクスペリエンスを非常に重要視している」ということが明らかになっています。最新のデータでは、実に84%の方がエクスペリエンス(顧客体験)は非常に重要だと答えており、この数値は年々上昇しています。
アプリという顧客接点でエンゲージメント向上に挑むランボルギーニ
――実際にエクスペリエンスを重視している企業はどんな取り組みをしているのでしょうか?
永野:顧客体験を重視している企業の一社に、ランボルギーニがあります。同社は、プロダクトアウト型から顧客体験を重視したサービス設計に変革しており、その施策の一つがオーナー向けのアプリ「Lamborghini Unica」です(参考記事)。
車をオーダーしてから納車まで約1年のスパンがあるのですが、その期間をただ待つだけでなく、アプリを通じていろいろなエクスペリエンスを提供しています。たとえば工場で車が作られている様子だったり、エンジン音を聞くことができたりですね。
このようにアプリはエクスペリエンスを向上させる顧客接点として、非常に重要度を増しています。マーケターの方々も、アプリの早急な開発はもちろん、IoTの技術などいろいろなタッチポイントを提供するツールとしてHerokuの活用術を知っていただければと思います。
伊藤:私自身もマーケターなので、「思いついた仮説をすぐに試してみたい」と感じることはよくあります。特にデジタルの発達によって、即時性をともなうマーケティング活動はより求められるようになっていると思います。かといって、たとえデジタルの施策でも、旧来の方法でキャンペーンを実施するには時間も予算もかかります。
テストマーケティングからスモールスタートして、徐々にスケールを拡大していくことも、Herokuで作ったアプリであれば、簡単に行うことができます。そういった意味で、マーケティングドリブンな施策を実現しやすい基盤として、マーケターの方々にHerokuという選択肢を知っていただきたいですね。
アプリダウンロード後、顧客との継続的な関係をどう築く?
――マーケターにとっては、アプリをリリースしてからが本番です。というのも、日本のモバイルユーザーがインストールしているアプリの数は平均80個を超える一方で、実際に使っているのはその3割という実態が明らかになっています(「App Ape モバイルマーケット白書」より)。
伊藤:かつてはダウンロード数を伸ばすことがアプリマーケティングのメインでしたが、今はダウンロード後に顧客とどう継続的な関係を築いていくかが非常に重要になっています。
永野:ダウンロードされたアプリを、実際にお客様がどう使っているのか、もしくはどのタイミングで離脱しているのか、よく使われている時間や利用時間の長短など、アプリから得られたデータをどう事業に活かしていくのか。そのデータから導き出した仮説をテストしたい時にすぐに実装・検証できるのか。また仮説を検証するために必要なデータをそもそも計測できているのか。
こういった視点が、アプリの運用に挑むマーケターがサービスを選定する時に見るべきポイントでしょう。そして、ユーザーにアプリを継続的に利用してもらうリテンション施策を、マーケターが縦横無尽に実行する際に役立つのが、Herokuの拡張機能である「FollowAnalytics」です。
伊藤:一般的にアプリの制作には、平均で9ヵ月から12ヵ月程度はかかると言われていますが、その間にユーザーの環境も変わってしまいます。この期間を短縮して、できるだけ早くリリースした上で、改善を積み重ねていくアジャイルさが、このデジタルの時代には求められます。FollowAnalyticsを活用すれば、アイデアをアプリに展開するスピードを格段に上げることができるのです。
FollowAnalyticsで実現できるマーケティングドリブンな世界
――HerokuにアドオンしてFollowAnalyticsを活用すると、具体的にはどんなことが可能になるのでしょうか?
永野:Herokuは150を超えるサービスと連携し、巨大なエコシステムが広がっています。FollowAnalyticsもその中の一つという位置づけで、マーケターのモバイル戦略に非常にフィットします。FollowAnalyticsの代表的な3つの機能としては、「モバイルアプリ構築」「モバイル分析」「Salesforceへの統合」があげられます。
モバイルアプリ構築
FollowAnalyticsを使えば、単にアプリを作るだけであればWebサイトのURLを取り込むだけで、ものの数分で自動的にアプリが出来上がる。出来上がったアプリは、Apple Payを使ったペイメント機能やFace IDを使った認証機能などの詳細な機能をドラッグ&ドロップで追加&削除できる。実際にスマートフォンにインストールすることも可能だ。
モバイル分析
データを取得するためには、SDK(Software Development Kit)をコードに入れ込むことで、様々なデータをプラットフォーム側で得られるようになる。FollowAnalyticsはiOSからAndroid SDKまで多くのSDKをもっており、それらを使って様々な行動データを取得することで、自由自在な分析を実現している。
具体的には、どこの国・地域で最も使われているとか、最もユーザーのアクセスが集中する時間帯、さらにはログインした人数やカートに商品を入れた人がどのくらいいるのかといった数値まで、データで可視化できる。可視化されたデータは、セグメントとして登録が可能になり、例えば過去30日以内に商品を購入し、アプリを1日5分以上利用しているユーザーを特定するといったことが可能になる。また登録されたセグメントに対して、定期的にプッシュ通知を送信したり、あるイベント(店舗の200m範囲内に、日中の12時から2時の間に近寄った)をトリガーにしてプッシュ通知を送ることができる。
Salesforceへの統合
セールスフォースが提供するMarketing CloudやSales Cloudなどと簡単に統合ができる。総合的なマーケティングプラットフォームであるMarketing Cloudや、ECサイト運営を支援するCommerce Cloudと統合することで、よりビジネスに貢献する分析や打ち手を起案することが可能になる。
自由自在のセグメント&シナリオでのプッシュ配信も簡単
――自社でアプリを開発したい企業の、一番の目的は何でしょうか?
永野:やはり一番の理由は、プッシュ通知でしょう。Eメールはなかなかユーザーに届きづらい時代になっているので、企業はそれぞれのユーザーにとって適切なタイミングやフェーズで、メッセージを届けたいと望んでいます。
たとえばアプリでショッピングカートに商品をいれたまま購入に至っていない人たちだけに、「今購入すると5%オフ」「お買い忘れはないですか?」といった特定のメッセージを出すことも、FollowAnalyticsを使えば簡単にシナリオを組んで実行することができます。
伊藤:他にも「使われていないサービスの認知」「レーティング(アプリの評価)」「エンゲージメント促進(任意のカスタムフィルタリングによるメッセージの出し分け)といったことも、ユーザーのアプリ利用データに基づいて施策を実行することができます。
マーケターの勝負はアプリダウンロード後から始まる
――先ほど伊藤さんが、マーケターの勝負はアプリがダウンロードされてから始まるとおっしゃっていましたが、アプリの利用活性化に向けて、マーケターはどんな視点をもって挑めばいいのでしょうか?
永野:アプリは今や最も重視すべき顧客接点の一つなので、マーケティングプランニングの一環として、全体とのデータ連携を見据えた設計が今後より重要性を増していきます。マーケティング部門の「スピーディーに施策を実現したい思い」と、IT部門の「準備や体制構築などの対応」の間にある溝を埋めるのが、HerokuでありFollowAnalyticsです。
伊藤:FollowAnalyticsの強みの一つである「Salesforceとの連携」によって、アプリの施策をJourney Builderの中に組み込んだり、ユーザーのより詳細な把握も可能です。これにより、モバイルの世界に閉じた施策ではなく、本質的にユーザーデータを360度視点で分析できるようになるのです。
スマートフォン時代の消費者は、アプリだけを使っているのではなく、Webサイトも使うし、お店にも行くし、縦横無尽にオンラインとオフラインを行き来しています。ユーザーにとって便利なチャネルをその時々のタイミングで使い分けているので、真の顧客体験を提供するためには、アプリのデータに閉じるのではなく、CRMなどのデータと統合して分析していくことが重要になっていきます。
我々はこれまでもずっと「顧客エンゲージメント」「パーソナライズされた顧客体験」の重要性を説いてきました。今回はモバイルの切り口からお話しさせていただきましたが、アプリから顧客接点を拡充した先に広がる世界観を、ぜひ描いてみてください。我々はその実現を強力に支援していきます。