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CX神話に惑わされるな 現場の数値改善に直結するユーザーへのおもてなし体験の作り方

 2019年9月、Sprocket社はロゴをはじめコーポレートアイデンティティ全般を刷新し、リブランディングを実施した。創業から一貫して、オンラインでのコミュニケーションに「おもてなし」の世界観を実現させることに注力してきた同社は、圧倒的な運用実績のもと、成果につながる顧客体験(CX)向上の手法を確立したという。数値改善に直結するユーザーへのおもてなし体験の作り方について、同社 代表取締役の深田浩嗣氏に迫った。

顧客体験への注目は高まるが、実現できている企業は少ない

安成:2019年4月からMarkeZineの編集長に就任した安成です。今日は創業から一貫して、オンラインでのコミュニケーションに「おもてなし」の世界観を実現させることに注力してきたSprocket(スプロケット)社の深田さんを訪ねています。御社は、今年の9月に、ブランドロゴをはじめ、コーポレートアイデンティティ全般を刷新し、リブランディングを実施されましたね。

深田:Sprocket社の創業は2014年。この5年間でスマホシフトが進み、世の中や業界のトレンドも大きく変わりましたが、「オンラインのコミュニケーションはもっといろんな幅があってよいのではないのか」という課題意識と、「おもてなしの世界観をオンラインでも実現したい」という思いは変わっていません。

 一方で、それを実現するために、ゲーミフィケーションからはじまり、紆余曲折を経て様々な仮説・手法に取り組み、最適解にたどり着くことができました。業界のトレンドとして、ここ数年「顧客体験(CX)」という言葉への注目が高まっていますが、これも自分たちが目指してきた方向に世の中が寄ってきているように感じています。

(左)Sprocket株式会社 代表取締役 深田浩嗣氏
(右)株式会社翔泳社 MarkeZine編集長 安成蓉子

安成:2013年頃、深田さんと一緒に作っていた連載の中で、「自販機のようなWebサイトになっていませんか?」というフレーズが出てきたのですが、それが私にとってオンラインでの顧客体験はどうあるべきかを深く考える最初のきっかけでした。

深田:よく覚えていますね(笑)。そういった意味では、当時と比べてオウンドメディアやECサイトを自社で持つ企業も増えましたが、今もできている企業は多いとは言えない状況です。

安成:今、顧客体験を実現するにはどうすればいいのか、現場のマーケターから経営層まで、多くの方が向き合っている課題だと思います。

深田:顧客体験と言っても、2つの顧客体験がよく混同されているように思います。「ビジョンとしての顧客体験」と「プロセスとしての顧客体験」、この2つは分けて考えるべきです。

 「ビジョンとしての顧客体験」は、企業としてどんな体験を顧客に提供したいのかという、企業の思いや信念ですよね。スターバックスで言うと、サードプレイスみたいな、どんな空間を作りたいかといったものです。ここは基本的に、自社できちんと考えるべきことでしょう。そしてSproket社が支援できるのは「プロセスとしての顧客体験」です。ここがぶれると、「顧客満足度を高めましょう」といった、ふんわりした話になってしまう。

情報は自ら探さない/顧客体験の前提が変化している

安成:生活者のメディア総接触時間は1日あたり400分を超え、デジタルメディアのシェアはほぼ半分を占めています(「メディア定点調査2019」より)。デジタル化の加速にともない、ユーザーの行動はどのように変化しているのでしょうか?

深田:かつてはWebサイトに情報を掲載しておけば、お客様が自分で探して勝手に見てくれるという発想が強かったと思います。Webは自分で検索するよね、といった感じです。

 でも、今やスマホでネットを見ている一般的なリテラシーの人たちは、そうではありません。情報量は多くても、基本的に小さな画面で“ながら”見をしているので、知りたい情報がパッと見つからないとすぐに離脱してしまいます。

安成:そうですね。特に若年層に顕著な傾向だと思います。

深田:むしろ、“顧客は自分で必要な情報を探してはくれない”という前提で、Webサイトを設計したほうがいいでしょう。Webサイトに情報を置いているから探してね、という態度は“企業の傲慢”とも受け取られる時代になりつつあります。

安成:アプリの時代になって、プッシュ通知で情報を受動的に受け取ることにユーザーも慣れてきていますよね。必要な情報を探す前に、提案されることに慣れているというか。

深田:そうですね。情報設計の考え方もアップデートする必要があるでしょう。

再現性をともなう顧客体験向上のソリューションを確立

安成:御社のWebサイトを開くと、「All for Genuine Relationship」という言葉が大きく出てきますが、今回リブランディングに取り組んだ背景は何だったのでしょうか?

深田:リブランディングにともない、会社のロゴも新しくしましたが、会社としての指針を刷新する意図はありませんでした。「All for Genuine Relationship すべては、おもてなしのために」という言葉も、これまでやってきたことをあらためてスタッフみんなで言語化しただけで、特段新しい理念というわけではありません。

刷新されたロゴ

安成:ではなぜこのタイミングだったのでしょうか。

深田:創業から5年、おもてなしの本質をマーケティング活動に取り入れることで人を動かす施策にフォーカスしてきました。統合Web接客プラットフォーム「Sprocket」で、実に15,000回のABテストを実施し、作成した接客シナリオは5,500本、テストパターンは36,000を超えています。それらの圧倒的な運用実績から、支援企業のROIに貢献する業種別の勝ちパターンを、再現性をともなうソリューションとして確立することができたタイミングでした。

 自分たちの中で、ある種の到達点にたどり着くことができた宣言として、今回のリブランディングを実施しました。次のフェーズへ進む契機としたいという思いが強いですね。

安成:顧客体験向上のベストプラクティスは、各企業によって様々だという認識をもっていたのですが、「再現性」をともなうソリューションにどうやって落とし込んだのでしょうか?

深田:はい。簡単ではありませんでしたが、圧倒的な運用実績をもとに成功パターンを導き出すことができました。EC系だけでなく、金融などの非EC系のWebサイトまで、タイプ別にお客様が困る一定のパターンを熟知しているのも、私たちの強みです。

そもそも顧客体験は、誰のもの?

深田:よくセミナーなどでもお話しするのですが、「顧客体験の課題」は誰にとっての課題でしょうか?

安成:知りたい情報がすぐに見つかったり、迷っているときにナビしてくれるといった、ユーザーの課題でしょうか……?

深田:そうですね。でも、マーケターに顧客体験で重要なことを聞くと、「チャネルを横断した体験の一貫性」「レコメンド・パーソナライズ」「ロイヤリティプログラム」といった、企業側主体の視点での回答が多く出てきます。

 たとえばよくあるECサイトのかご落ちの改善例。企業視点だと、「こんな商品はいかがですか?」「おすすめ商品はこちら」と、データ連携に基づくチャネルを横断した一貫性のあるパーソナライズされた売り込みを提案しがちです。

 でも、私たちSproket社では、課題発想の起点をお客様に置き、「お困りのことはありませんか?」「送料についてはこちら」と、お客様が感じる不安・心配を離脱の前に払拭するシナリオを提案します。それで効果がでるのか? と懐疑的な方もいるでしょう。しかし、確実に運用実績からも、ROI改善に結び付くシナリオだと実証されています。

安成:目先の売上を意識すると、つい売り込みのアプローチをとってしまいがちですが、自社のユーザー視点に立ったアプローチを考えれば、画一的な施策から一歩前に出ることができそうです。

ベンダー都合の顧客体験から脱却できるか

安成:顧客体験を重視して改善に取り組む企業は増えていますが、企業視点のコミュニケーションに陥りがちな傾向も否めません。「企業側が売りたいものを提案する」という企業視点ではなく、「お客様が何に困っているか」というユーザー視点から顧客体験の改善に向き合う姿勢には、御社の哲学があらわれていますね。

深田:正直なところ、マーケターは「店舗とネットでシームレスな体験を実現すべきだ!」と一生懸命ですが、普通のお客様は「店舗とネットでシームレスな体験をできて最高!」とは思わないですよね(笑)。データの統合はもちろん大事ではあるものの、お客様視点の体験としてどうなのか、という原点に立ち返った施策を実行することで、顧客体験と売上双方の向上を実現することができるのです。

安成:ただ、アップセルやクロスセルを提案するシナリオはイメージしやすい一方で、ユーザー視点に立った顧客体験向上のシナリオ作成は、なかなか挑戦するのが難しい面もあるのではないでしょうか。

深田:正直、難しいと思います。不満やお困りごとを聞くよりも、「こんな商品もどうですか?」とデータ連携してパーソナライズをするほうが、売上に直結するイメージもあり、取り組みやすいという現実は正直あるでしょうね。ABテストの結果からも、商品を提案する施策の効果も、もちろんあります。

 でも、マーケターの皆さんには、ベンダー都合の顧客体験ではなく、自社のお客様にとっての本質的な顧客体験の在り方について、立ち止まって考えてみてほしい。たとえデータを統合しなくても、もっと身近なところから、顧客体験の向上に取り組めることがたくさんあると気づくきっかけになると思います。

 Sproket社が理想とするおもてなしの世界観を実現していくためには、クライアント企業のマーケターの方に丸投げするのではなく、これまでの弊社の成功ノウハウをもとに私たちがサジェストしていく必要があると考えています。

 こういった思いもあり、弊社ではツールだけの提供ではなく、専任のコンサルタントが企画から実行、改善までサポートする体制を取っています。クライアントと一緒に仮説検証に取り組むためにも、設立の頃からこの体制は変わりません。

プロダクトだけでなく、真の顧客体験そのものを開発していく

深田:顧客体験をどうよくするのかは、試行錯誤のプロセスになってきます。やっていることはすごく地味で、時間もかかりますが、そこをやりきることが大事です。そして肝は、いかにツールを使いこなすかではなく、シナリオの提案を含めたところに価値があると信じています。

 たとえば、JIMOSの川上さんも、導入事例記事で「本当にそれやるの!?」と思ったシナリオが成果につながったことをお話ししてくれていますが、Sproket社が描く発想は、クライアント側からはなかなか出てこないということを、あらためて再認識した場面でもありました。

安成:コンテンツをはじめとしたシナリオ作りには、企業の思想や哲学、顧客と向き合う姿勢が表れます。御社はツール提供だけでなく、この領域も含めて支援していらっしゃるのですね。

深田:一律的な売り込みコミュニケーションではないけれど、マーケティングの成果にもつながるシナリオ作りから提案して、オンラインのコミュニケーションの幅を、広げていきたい。これは創業時から変わらず取り組んでいるミッションです。

 そのためにも、今年から体験開発センターというチームを立ち上げ、どういう性質のコミュニケーションを提供すればお客様の動きが変わるのかを、研究開発しています。新しい世界観を実現するには、プロダクト開発だけではなく、体験そのものの新しさも開発していきたいという思いで取り組んでいます。

安成:Sproket社の目指す世界観を、あらためて理解することができました。体験開発センターの活動をはじめ、どんな再現性のある顧客体験向上のシナリオが生み出されていくのか、今後がとても楽しみです。

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この記事の著者

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/12/02 10:00 https://markezine.jp/article/detail/32311