35年の歴史ゆえの課題
MZ:まず、皆さんがどういった業務を担当しているか教えてください。
比恵島:私はニッポンハムでシャウエッセンをメインとしたブランドコミュニケーションを担当しています。
早坂:私は電通でコピーライターをしております。コピーを書くだけではなく、言葉を中心にデジタル広告やテレビCMの企画などを担当しています。
篠原:私はTwitter Japanの戦略パートナーチームで広告営業を担当しています。このチームでは、これからTwitterを積極的に活用したい、具体的なTwitterの戦略的活用法を知りたいというクライアント様の支援を行っており、ニッポンハム様のTwitterアカウントの立ち上げ以前から担当させていただいています。
MZ:これまでTwitterを活用していなかったとのことですが、どういった背景で活用を進めるようになったのか教えてください。
比恵島:シャウエッセンは今年で35年を迎えるウインナーで、スパイスの配合や燻製のバランスを考えすべての日本人の口に合うように開発されました。それもあり、同カテゴリーの中でも圧倒的な地位を保てていました。
その一方で「こだわり抜いた1つの味を守り続ける」「レンジ調理をすると触感が損なわれるのでボイル調理を推奨する」など、長く続けたことで生まれたいくつものルールがあったんです。結果として、購入者の年齢が持ち上がりつつありました。
その中で、若年層を含めたより幅広い方に食していただけるよう、そして世の中の時短ニーズにこたえるために、35年目でついにレンジ調理を解禁することにしたんです。
ただ、「レンジ解禁しました!」だけではメッセージが埋もれてしまうということもあり、電通の早坂さんと相談してコミュニケーションプランを考えました。
「手のひらを返します」が大きな話題に
MZ:御社にとって重大な発表である、レンジ解禁を若年層中心に届け、認知と話題化を狙ったわけですね。このオーダーに対して、早坂さんはTwitterの施策を提案されたんですか。
早坂:いえ、この段階ではまだTwitterアカウントの開設はしていません。正直、このお題をいただいたとき「なぜ35年も解禁まで時間かかったんだろう」って思ったんです。きっと、それは生活者の人も同じで、中にはこっそりレンジ調理をしていた方もいたと思います。そのため、その感情を揺さぶるようなコピーを考えることから始めました。
MZ:それは、どのようなコピーでしょうか。
早坂:「シャウエッセンは、手のひらを返します」というコピーを考えました。そして、ボディコピーには35年もレンジ調理を解禁してこなかった理由を丁寧に記載したんです。こうすることで、「今まで禁止されていたの!?」という驚きの声と、昔から知ってたインディーズバンドが売れたときの反応のように「前から知ってたし」「勝手に解禁してたし」のような反応を作り出すことができました。
このように、1つの事柄で様々な投稿が起きるのがTwitterならではの特徴だと思っています。他のプラットフォームだと決まった投稿をする空気感があるんですが、Twitterは特に多様性があり、生活者のざわつきが作りやすいと考えていたので、Twitterで話題を作ることを視野に入れました。
MZ:そのコピーを使って広告出稿はしたのでしょうか。
早坂:最初にタイアップ記事を出稿したり、公式で動画を作ったりしました。それがTwitterで拡散されたことをきっかけに様々なメディアが取り上げてくれて、そこから自然発生的に広がっていきました。広告を大きく投下していないにもかかわらず、ここまで広がったのは自分でもびっくりしました。
MZ:篠原さんにお聞きしたいんですが、シャウエッセンのレンジ解禁はどのくらい話題になったんでしょうか。
篠原:レンジ調理を解禁したことを発表して以降、シャウエッセンに関するツイート数は大きく伸びていました。Twitterは新しい情報を取得する、ニュースを知るプラットフォームですので、オーディエンスにとって新しくて斬新だと感じる情報は拡散しやすいんです。「手のひらを返す」という親しみやすいキャッチーな言葉も、Twitterオーディエンスにも広がっていった一因だと思います。
さらなる話題化契機にアカウントを開設
MZ:これだけTwitterで話題になったのを踏まえ、シャウエッセンのTwitterアカウントを立ち上げたんですか。
比恵島:いえ、実はレンジ解禁の後に開発したシャウエッセンのお肉部分だけの「あらびきミートローフ」がTwitterで話題になったんです。シャウエッセンの味が好きで、細かく刻んでチャーハンに入れたりするということが調査の中でわかっていて、シャウエッセンの味が好きな方向けに開発したんですが、これもTwitterで非常に話題となりました。
MZ:篠原さんから見て、ミートローフはどのような話題が起きていましたか。
篠原:これもレンジ解禁と同様、発売以降非常に話題になっていました。Twitterでは #Twitter家庭料理部 #時短レシピ などのハッシュタグを通じてレシピに関する情報が多く集まるので、「あらびきミートローフを使ってこんな料理を作った」といった投稿はもちろん、「大好きなシャウエッセンの肉が食べまくれる!」といったポジティブな反応も起きていました。この頃から、まだ公式アカウントはないものの、Twitterの中ではシャウエッセンがおもしろいことをしているという会話が自然と起き始めていました。
比恵島:これらの話題化と、そして発売から35年目というタイミングもあったので、遅れながらではありますが、Twitter公式アカウントを立ち上げました。
MZ:Twitter公式アカウントは、どのような方針で運用していますか。
比恵島:基本的には「手のひらを返します」という宣言を行ったときと同様、少し不器用で真面目な人間らしさが感じられるコミュニケーションを意識しています。そうすることで、一層愛されるブランドを目指しています。
チェダー&カマンベールが爆発的ヒット、売上が二桁伸長
MZ:では、現在どのようにTwitterアカウントを開設したときに行った施策を教えてください。
比恵島:これまで行った施策は、主に以下の5つです。
1.電子マネーギフトがその場で当たるキャンペーン告知
2.シャウエッセンの日(パリッとで8月10日)にちなんだフォロー&リツイートキャンペーン
3.旨辛追いソースを商品に付けたことを告知するキャンペーン
4.シャウエッセンチェダー&カマンベールの販売告知
5.チーズの日(11月11日)キャンペーン
MZ:定期的にキャンペーンを仕掛けているんですね。特に反響が合った施策はありましたか。
比恵島:4番目のチェダー&カマンベールに関するキャンペーンです。Twitter上での動画配信は200万回を超え、実際に購買したとツイートしている方も多く、中には元アイドルなどの有名人の方もいました。実際の売上も二桁近い伸長となっています。
MZ:では、どのようなキャンペーン内容だったか教えていただけますか。
早坂:8月10日にはシャウエッセンの日があり、その後にチェダー&カマンベールが出ることがわかっていたので、8月から9月にかけてシャウエッセンの話題量を最大化しようと考えていました。
具体的には、発売前に芸人の和牛さんを使ったドラマの告知風のポスター画像を作り、それをTwitterで投稿し、「シャウエッセンが何かするぞ」感を醸成しました。そして、チェダー&カマンベールの告知動画を上げて、プロモビデオを使いながら話題化のピークを持ってきました。さらに、バズレシピで有名なリュウジさんにPRでオリジナルレシピを作成いただきました。これも2万を超えるリツイート、約10万のいいねが集まるほど、話題となりました。
このように、発売前・中・後に話題を作ることを意識して設計しました。
\和牛主演のWEBドラマ!?/
— 【公式】シャウエッセン (@schauessen_nh) August 30, 2019
うごめく思惑、内部衝突勃発、
迫るタイムリット、
果たして、物語の結末とは…!
チェダー&カマンベール発売記念
超短編WEBドラマ
「時代に流されたシャウエッセン。」
遂に公開#和牛 #水田信二 #川西賢志郎 #チェダーandカマンベール pic.twitter.com/YSjYWJc6Ff
MZ:Twitterでは、何かキャンペーンにあたりサポートされたんですか。
篠原:キャンペーンのプランニング時点から、Twitterで話題を作る方法としてキャンペーン当日前後に会話の山を作る重要性については、ニッポンハム様と電通様にセッション形式でお伝えをしていました。また、これらのキャンペーンを通じてどのような反応があったか定期的にレビューを実施し、では次回に向けてどこを伸ばして改善すべきかというディスカッションをしています。
ですので実際のプランに関しては、Twitterの特性を皆さまが十分に理解されていて、かつクリエイティブもおもしろくて魅力的だったので、売上に貢献できそうな確信は持っていましたが、本当に大きな反響が集まったので私自身も非常に嬉しくなりました。
Twitterをうまく使いたければ寛大になろう
MZ:Twitterを活用する上で必要なことはなんだと思いますか。
比恵島:先ほどお話ししたように、シャウエッセンはこだわりを持ったブランドで、むやみやたらに新しい味を出したり、レンジ調理を解禁したりしてこなかったんです。でも、Twitterで新しい味のシャウエッセンがここまで話題になったのを見て、時代は変化を求めているし、その変化を世の中に広めてくれるのもTwitterだと思いました。新味のチェダー&カマンベールも世の中のチーズブームをくみ取って開発・発売しました。
その他にも、定期的に更新してタッチポイントを作ることも重要だと思います。
MZ:早坂さんはいかがですか。
早坂:正直、今回ここまで成功できたのは、ニッポンハム様の寛大さがあったからこそだと思っています。公式が「手のひら返し」という言葉を使うのも少し躊躇したんですが快くOKしていただけましたし、チェダー&カマンベールの告知動画のクリエイティブも社内抗争みたいな内容だったんですが、そこも許可いただけました。
今回のように、良い関係値で、広告主の方も寛大さを持ってクリエイティブの発想を一緒にできると、これだけの成果につながるのだと感じました。
MZ:篠原さんは今回のようにニッポンハムがTwitterをうまく活用できた理由ってどこにあると思いますか。
篠原:私は日ごろから、ブランドが伝えたい強み、いわば機能的価値や情緒的価値と、Twitterオーディエンスのインサイトが重なる部分を見つけ、そこでコミュニケーションを行うことが非常に重要だと考えています。
今回話題になったレンジ解禁やミートローフ、チェダー&カマンベールなど、すべての施策でブランド側がオーディエンスの潜在ニーズに寄り添った形でコミュニケーションをとれていたからこそ、キャンペーンが大成功したと思っています。これからTwitter活用を本格的にしたいと思っている企業には、ザ・お手本と言える事例です。
ブランドのコアは崩さず、チャレンジする
MZ:比恵島さんにお聞きしますが、今後どのようにTwitterを活用していきたいですか。
比恵島:シャウエッセンの持つブランドのコアは崩さずに、新しいことには引き続きチャレンジしていきたいです。その中でTwitterは、発信したコンテンツを世の中ごと化できるような影響力のある媒体として、マスメディアと併用しながら効果を最大化していきたいと思っています。
MZ:早坂さんと篠原さんは、どのような支援をしたいと思っていますか。
早坂:シャウエッセンは間違いない味という強みを持っています。売上も順調に来ているので、チャレンジはしつつもブランド毀損にならないコミュニケーションを考えたいと思います。これまでは少しおもしろい要素を取り入れてきましたが、やりすぎるとファンの方も引いてしまう。シャウエッセンの持つ人格を意識しながら、世の中の流行なども踏まえて新しいことを仕掛けていければと思います。
篠原:比恵島さんも早坂さんも、シャウエッセンを好きな方の気持ちに寄り添い、どういったブランドかをきちんと示すための施策を的確に仕掛けてきました。私は引き続きTwitter上でどういった声が集まっているのかを定量・定性の両面でお伝えしていきながら、ブランドとオーディエンスを近づけるお手伝いをしていきます。
加えて、Twitter上では今何が話題になっているのかといったトレンドもお知らせしつつ、より良いコミュニケーションが生まれる支援をしたいです。そしてこれからも、是非ニッポンハム様に食品業界におけるTwitter活用の第一人者として業界をリードしていただきたいと考えています。