差別化が重視されるわけ
マーケターにとって、差別化は重要なワードです。競合他社との違いを消費者に認識してもらうことで、自社にとって少しでも有利な競争環境を生み出すにはどうしたらいいか、常に頭を悩ませているのがマーケターと言ってもいいかもしれません。
マイケル・ポーターは競争戦略において、自社を取り巻く事業環境を分析する視点として、5つの競争要因(ファイブフォース)を提示しています。
ファイブフォースとは、自由競争市場には5つの競争要因(同業他社・新規参入・買い手との交渉力・売り手との交渉力・代替品)が存在しているということです。
そしてそのような環境において企業が取りうる競争戦略の類型として、3つの基本戦略「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」を提示しています。
学術的にも、差別化は重要ということです。
差別化とは「他と同じではない」ことをはっきりさせる、ということ。経営者やマーケターが、自社の差別化に必要性を感じる場合、そこには「他と同じようなもの」という前提があることになります。
「他と同じようなもの」と思われれば思われるほど「他に替えがきく」ということになるので、競争が激しくなってしまう。だから「他と同じではない」と訴える。これが差別化の重視される理由でしょう。
the appleとan apple
昔、英語の授業で “the apple” と “an apple” 、定冠詞と不定冠詞の違いを習ったことがあると思います。”the” は定冠詞、つまり後に続く名詞は特定されるので ”the apple” は「このリンゴ」、つまり目の前にある唯一のリンゴを指します。一方、“an” は不定冠詞、つまり後に続く名詞が不特定であることを表すので、”an apple” はリンゴという果物のことを意味します。
買い物でリンゴを買う場合に、こっちのリンゴは形が綺麗だ、とか、このリンゴは真っ赤な色をしているから甘そうだ、とか言いながら品定めをしているとしましょう。この場合、物質としての一つひとつのリンゴは、その形や大きさ、色づきや甘さが、それぞれが明らかに異なっている前提でどのリンゴを選ぶか、を検討しています。
でも、その売り場に掲げてある値札には「リンゴ 〇〇〇円」と書かれてあり、この場合一つひとつの違いは無視して、ここにあるものはまとめてリンゴというカテゴリーであることを表しています。
それぞれが異なるリンゴ 、つまり ”the apple” であっても、人は容易にその違いを無視して、まとめてリンゴという果物、つまり ”an apple” と表現できてしまう。
そして、リンゴと梨をまとめて果物、果物と野菜をまとめて青果、青果と魚介、肉をあわせて食材……見事なほどに人はまとめて「同じようなもの」にする才能に恵まれているわけです。