深層学習により“訪問後未利用層”の獲得へ
ポーランド発の「RTB House」は、ディープラーニング(深層学習)に基づいた広告配信事業者だ。あらかじめ決められた方程式によってアルゴリズムを算出する機械学習と異なり、どのアルゴリズムを活用するかも含めてエンジン自体に学習させるため、より複雑化したユーザー行動に沿ったクリエイティブの生成と配信をこれまでよりも高精度に行える。
Cookieユーザーへのインプレッションを買い付ける予測精度に定評があり、広告主の最終成果に結びつくユーザーを高確率でターゲティングできる性能が好評を博している。
「RTB Houseが日本での展開を開始してから、いち早く導入いただいたのがSUUMOでした」と語るのは、Head of Sales, Japanの高橋氏だ。
「SUUMOでは、賃貸住宅の住み替えや住宅購入に向けた情報を提供しているため、ユーザーの検討フェーズは長期にわたります。そのため、ユーザーへのアプローチは長期的かつ継続的に行う必要性がありました。その課題を解決できる手段としてRTB Houseのダイナミックリターゲティング広告を活用いただきました」(高橋氏)
導入に至った理由の一つは、情報とマッチした機能面にある。SUUMOでの賃貸物件の掲載数は500万件~600万件にのぼり、日々更新されている。このデータフィードを活用して、常に入札の最適化を行える強みを持ったRTB Houseは、サイトに訪問しているが活用経験のない“訪問後未利用層”の獲得への期待が持てる。これに加え、成果報酬型の価格体系も安心材料となり、スムーズに導入できたとのことだ。
「RTB Houseは課金体系が柔軟なので、多くの企業が納得して導入いただいています。成果保証ができるエンジンを保有している、ということは裏返すとそれだけ質の高いユーザーへのインプレッションを利益を担保しながら正確に捉えられるエンジンロジックがあります。他媒体と比較しても同等以上のパフォーマンスを提供できます」(高橋氏)
柔軟な入札戦略で新規ユーザーへアプローチ
導入後、深層学習による最適化により、成果は伸び続けていった。そのなかでさらに成果をもう一段階押し上げたのは、入札戦略の変更だ。
元々は成果報酬型に従ったCPA入札でユーザーがコンバージョンするごとに課金されていく手法だったが、バナーをクリックするごとに課金されていくCPC入札の設定に変更。コンバージョンまでを視野に入れるとラーニングが保守的になりがちだが、クリック部分までハードルを下げて設定することで、より新しい面や新たなユーザーへのアプローチが試しやすくなる。これにより、認知未利用層とつながるための配信枠が広がっていった。
また、ユーザーの行動をエンジンに知らせるタグの改修も効果的だったという。RTB House側からの提案で、実施導入時の設置個所から正しいページに実装を変更し、さらに実装タグの種類を増やすことで、タグの発火数は倍以上に。入札戦略とタグ改修の相乗効果で、CPAは導入当初から約50%下がり、配信ボリュームもCPAも配信開始して3年が経過する今でも伸び続ける状態になった。ついにSUUMOでの2020年6月実績ではダイナミックリターゲティング広告の既存主要媒体を抜き最も配信される媒体の一つにまで成長した。
他媒体との併用でリスクヘッジに
RTB Houseのもう一つの利点は、リスクヘッジの要素として機能していることだ。
主要媒体で技術的なトラブルが発生し停止した際に、出稿予算のバランスが大きく偏っていれば、その分予算ポートフォリオに甚大な影響が及んでしまい、売り上げへのリスクが大きすぎる。そのため、基本的には複数媒体の構成によって、予算効率をヘッジするのがベストだ。この観点からも、Google、Facebook、Criteoなどの主要媒体と同等、もしくはそれ以上のパフォーマンス力のあるRTB Houseはポートフォリオを支える太い柱の一つとして機能することができ、より安定した配信につなげられるのだという。
また、成果には日本法人による柔軟なサポート体制も影響している。各企業からのカスタマイズや要望の声も届きやすく、スピード感と交渉力も大きなメリットとして受け入れられている。
海外発の広告プラットフォームが多く存在するなかで、高橋氏は「日本法人は結局のところ『御用聞き』になっているパターンがかなり多い」と話す。RTB Houseでは、クライアントや市場の要望をヒアリングしながら本社との協議を率先して行ってきた。これにより、クライアントと日本チームの協力体制を築きながら、より良いプロダクトを目指すことができるという。
よりコンテンツに近い広告へ
数値としての成果のほか、ラーニングがきちんと機能することで現れている効果に挙げられるのが、広告がユーザーにとってより「コンテンツらしいもの」に近づいていることだ。
以前のリターゲティング広告では、ユーザーが既にECで閲覧した、購入した商品などが表示されることも多かった。しかし、より学習が進んだダイナミック広告ではそのような商品を意図的に省くことも技術的に可能になっている。SUUMOの例でいえば、ユーザーの趣味思考に沿ってレコメンドされた物件は、ユーザー側から見るとコンテンツとして認識されやすく、特にInstagramのフィード画面などで見ると自然で違和感がないとの意見もあった。このような期待値は当初はなかったものの、広告の新たな捉え方としての発見となった。
RTB Houseは主要メディアとの重複を危惧されやすいが、SUUMOにおいては予算内でそれ以上のコンバージョン、ユーザーの獲得が積み増しされている。もちろん多少の配信重複はしてしまうが、SUUMOが行った検証の結論として問題はまったくなく、むしろ被っていても各々の媒体が逐次で全体数が伸びていればむしろポジティブだと受け入れられているとのことだ。実際にRTB Houseを利用している他企業でも同様の感想を得ることが多いという。
「Cookie利用制限」も進化への架け橋
Cookieの利用が制限されることにより、数年後には無くなるのではないかという予測もされているリターゲティング広告。しかし高橋氏は「国によって法律が違うため、GDPR、CCPA、日本の個人情報保護委員会が定める内容を注視する必要はあるが、おおむね視界は良好」という見解だ。ユーザーのプライバシーを侵害せずにCookieの利用が存続するいくつかのパターンを語った。
「サードパーティCookieが無くなり、リタゲが完全に消滅するのではないか、という不安が多くの方にあるとは思います。我々リターゲティング事業者としては、ファーストパーティCookieを持っているプラットフォームとの協業でデータの受け渡し方法を変えることで対策が進んでいくのではないかと予想しています。また、ユーザー情報を保有しているIDベンダーとのデータ共有を実現するのも一つの方法です。
もう一つ対策として挙げられるのは、ユーザーが閲覧しているコンテンツの文脈からユーザーのインタレストを読み取って広告枠を選定する、コンテキスチュアル系の配信ですね。コンテキスチュアルアドとも呼ばれていますが、インタレストアドという言葉も出てくると思います。これを機に各社でアドテクの革新が進んでいる印象があります。
Cookieを利用した広告の配信ができなくなるかどうかについては『シリコンバレーを中心とした技術革新が起きると期待をしているので、むしろ心配していない』というのが現在の個人的な考えです」(高橋氏)
Cookieの利用制限を、各社の競争とプロダクトの成長が促進し、新たな仕組みが生まれるきっかけとして捉えるRTB House。同社としては今後もユーザーの信頼性と効率性を両立したアドテクの普及を先立って推進していく姿勢だ。
RTB House Japanのビジネスに参画するメンバーを募集
新型コロナウイルスの感染拡大が世界に影響を及ぼす中、RTB Houseでは世界25か国、31拠点の全てにおいてリモートワーク体制を構築。日頃からすでにリモートワークと効率を重視した労働文化を推奨していたことで、3月8日から全拠点・全社員が自宅勤務を開始する環境を整えることができたと言います。
現在同社では、日本におけるビジネスにこの新たな環境で携わるメンバーを募集中です。日本はアジア太平洋地域において最も大きな成果を上げている市場であり、その実績はグローバル全体でも3本の指に入ります。スピード感溢れる環境での業務に関心のある方は、こちらからキャリアサイトをご覧ください。