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不確実な時代を乗り越える「マーケティング戦略の大転換」― 突破口はゼロパーティデータとロイヤル顧客(AD)

デジタルが主戦場の今、顧客にとって特別なブランドになるために/Web接客×ゼロパーティデータの可能性

 生活者がオンラインとオフラインを自然に行き来するようになり、Web上での顧客体験への期待値はますます高まっている。そうした背景の下、今年5月にチーターデジタルとSprocket(スプロケット)は協業を発表。Web接客を通してゼロパーティデータを取得し、顧客をより深く理解したコミュニケーション構築に着手している。本記事では、チーターデジタル ジャパンの白井崇顕氏、Sprocketの深田浩嗣氏に、Web接客と顧客体験がどのように変化するかをお話しいただいた。

愛着あるブランドとして、想起してもらえるか?

――両社はこの5月に協業を発表されました。はじめに、その背景にあった課題意識からうかがえればと思います。白井さん、チーターデジタルではゼロパーティデータの取得によるロイヤルティマーケティングを推進されていますが、まず昨今の消費者がどのような顧客体験を求めているか、御社で実施した調査について教えてください。

白井:今年2~3月、チーターデジタルは世界6ヵ国の消費者4,921人に対して調査を実施しました。そのうち日本の消費者809人について、4つほど興味深い観点を紹介したいと思います

 まず購買行動について、52%の方が「自分のライフスタイルに合った商品やサービスがほしい」と答えました。ブランドには、ユーザーのライフスタイルを把握しそれに沿ったオファーをすることが求められています。

 とはいえ、そのためには個々人に関する情報を得ることが必要になります。日本の消費者はグローバルと比較してプライバシーにセンシティブで、今回の調査でもクッキー削除やアドブロッカー利用などの傾向がうかがえましたが、一方で43%の人が「商品やサービスを引き換えにパーソナルなデータ(※1)を提供する」と答えていました

チーターデジタル調査より
チーターデジタル調査より

――パーソナルデータの提供そのものを拒否しているわけではなく、ブランドがそれに見合う価値を提供できているかが分かれ目なのですね。

白井:はい、そのような傾向が読み取れます。3つ目の観点は、パーソナライゼーションについてです。「パーソナライゼーション広告は便利で、それを好む」とする人は15%に留まり、広告に追いかけられることへの嫌悪感は高いことがわかりました。

 最後にロイヤルティに関して、72%の人が「2~5つのブランドにロイヤルティを持っている」と答えていました。この“愛着あるブランド”に入ることができたブランドは、商品やサービスに対するフィードバックや、購入者のパーソナルデータを提供してもらいやすくなり、一層強いブランドを構築していく好循環を生むことができるでしょう。

チーターデジタル ジャパン 日本法人社長 兼 最高執行責任者 白井崇顕氏
チーターデジタル ジャパン
日本法人社長 兼 最高執行責任者 白井崇顕氏

特典やポイントは響かなくなっている。ブランドに求められる変化

――たしかに、愛着があり信頼しているブランドなら情報提供もやぶさかではなく、むしろ積極的にアプローチを受けたい、と思う心理は納得できます。

白井:そうですね。この調査ではブランドに愛着をもつ理由も聞いたのですが、47%の人が「優れた製品やサービスを提供してくれるから」と答えた一方、「ポイント付与や特典があるから」という人は8%と低い状況でした。

 いわゆる金銭的メリットを付与してロイヤルティを育てるのは、これまで長く日本で実践されてきた手法です。しかしそれは現在の消費者から見るとすでに魅力的ではなくなっている、と読み解けますよね。だからこそ私たちチーターデジタルでは、金銭的メリットで顧客をつなぎ留めようとするのではなく、顧客を深く理解することで愛着や信頼性を育てていく方法を提唱し、そのためのプラットフォームを提供しているのです。

チーターデジタル調査より
チーターデジタル調査より

――なるほど。一方、10年以上前からWeb接客ツールを提供されてきたSprocketさんでは、企業と顧客との関係構築をどのように捉えているのでしょうか。

深田:当社でも長い間、金銭的メリットによる関係構築に違和感を持っていました。白井さんが話された課題意識は、私もずっと感じてきたことですし、今回の協業の根幹にも、この思想が完全に共通していることがあります。

 考えてみれば、店頭でお客様に面と向かって「今、決めてもらえればポイント10倍!」などオファーすることはないですよね。それなのになぜか、Web上ではこうした施策ばかり打ってしまいます。Webであっても、企業がユーザーと「信頼」でつながることはできるはず。当社のプラットフォーム「Sprocket」を“おもてなしデザインプラットフォーム”と謳っているのも、根底にそのような考えがあるからなのです。

――言われてみれば、なぜかWebでは割引やポイントなどの経済的メリットばかり強調されている感じがします。

深田:冷静に考えればおかしな話なのですよね。とりわけ接客の場がスマホのようなパーソナルなチャネルになると、余計に“1対1”でやりとりしている感覚が強くなります。この時代だからこそ、顧客を深く理解した上でその人に合った接客や提案をし、信頼を築くことに目を向ける必要が高まっていると思います。

Sprocket 代表取締役 深田浩嗣氏
Sprocket 代表取締役 深田浩嗣氏

行動の裏にある「心理」を捉えることができているか?

――では、ロイヤルティを高めていくための顧客体験は、具体的にどうあるべきなのでしょうか。また、そうした顧客体験を創るにあたって障壁となっているのは、どんなことなのでしょうか。

白井:実は、日本におけるロイヤルティマーケティングは、30年前から大きく変わっていないんです。こちらは、弊社でまとめ直したロイヤルティプログラムの歴史なのですが、ロイヤルティプログラム自体は、約3世紀の歴史があります。

 海外では現在、ユニークな顧客体験をリワードとするロイヤルティプログラムも出てきていますが、日本の多くの企業が実践しているロイヤルティプログラムは、約30年前に出てきた「ポイントカード」をベースとしたものです。それらの ロイヤルティプログラムは基本的に、購入金額や頻度のような、経済ロイヤルティと行動ロイヤルティで測られているものがほとんどです。「年間30万円以上の購入で次のランクに上がる」といった仕組みが典型的で、RFM分析をベースにしたものだと思います。

 ここで決定的に欠けているのは、心理ロイヤルティです。なぜ買ったのか、なぜ好きなのかという心理的な情報に着目せず、お客様をグルーピングしてしまっています。

 心理情報を補うためにアンケート調査を行う例も増えているものの、顧客の立場で考えると、無味乾燥な設問に淡々と回答していくのは、あまり楽しいものではないですよね。それがフリクションだと思います。

 そこでチーターデジタルのプラットフォームでは、スワイプやクイズなどゲーム性のある85種類ものギミックを使い、楽しみながら答えてもらってお客様の心理を知ることを大切にしてきました。顧客の許諾を得た上で、その人に聞かないとわからない情報=ゼロパーティデータを取得し、その分析に基づいたアプローチを実践しています。

“Webはセルフサービス“で良いのか?丁寧な接客がもたらす可能性

――深田さんは、Web体験における障壁についてどのように考えていますか。

深田:現在Webで展開されている多くのサービスは「Webという場はセルフサービスで機能するものだ」という不思議な前提の影響を受けていると思います。これが今、Web体験における大きなフリクションになっているのではないでしょうか。

 Webそのものが、デジタルに強く能動的に情報摂取をするアーリーアダプターから発展してきた歴史があるからかもしれませんが、顧客が自分で探すことを前提に設計されているふしがあります。しかし実際に店頭での接客を想像した場合、お客様が受動的でも、こちらからの問いかけによってコミュニケーションはいくらでも深めることはできますし、また購入というコンバージョンを高めることもできています。

――では、「Sprocket」を通じて実現する、障壁を取り除いた顧客体験についてもお聞かせください。

深田:「Sprocket」では、Web接客を通じて、たとえば「何を探しているのか」「それは贈答用なのか自分用なのか」といった質問を通してインタラクティブな接客を実現しています。店頭では、手に取った商品をカゴに入れず棚に戻しているなど、お客様の行動を観察から心理を推察することもできますが、デジタルでは難しいですよね。お客様に聞かなければわからない、聞いたほうが早いということはたくさんあると考えています。

 金銭的メリット以外の方法でお客様の満足度を高め、結果的にビジネス成果も上がる顧客体験の創出に、当社はこの数年こだわって取り組んできました。今回の協業の理由にもなりますが、目指すべき世界観や思想を同じくするチーターデジタルさんとお取り組みさせていただくことで、この方向性をより進められると考えています。

Web接客ツールを通じて、ゼロパーティデータ取得が可能に

――では、協業によってどのような仕組みが実現するのでしょうか。連携の概要をデータの流れとともに教えてください。

白井:「Sprocket」に、チーターデジタルのプラットフォーム「Cheetah Experiences」を組み込むことで、企業は「Sprocket」上で当社の様々なゼロパーティデータ取得のギミックを利用できるようになります

 また、得られたゼロパーティデータを基にした施策をストレスなく設計することも可能です。施策を展開した際の顧客の行動データや実際の施策の効果といったデータは、「Sprocket」および「Cheetah Experiences」に格納されるため、単発で終わらない顧客体験の創出が実現します。

協業のイメージ図
協業のイメージ図

白井:先ほどお話したように、当社は顧客に楽しんでもらいながらゼロパーティデータを取得できるギミックを有していますが、それを表現するチャネルは固定していません。クライアント企業のWebサイトやアプリなど、さまざまな場に組み込むことができるのですが、その中でもWeb接客ツールはエンゲージメントを高める場として親和性が高いと考えていました。深田さんとお話した際に、両社が目指している世界観が一致していることがわかり、協業を進めていくことにしたのです。

 現在はちょうど技術検証が終わり、もともと両社とお付き合いがある企業を皮切りに、提案を進めているところです。

――現在はコロナ禍により、ECやWebサービスの利用者が増えている状況でもありますね。

深田:はい。初めてWeb接客を体験する方々も増えているので、そうした方の不安の解消にもお役に立ちたいと考えています

 我々はリアルと遜色ないWeb接客の実現に努めてきましたが、やはりデジタルならではのコミュニケーションのコツもあると感じています。チーターデジタルさんはその部分に精通しているので、ギミックを通したインタラクティブな対話や、ゼロパーティデータを踏まえた最適な提案を実現するのがとても楽しみです。

白井:深田さんが指摘されたように、接する方の不安を汲んで解消することも、関係構築においてとても大事です。人間の心理は、当然ながら楽しい状態や快い状態だけではないので、マイナス面もフォローできる「Sprocket」のツールとしての性能にも期待しています。  

 以下のデモビデオは、Web接客ツールを使って「どのタイミング」で「どんなゼロパーティデータ」を収集することができるのか示したものです。カゴ落ち時にポップアップで「買わない理由」を問いかける、サイトトップに訪問したお客様に「今回の買い物の目的」を尋ねるといった使い方ができます。従来、オンライン上の行動データだけでは判断が難しいような、顧客の心理状況を自然な形でデータとして取得することで、その後のコミュニケーションや、商品のレコメンドなどに活かすことができます。

Cheetah Experiences × Sprocket デモ動画

 こうした機能は、アパレルやリテール、トラベルなど、顧客にとっても店員との会話を重視する業界や、複雑な商品であるがゆえに説明を必要とする業界で特に効果を発揮すると思います。

顧客の望みにストレートに応えるマーケターを後押ししたい

――最後に今後の展望と、協業を通してお客様、クライアント様にどのような価値を提供していきたいか、お聞かせください。

白井:これもSprocketさんとの共通点のひとつですが、以前から両社ともカスタマーサクセスに力を入れていて、導入後の運用支援にも手厚い体制ができているので、企業のロイヤルティマーケティングを長期的にサポートしていきます。

 これまでもマーケターは顧客理解に取り組んできたと思いますが、具体的な施策に落とし込む段階で、途端に滞在時間やCVRなど企業視点の目標ばかりを追いかけてしまい、両者の間にギャップがありました。今回の協業で、お客様が望むことにストレートに応えてビジネス成果を上げる道筋を確立し、このギャップを埋める力になれればと考えています。

深田:リアル店舗では店舗の維持や接客のために多くのリソースを割いているのに対し、デジタルだとそれはぐっと低くなります。その差分は、これまでは主に新規獲得の広告に費やされてきましたが、新規に偏重したアプローチは、ビジネスとして健全な姿とは思えません。今後の人口減少を考えても、お客様に喜んでもらった上でロイヤルティが形成されるような、一歩先の顧客体験に目を向けるべきです。今回を機に、そのような接客、マーケティングを今まで以上に支援していきたいです。

――本日はありがとうございました。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

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MarkeZine(マーケジン)
2020/09/17 10:00 https://markezine.jp/article/detail/34030