あらゆる業界での盲点 オンライン接客特有の「言葉の壁」
続いては、非対面での説明の難しさ、自分の要望の伝わらなさに四苦八苦しているFu-manさんです。

オンライン接客を体験して、これまでの買い物との違いに気づいたFu-manさん。自分のパソコンの画面にはスタイリングされたマネキンやカタログといった参考情報はなく、気になる商品を手にとり、触って、確かめることもできない……。そんな環境下での買い物のせいか、「自分の好みのデザインや求めている質感を伝えるのが大変」「スマホの料金システムが複雑で、変更したいことを共有できず、結局店舗で更新することに」といった、言葉の壁による失敗体験の声が目立ちました。
単なるオンラインショッピングと違い、リアルで実際に買い物をするのと同じように、スタッフのサポートを受けられるのがオンライン接客の最大の売りです。
しかし、実際のところは、「コレと同じ生地感のものが欲しい」とか、「アレに近い色はないの?」など、これまでリアルで買い物をする際に活用していた「実物+こそあど言葉」のコミュニケーションスキルはまったく通用しません。すべてを明確に言語化しなければならなくなって、改めて自分の要望を適切に伝えるボキャブラリーの乏しさの壁にぶつかっているようです。
中でも、生地や色、サイズ、体型など、様々な情報を伝える必要があるオーダーメイド商品や、楽器やスマホなど専門知識のやりとりが必要な商品はさらに難易度が上がります。購入する際に、買い手と売り手の双方が細かなニュアンスを言葉でやりとりしなければならないことが多く、不満を超えて挫折に至るケースが散見されました。
「オンラインでしか買い物ができない」という状況下で生まれ、リアルと同等、あるいはそれ以上のCXをもたらすものとして期待されているオンライン接客。しかし、そこには、売り手と買い手が五感を共有しながらコミュニケーションを行うという、リアルの場での買い物体験にある最大の特徴が欠如しています。
20~40代の男女に多く見られた、このFu-manさん。幅広い世代から同じ不満の声が聞こえてくることからも、買い物のスタイルやジャンルを問わず、オンライン接客全般に共通する課題と言えそうです。
新たなCX発想のヒント
五感すべてを使った体験をオンライン上で再現するためには、VR用触覚グローブのような感覚を「知る」ツールの活用とあわせて、「伝える」「共有する」機能のサポートを充実できると良さそうです。たとえば、事前にサンプルを送付する、肌や体型のデータを共有するほか、顧客とスタッフの画面が連動して位置や指差しで商品を示すことができるUIの活用など、オンラインとオフラインを織り交ぜた「コミュニケーションハブの代替機能」を付与することが、より良いCXの実現に不可欠な要素となるかもしれません。