生活者向け5媒体のデジタルマーケティングを推進
MarkeZine編集部(以下、MZ):ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)さんでは、Appier(エイピア)さんのAIソリューション「AIQUA(アイコア)」と「AIXON(アイソン)」をメディア事業に活用されているそうですね。今回はベネッセの上野さん、Appierの小林さんに、2年にわたる取り組みと成果をうかがいます。まず、上野さんのご担当領域をうかがえますか?
上野:私が所属しているKids & Family事業本部では、主に妊娠・育児中の方向けの「たまごクラブ」「ひよこクラブ」、犬や猫を飼われている方への「いぬのきもち」「ねこのきもち」、そして家庭をもつ女性向けの「サンキュ!の5媒体で、メディアを軸にWebやアプリ、またECなど幅広い派生事業も展開しています。本部全体では300人ほどの規模となっており、私はその中のDXを推進するチームでデータを活用したマーケティングを担当しています。随時、各媒体のメンバーと連携して施策を進めています。
MZ:Appierのプロダクトを導入する前は、どのような課題があったのでしょうか?
上野:ベネッセでは生活者向けの事業でも、当社の主軸である通信教育の事業でも、顧客のライフステージごとの課題を解決し、生涯を通じて接点を持つことを目指しています。それによって、トータルのLTVを向上させる考え方があるので、たとえば小学生向けの「チャレンジ」では、小1、2、3……とマーケティングの施策を変えています。
一方で「たまごクラブ」なら、妊娠何ヵ月・月齢何ヵ月かという月単位で困りごとがまったく違うので、その粒度でアプローチをパーソナライズする必要があります。それを「タイミングキャッチマーケティング」と称して以前から取り組んでおり、的確に実現できる基盤を探していました。
700ものセグメントに最適にアプローチする基盤が必要
MZ:月単位で求められている情報や提案が変わるとなると、相当な数のセグメントが出てきますね。
上野:そうなんです。単純に妊娠・育児中の方でも、月単位だけでなく家族の状況によっても課題は変わります。専業主婦の方か共働きか、ペットがいるのかなども含め、5媒体横断でセグメントを切っているので、今は約700を見ています。
MZ:700セグメントですか! それは相当ですね。データ活用の基盤を探していたということで、そこに「AIXON」と「AIQUA」が合致したと?
上野:はい。注目したのは、AppierさんのAIによる名寄せの技術です。当社では、会員の方なら媒体を横断してユニークIDを付与できているのですが、会員にならずに各媒体のサイトを閲覧していたり、Webもアプリも利用したりしていると、精緻なターゲティングができません。その名寄せができるDMPを探す中で、AI類推によって80%の精度でクロスデバイスでの名寄せができるという、Appierさんの技術を知りました。
MZ:それで、既存のDMP導入ではなくAIの活用に着手されたわけですね。
上野:そうですね。実は今現在もアップデートをしていただいているんですが、セグメントの切り分けを担当していた身としては、手動でキャッチアップするのは限界があると感じていました。最初にAppierさんの話を聞いた際、DMPや広告の会社というよりはAIソリューションの会社だと説明をいただき、それなら元々やりたかったことをカバーした上で、分析とアプローチのパーソナライズをAIで効率よく進められると期待しました。
外部のサイトでのユーザー行動も捉え、顧客理解を深化
MZ:「AIXON」および「AIQUA」導入のプロジェクトの流れを教えてください。
小林:ちょうど2年前、2019年の2月ごろからプロジェクトを開始して、最初に指定いただいた「出産予定日登録」や「お母さんの誕生日登録」といったカスタマイズ機能を実装したのが4~5月あたりでした。データを蓄積しながら、足りない要件を実装していき、本格的な運用を開始したのが2019年末です。その時点で700セグメント、広告配信の接続先で1,500程度になり、以降は少しずつ改善しながら拡張しています。
MZ:具体的に、2つのソリューションがどう活用されているか、うかがえますか?
小林:データサイエンスプラットフォームの「AIXON」は、名寄せデータから作成したセグメントをGDNやYDN、Facebook広告など各種の広告プラットフォームと連携し、広告のパーソナライズに活用しています。一方カスタマーエンゲージメントプラットフォームの「AIQUA」では、記事コンテンツやポップアップ通知など、Webとアプリ接客のパーソナライズを実践しているという形ですね。
MZ:記事コンテンツというのは、たとえば「たまごクラブ」のサイトを見ているユーザーに、そのセグメントの人が関心を持ちそうなベネッセ内の別の記事をレコメンドする……といった形ですか?
小林:そうですね。別途、外部のメディアでのユーザー行動も細かく把握できるので、各セグメントの方がベネッセさん内ではどんな記事やワードに注目し、外部サイトでは何を閲覧しているのかを掛け合わせて分析し、施策に反映しています。
広告配信のCPAが最大6分の1まで改善
MZ:本格運用をスタートして約1年となりますが、広告配信などにおいて現時点での成功例や成果をうかがえますか?
上野:施策のひとつで、「たまひよの写真スタジオ事業」の広告配信のCPAが大きく改善しています。たまひよで運営している写真スタジオから、妊娠中期・後期の方にはマタニティフォト、妊娠後期~新生児の時期の方にはお宮参り、生後3~6ヵ月でハーフバースデー、7~12ヵ月で1歳バースデーのキャンペーンと切り分けて広告配信をしました。結果、Facebook/Instagram広告のCPAが、通常の妊娠中・0歳向けのオーディエンスターゲティングと比べて2分の1程度まで下がりました。最も効果があったときで、6分の1と手応えのある成果がありました。
上野:別の事業では、同様にお子さんの月齢や年齢と、AIによる閲覧記事文言の類推で「教育」や「記念日」などを掛け合わせたセグメントを作成し、それに合わせたクリエイティブを配信しました。こちらは3分の1程度にCPAが改善しています。
MZ:それは目に見える改善ですね。クリエイティブの改善は、具体的にどのようにされているのですか?
上野:AIXONでセグメントごとに、ベネッセ内の膨大な記事の何を読んでいるかを分析・可視化できるので、そこから媒体の担当者を交えてユーザーの関心や嗜好の変化を読み取っています。それを元に、響きそうな文言を広告に盛り込んでいます。この分析結果は、記事の企画にも反映しています。
コロナ禍で加速した顧客心理の移り変わりを把握
MZ:Appierのツールを使う上で、今はどのようなプロセスを踏んでいるのでしょうか?
上野:媒体を運営するメンバーからの要望に応じて、我々データ運用のメンバーがセグメントを作成し、AIXONで連携している広告プラットフォームで運用したり、AIQUAでのキャンペーンを作成・実践したりしています。日々、媒体のメンバーと実績を確認しながらPDCAを回しています。
MZ:媒体が多岐にわたるので、分析・活用しやすい形でデータを蓄積していくにも、部署間での相談や調整が必要ですよね。
上野:その通りですね。部署ごとに違う形でデータをもっていたりすることに加えて、やりたいこともデータに向き合う姿勢もやはり違います。データを利活用する視点にどのくらい重きをもってもらいたいか、あるいはユーザー属性を把握する粒度をどのくらい細かくしてもらいたいか、そういった部分で足並みをそろえるのに苦労しました。たとえば「主婦」といってもひとくくりにはできないので、セグメントの類推も難しかったです。
MZ:なるほど。そうした立ち上がりの難しさを超えて、現時点での手応えは?
上野:まだ試行錯誤していますし、Appierさんとも現在進行形でディスカッションや提案をいただいていますが、顧客理解が深まった手応えはあります。本格運用を始めてすぐにコロナ禍に突入したので、生活者の興味関心の幅が広がり、また移り変わるスピードもぐっと加速しました。その変化をリアルタイムでつかめるのは、顧客への貢献という点で力になっていると思います。
他の事業とも連携した全社プラットフォームを見据えて
MZ:では、お二人からそれぞれ今後の展望をお聞かせください。
上野:まずは、Kids & Family事業本部でのタイミングキャッチマーケティングを十分に運用できるように育てていきます。直近では、各セグメントの興味関心を私のチームで読み解くのではなく、AIXONのAIインサイト機能で自動分析する実験を計画中です。他にもロイヤルティのランキングをAIで類推できるそうなので、その機能にも期待しています。
中長期的には、通信教育や介護など他の事業本部にもデータ利活用の知見を共有して、顧客と生涯にわたって接点を持てるプラットフォームの構築を目指したいです。また、広告やWeb接客のパーソナライズにとどまらず、たとえばIoTデバイスやスマートスピーカーなどにも範囲を広げて、5G時代を見据えた顧客体験の向上に挑戦したいですね。そうした新しい動きにも、Appierさんから先進的な技術や活用の提案をいただければと思います。
小林:我々としてもぜひご協力したいと思っています。ベネッセさんの最先端の取り組みに並走することで、機能改善をはじめとして我々の製品全体の進化にもつながっています。
Appierは、お客様の声を製品に反映すると同時に、グローバルでプロダクトをアップデートしています。今後も幅広い企業のマーケティングをお手伝いし、より良い成果を出していただきたいと考えています。パーソナライズされたアプローチは、事業規模を問わず多くの企業で命題になっています。AIのテクノロジーを駆使して、その解決に取り組んでいきます。