顧客データの統合・可視化のニーズが激増、その理由とは
近年、企業と顧客との接点は年々増加・多様化している。自社ECサイトやアプリはもちろん、FacebookやTwitter、Instagram、TikTok、YouTubeなどのSNSも顧客との大切なチャネルとなっており、これらを通じて顧客の行動データやコミュニケーションデータも日々蓄積されている。
こうした状況を踏まえ、マーケティングソリューション側からも、データ活用を支援するさまざまなテクノロジーが登場している。これらを活用している企業も多いだろう。
マーケティングテクノロジーを分類した「マーケティグテクノロジーカオスマップ」を毎年発表していることでも知られるアンダーワークスは、2006年に設立されたデジタルマーケティング分野の知見を強みにするコンサルティング企業だ。
「戦略から実行まで」の知見をワンストップで提供することで、企業のマーケティング活動全般を支援し、日本企業の海外進出プロジェクトを手がけることも多いという。同社に、ここ2~3年で多く寄せられるようになった声がある。それが「顧客データの統合」「顧客を可視化したい」というものだ。
アンダーワークスでは、日々蓄積されるさまざまなマーケティングデータを適切に統合管理して活用する取り組みを「マーケティングデータマネジメント」と定義している。マーケティングデータマネジメントに取り組みたい企業が増えている理由を、同社代表取締役 田島学氏は次のように述べる。
「顧客と接するデジタル接点は年々増えており、それに伴いデジタルの重要性も増しています。特にコロナ禍でオフライン接点がデジタルへと移行するなか、その傾向は強まっています。一方で、年々複雑化するマーケティングテクノロジーにより、ツールに蓄積されるデータは分散化、サイロ化する傾向にあります。これらを統合することで、マーケティング活動の成果が上がるのでは、という期待を持ちマーケティングデータマネジメントに取り組む企業、取り組みたい企業が増えていると考えています」(田島氏)
約9割がマーケティングデータマネジメントを重要視
では、マーケティングデータマネジメントを行うことで、企業は具体的にどのようなメリットを期待しているのか。実際にどの程度取り組みは進んでいるのか。取り組みに当たっての課題は何か。
こうした実態について深堀するためにアンダーワークスは、日経BPコンサルティングと共に国内上場企業約4,000社に対し調査を実施。約300社から回答を得た。ここからは、調査結果をもとに、マーケティングデータマネジメントをどのように実現していくべきか、田島氏が語った知見を共有したい。
あちこちに分散しているマーケティングデータを統合したら、誰もが「何かいいことが起こるはず」と期待するはずだ。より詳細な顧客像の可視化や、レコメンドの精度向上を期待するケースもあるだろう。
以前、田島氏が米国企業のCMOやCDOと話したところ、「将来的にAIが普及すると、自社のデータの量と質を担保しておくことが差別化につながる。今のうちに、自社のマーケティングデータをしっかり統合管理することが必要だ」との考えも多く見られたという。
では実際に、企業内にはどのようなマーケティングデータが存在しているのだろうか。実施したアンケートで自社が保有しているマーケティングデータを尋ねたところ、上位3つは「Webサイトからの問い合わせデータ」「営業マンの商談管理や顧客応対データ(CRM)」「名刺データ」となった。
平均すると6.4種類のマーケティングデータを保有しており、「少なくとも、6〜7種類のデータを何らかの形でリアルタイム連携していく必要がある」と田島氏は語る。
なお、保持しているデータ種類は企業規模に応じて増えており、年商5000億円以上の企業になると、2桁以上の種類のデータを保持しているそうだ。
この状況を踏まえ、「マーケティングの成果・向上に対し、マーケティグデータマネジメントはどれくらい重要か」を尋ねたところ、「非常に重要」が53%、「重要」も34%で、合計すると87%が「マーケティング成果において、データマネジメントが重要」と考えていることがわかった。
ただし、重要度については業種によってバラつきがあり、「コンピュータ製造業」「情報通信業」は大多数が「非常に重要」と回答している反面、不動産業や建設業では、あまり重要視されていないことがわかった。
9割近くの企業が「データマネジメントがマーケティングの成果に重要」と答えてはいるものの、業種の特性によって考え方に差があるわけだ。
データ活用を重視する企業の約半数「具体的な施策に着手」
重要視されるマーケティングデータマネジメントだが、取り組みはどこまで進んでいるのか。
「実は予想よりも取り組みを進めている企業は多く、45%は『何らかの形でデータ統合・連携に着手』しており、25%の企業は『今後1年以内に取り組む予定』との回答です。つまり、『マーケティングデータマネジメントが重要』と回答している企業が約9割で、そのうちの半数は具体的な取り組みを始めている状態です」と田島氏は説明する。
内訳を見ると、先行して取り組みを始めている企業は、BtoBよりもBtoC企業が多く、着手しているのは全体の53%。また年商2,000億円以上の大手企業に限ると、62%が何らかの取り組みを始めているという。
データマネジメントへの取り組みで期待する成果は「顧客接点の把握、BIでの顧客の見える化、ニーズ分析・把握」が64.0%でトップ、次いで「社内業務効率化・無駄の削減と、部門間連携の促進」(52.6%)、「施策の効果測定なども含めた、PDCAサイクル実現」(50.0%)と続いた。
ここでの「社内業務効率化・無駄の削減」とは、顧客データやマーケティングデータの整理、分析にかかる作業のことだと田島氏は説明する。
田島氏が関わった案件でも、ExcelやCSVフォーマットでデータが分散しているケースが大半で、レポーティングのためにわざわざデータを統合して分析する作業が発生しているという。データを統合管理することで、こういった無駄を省き、効率化してPDCAを円滑に進めたい企業が多いと考えられる。
一方で、メディアでうたわれるような「AIの活用」や「オフラインとオンラインを連携し、オムニチャネルでデータを統合する」などの取り組みは、次の段階と考えている企業が多い。こうした目的でデータマネジメントを実際に進める企業は、まだ少ないのが現状のようだ。
データの「部分統合」と「統合連携」の間に大きな壁
今回、アンケートに回答した上場企業の大半は「マーケティングの成果に対してマーケティングデータマネジメントは非常に重要」と考えており、その半数以上が「実際に取り組んでいる/取り組む予定がある」としていることがわかった。
田島氏はこれらの企業に対し、さらに一歩踏み込んで、マーケティングデータマネジメントの成熟度モデルを0~6までの7段で階示し、「自社のデータマネジメントの成熟度はどこまで進んでいるか」と尋ねてみた。
成熟度ステージの0は「マーケティングデータを収集できていないデータ不在」の状態で、ステージ1は「個別にデータが散財し、連携できていない」状態、ステージ2は「部分連携」、ステージ3は「多くのデータが結合集約されており、活用はこれから」、ステージ4は「見える化・分析に活用されている」状態、ステージ5は「分析だけでなく、施策にもデータを活用している」状態、ステージ6は「AIやIoTなど先進的な取り組みを行っている」状態としている。
アンケートの結果、圧倒的に多かったのがステージ2で53.7%。次のステージ3に進むと、数は一気に減って4.8%となる。自社の成熟度をステージ3以上としている企業は約15%で、半数がステージ2で足踏みしている状態といる。
「つまり、ステージ2と3の間には、大きな“壁”がある状態です。主要なものは連携しているものの、データが分散しており、マーケティングデータマネジメントとして全体を統合していこうとした時、なかなか進めない。ここで悩んでいる企業が8割以上もいる。では、その壁は何なのか、調査を進めることにしました」田島氏は語る。
課題は「人材不足・専門知識不足」
アンケートで「データマネジメントに取り組む際の課題は何か」と直球をぶつけてみたところ、回答は「組織間の連携や部門間連携」(39.7%)、「様々なテクノロジーに対する専門知識や人材」(34.9%)、「戦略立案や中期的なロードマップの策定」(31.3%)の順で多かった。
データを収集するマーケティングツールがさまざまな部門で導入されており、多くの企業は必然的にデータが分散している状態だと考えられる。こうした状態でデータを統合管理するには、部門協力が欠かせない。だが、なかなかうまく統合できず、組織間や部門間での調整で時間がかかってしまう。これは想像に難くないだろう。
「意外だったのは、年商2000億円以上の大手企業に限定して集計したところ、部門間連携の課題よりも『専門知識や人材が足りない』という課題の方が上回ることがわかった」ことだと田島氏は語る。
次々に新しいSNSやテクノロジーが登場するため、どんなデータが蓄積されて、どうやったら取り出せるのかわかる人がいない。これは企業規模に関わらず、共通する課題でもあるだろう。「人材不足、専門知識不足でデータマネジメントが進まず、苦労されている企業が多いと感じています」と田島氏も理解を示す。
3つ目に回答が多かった課題「戦略立案や長期的なロードマップの策定」は、データマネジメントに限らず、企業・組織のITをテコ入れする際に必ずついて回る問題だ。
マーケティングデータの統合管理は、比較的最近取り組み始めた企業が多く、「3年後にどこを目指していくのか」といったゴールがなかなか見えにくいという。見通しの悪さが、データマネジメントを阻む課題として頑然と現れていると思われる。
そして、これはデータマネジメントを牽引できるリーダーがいないとも言い換えられるだろう。マーケティングデータマネジメントにダイレクトに直結する課題として、人材不足・専門知識不足が大きく影響していることがわかる。
「これはマーケティングデータマネジメントに取り組む際の大きなポイントです」と田島氏は指摘する。
ハードル越える鍵は「CDPの知識の有無」
一口に「専門知識」といっても、具体的にどのような知識が不足しているのだろうか。
田島氏は、そのキーワードとして、データマネジメントをするための「集約基盤」、これに関する知識が不足しているとの仮説を示す。
分散しているデータを集約するには、当然ながらその集約先となる基盤が必要だ。これに関してはカスタマーデータプラットフォーム(CDP)が米国では3〜4年前から注目され、本国内では2年ほど前から話題に上るようになった。
CDPとは、それぞれのツールに分散したデータをAPI経由で連携し、リアルタイムに収集・統合する基盤を意味する概念だ。単にデータを収集するだけでなくて、「カスタマー」と銘打っているとおり、ユーザーのメールやクッキーデータなどさまざまなデータを顧客IDのような軸で紐付け、統合する機能を備えている。
そこで、データマネジメントに対し、「どのようなデータ基盤を使っているのか」を尋ねたところほとんどの企業が「スクラッチ開発」や「汎用のクラウドインフラ」、あるいはOracleのような汎用データベースを挙げた。また、3割の企業が、そうした基盤を「利用していない」と答え、CDPの利用はほとんど進んでいないことがわかったという。
「この2年ほど、さまざまなベンダーがCDPを宣伝してきましたが、あまり認知・理解されていない状況が明らかになりました」と田島氏は語る。
アンケート回答者に「CDPについて聞いたことがあるか。理解しているか」と尋ねると、「名前は聞いたことがある」「なんとなく理解している」という声が過半数で、「ある程度理解している」「詳しく理解している」という回答は全体の16%だった。
ここで、マーケティングデータマネジメントの成熟度がステージ3であると回答する企業が15%であったことを思い出してほしい。CDPについて認知・理解している割合とほぼ一致している。ここから田島氏は一つの考えを提示した。
「データマネジメントに取り組み、ステージ2から先に進んでいく際に『どの基盤を使えば、顧客の見える化が実現できるか』という観点でさまざまなツールを調べ、知識を蓄えていき、『CDPとは何か、これを使えば何ができるのか』に気付いて実際にその効果を考えて見ることが、取り組みに当たって一つのヒントになるのではないでしょうか」(田島氏)
つまり、知識や人材不足を補い、目指すゴールに到達するために、CDPについて深堀することが、マーケティングデータマネジメントのハードルを越える一つのヒントになるというのだ。
今後もSNSや顧客チャネルは次々と登場し、コミュニケーション手段は変化していく。しかし、マーケティングデータを統合管理するというコンセプトや基盤のあり方が、大きく変化することはないだろう。もし、マーケティングデータマネジメントに取り組むなかで、壁にぶつかることがあれば、CDPという選択肢をより深堀りしていくのも一手だろう。
講演で紹介された企業調査の詳細をチェック!
田島氏が本講演でも紹介した調査の詳細をご覧いただけます。顧客データマネジメントの市場動向や、大手企業の顧客データ管理への取り組みの実態把握にぜひご活用ください。
「マーケティングデータマネジメント取り組み実態調査2021年版」全編