クラウド型にしたことで誕生した「賢くなるカメラ」
江端:まずは会社と、「Safie(セーフィー)」について教えてもらえますか。
佐渡島:セーフィーは2014年に、前職の同僚だった森本数馬、下崎守朗と共に共同創業した会社です。我々が提供する「Safie」は、クラウド録画サービスです。一般的にクラウド型カメラと呼ばれるカメラで撮影した映像データを、インターネットを介してクラウド上にアップロードし、パソコンやスマートフォンでいつでもどこでも確認できるような仕組みを作っています。
ただし、基本的に自社でカメラは製造していません。Safie Software Module(セーフィーソフトウェアモジュール)というカメラへの組み込みOSを開発し、カメラメーカー向けに配布しているのが特徴です。このモジュールにはネットワーク制御、セキュリティ管理などサービスに必要な要素をすべて揃えているので、ユーザーはインターネットに接続すると簡単にセキュアで高性能なサービスが受けられ、ここにAIやAPIという形で業務に組み込むことも可能です。
我々のビジネスモデルとしては、OSをカメラメーカーに無償で提供し、そこにクラウドサービスを録画の保存期間に応じて月額の定額制サービスとして提供しています。クラウドならではの拡張性によって、機能のアップデートや新たなオプション機能も追加可能なので、進化し続ける「賢くなるカメラ」として、ライブ配信サービスやPOSレジ、顔認識技術と連携し新しいアプリケーションの開発を日々行っているような状況です。そうしたビジネスモデルの裏には、メーカーの「モノ売り」からの脱却を支援する想いも込められています。
江端:マーケットの状況はいかがでしょうか?
佐渡島:クラウド型カメラはまだまだ普及していませんが、昨今急速にクラウド上に映像をアップしていく流れが進んでいて、当社の毎月の出荷台数も1万を超えどんどん増えてきています。そんな中、現在のクラウド録画サービス市場における当社のシェアは40%を超え1位を獲得しています。
営業戦略としては、基本的に大手のエンタープライズ企業とのOEM展開で販路を広げ、一気にマーケットを広げていっています。OEMモデルでは、当社からの卸売契約を結ぶのですが、企業によって売り方含めソフトウェアを変えていけるのが大きな特徴です。
たとえばNTT東日本さんの場合は、自分たちでカメラを持っていないので、我々が他企業からカメラを仕入れて卸し、ハードとクラウドセットでサービス提供しています。セコムさんの場合は、自分たちでハードを作っているので、ソフトウェアだけプリインするという具合です。
一方SMBにあたる中小企業に対しては、自社ECサイトや電話営業で流れてくるものに自動的にアカウント付与して出荷する形で対応し、双方の中間層に位置する企業については、パートナーである販売代理店網で一気にセールスをかける形でやっています。
江端:そうした営業戦略がシェアを伸ばされている要因でしょうが、事業を広げていく上で何かターニングポイントとなる出来事はありましたか?
佐渡島:事業拡大において、出荷台数と資金調達、チーム構成がポイントだと思っていて、それは我々の創業からの歴史にも通じています。それで言うと2017年に、オリックスさんや関西電力さんなど5社と資本業務提携を結び、9.7億円の資金調達を実現したことが、ひとつのターニングポイントでしたね。
それまでの3年半ほどはなかなか製品が売れず、色々な困難に直面しました。最初の頃は、クラウドカメラがWi-Fiにつながりにくい、夏の暑さでカメラが故障するというハードウェアの不具合に巻き込まれ、エンジニア総出で対応に追われることも。それらの問題を解決するために当時資金の大半を投入してLTE搭載で屋外の厳しい環境に耐えられる「Safie GO(セーフィー ゴー)」を開発しました。
売上が上がらなければ資金調達も苦しくなる。ベンチャーならではの二重苦、三重苦に陥りましたが、それをなんとか乗り越えて大型の資金調達につなげ、そこからカメラの小型化が進み一気に出荷台数を伸ばしていき、現在は月次レベルで黒字化が見えるまでになりました。