先行企業はID統合やシステム基盤の整備を完了している
ビジネスにおけるデータの重要性が広く認識されている今日、マーケティングの成否を分けるのは、単に「データを活用すること」だけではない。「顧客を起点にあらゆるデータを紐付けて管理し、適切に活用できる基盤を整えること」ができて初めて、社内に強いマーケティング組織を作ることができる。
MarkeZine Day 2021 Autumnに登壇するNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションのエバンジェリスト・嶋田貴夫氏は、Web解析ツールの開発・商品企画・事業責任者として長年ビジネスを展開してきた人物だ。
嶋田氏はまず、生活者が「デジタルでできることはデジタルで済ませる」という指針に基づいて行動するようになったと指摘。その上で、消費者とのコンタクトポイントとしてSNSや公式サイトのようなデジタルチャネルの重要性が増していると述べる。
この状況は、BtoB/BtoCいずれのビジネスモデルにもあてはまるという。企業のマーケティング活動を支援する立場から、嶋田氏は「デジタルチャネルを強化している先行企業は、既にオンラインのIDを統合しているか、初めから1つのIDに様々なデータを紐付ける形で整備しており、あらゆるチャネルやタイミングで収集したデータを全社的に活用するエンタープライズなシステム基盤がある」と語る。
顧客軸マーケティングの鍵を握る「CIAM」
一方、ブランドを多数抱える大企業や買収・合併を繰り返してきた企業は、まだこのようなマーケティング基盤を整備していないところが多いという。
「多くの企業ではブランド・サービス毎にIDがバラバラに存在し、登録時や問い合わせ時、購入時など限られたタイミングでしかデータを取得できていません。全社で顧客軸のマーケティングを推進したくても、データが乏しく個別最適にならざるを得ない状況にあるのです」(嶋田氏)
この問題を解決する手段として、嶋田氏が提案するのが「CIAM(Customer Identity and Access Management)」を使ったID統合だ。
CIAMの原型となった「IAM(Identity and Access Management)」は、元々企業の従業員のID/アクセス権を統合管理する仕組みのことで、これを顧客向けIDに発展または再デザインしたのがCIAMであると嶋田氏は解説。同じID管理といっても、IAMが情報セキュリティ観点で企業側に管理される仕組みであるのに対し、CIAMはユーザー自身が自分で情報を登録・管理し、規約の同意・撤回や退会意思を含めて管理ができる点に特徴があるという。
CIAMは上記に加え、IDを統合し複数のサービスに単一IDでログインできたり、ソーシャルメディアのIDや他社IDと連携できたりと、ユーザーの利便性を高めると共に、企業があらゆるフェーズやチャネルでデータを取得できる仕組みも備えている。
嶋田氏はここから、同社が取り扱っている「SAP Customer Data Cloud(CDC)」を例に、CIAMの活用メリットを紹介した。
ユーザーにID移行を促すことでデータをアップデート
第一の活用メリットは「バラバラな顧客IDとデータの統合」だ。たとえば、メディアやサービスごとにユーザーから情報を登録してもらい、個別に情報を管理している企業があるとする。企業側の管理には多大な手間がかかり、いざIDを連携しようと思っても、どのデータをどこに紐付けるべきかわからない上、そもそも複数回にわたる情報登録はユーザーの利便性を損なっていると嶋田氏は指摘する。
このようなシーンにおいては、CDCで「名寄せ」を行うことが有効だという。あらかじめ各サービスサイトの登録時に許諾を得ているユーザーを対象に、メールアドレスなどに基づいて名寄せを実行し、CIAMに移行するという方法だ。こうすれば、オウンドメディアの登録ユーザーが新たにECや他のサービスを利用する場合は、それぞれの利用規約を確認するだけで済むため、ユーザーの負担を最小限に留めることができると嶋田氏は解説する。
嶋田氏は名寄せ以外にも、ユーザー自身にIDを移行してもらう方法を紹介。各サイトにログインできる新たなIDを付与し、「これに再登録すれば、すべてのサービスを利用できます」と案内するか、新IDへの登録でポイントを付与するという施策も1つの手だと述べる。
「後者の場合、ユーザーが自分で情報を新IDに紐付けるため、最新のデータにアップデートできるという利点があります。仮に移行しないユーザーがいても、アクティブではないユーザー情報をその時点で廃棄できるので、有効なデータのみが集まるわけです」(嶋田氏)
データ収集のポイントは「入力項目の簡素化」
さらにCDCでは「Open ID Connect」を使ったFederation機能により、子会社/グループ会社が管理している顧客IDをソーシャルIDのように紐付けて連携し、バックエンドのデータ基盤に統合することができるという。このため、より広範なデータの管理・活用が行えると嶋田氏は紹介する。
第二の活用メリットは「あらゆるタイミングでのデータ収集」だ。収集の基本的な考え方としては「恒常的なログイン状態」と「段階的なデータ取得」の2つがあるという。
WebブラウザにおいてCookieの活用が制限されるようになったため、「ユーザー行動を把握するためには、常にログインしておいてもらう必要がある」と嶋田氏。そこで企業は、登録・ログインのしやすさにこだわるべきだと強調する。初期登録時の入力項目をメールアドレスとパスワードだけにしたり、ソーシャルログイン機能を採用したりすることが効果的だと語った。
また段階的なデータ取得においても「登録時に根掘り葉掘り情報を聞かないこと」がポイントだと嶋田氏は続ける。登録時の負担はユーザー離反につながるリスクが高い上、一度登録した情報が更新されることはめったにないため、情報が古くなってしまうからだと理由を述べた。
顧客メリットを考慮したデータ活用が肝
嶋田氏が勧めるのは「プログレッシブ・プロファイリング」と呼ばれる方法だ。まずは早いうちにID登録を促し、後から少しずつデータを増やしていくというもの。たとえばユーザーが家電サイトで冷蔵庫や洗濯機を見ている時、「家族はいますか?」などの質問を投げかけて回答を得るようにしていけば、そのユーザーの生活状況や家族構成などが少しずつ見えてくる。
さらにソーシャルログイン機能を実装していれば、SNSを通じたメッセージの送信など、次のアクションにもつなげられると嶋田氏は語る。
第三の活用メリットは「ユーザーの同意に基づく全社的なデータ活用の実現」だ。総務省の調査結果によると、日本国内の消費者は企業が自社のために顧客データを活用することについて、他国(特に中国)と比べると消極的であり、不安も持っているという(出典:総務省「令和3年版 情報通信白書」)。
「顧客メリットを重視することは基本として、ユーザー毎の規約への同意状況に基づいて全社的にデータ活用を推進していくことが、顧客軸マーケティングの先行企業として活動していく時のポイントになります」(嶋田氏)
CDCには、ユーザーがいつ、どのタイミングでデータの取得に同意したのかを管理する機能がある。利用規約が更新されると、ユーザーがWebサイトを利用する際にポップアップで再度同意することを促す仕組みが備わっている。また、ユーザー単位での同意状況をCRM、CDP、MAなどと連携することによって、同意に基づいたデータ活用をシステム的に制御できるようになる。
数年単位のロードマップを描き、地道な体制整備を
また、全社視点で顧客軸マーケティングを展開する際のポイントとして、嶋田氏は「利用者目線」と「事業者目線」の両方で戦略を立案する必要性を挙げる。利用者目線では「メッセージの発信頻度が多くて迷惑にならないか」「個別サービスを訴求するあまり、矛盾するメッセージを送ることにならないか」など、共通IDに紐付くサービスや内容に沿って考えていくことが望ましいという。
一方、事業者目線では共通IDの取得方法やデータの活用方針について意思統一することが重要であるとし、それによって全社活用の仕組みが整ってくると嶋田氏は語った。
4つ目のメリットである「全社的システム基盤の構築」について語るにあたり、嶋田氏は全社的システム基盤の概要を示す次の図を紹介した。
各サービスやポータルから入ってくる顧客データをCDCのようなCIAMに集約し、顧客IDの統合や同意管理などを行うことで全社展開の素地を作る。嶋田氏は「ID連携やデータ統合は数カ月で終わるような簡単な作業ではない」と強調した上で、「1つのロードマップとしてこうした仕組みを念頭に置き、数年かけて整理することで顧客軸マーケティングの先行企業と同じような体制整備が進みます」と述べた。
NTTコムオンライン・マーケティング・ソリューションは、国内の大手メーカー、エンタメ企業など幅広い業種においてCDCの導入・運用支援実績を多数抱えており、最近はBtoBマーケティングにおけるID統合の相談も増えているという。また同社はCDCだけでなく、分析基盤の提供やマーケティングシステムの運用・導入支援にも強みを持つ企業だ。嶋田氏は「顧客軸マーケティングの実現に必要な各種ソリューションを揃えているので、ぜひ相談してほしい」と語り、講演を締めくくった。
【ウェビナー情報】顧客ID統合の最前線を知りたい方へ
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