EC専業のマガシークがコロナ禍で受けた思わぬ打撃
新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの産業が打撃を受けた。実店舗が購買の中心であったアパレル業界もその1つだ。アパレルECモールの「MAGASEEK」と「d fashion」を運営するマガシークの小手川氏は、コロナ禍による業界への影響を以下のように語る。
「2020年4月の緊急事態宣言によってオンラインショッピングの需要が一気に高まり、弊社にとっては追い風となりました。一方で、仕入先であるメーカー様が実店舗のクローズを受けて生産を縮小したり、SDGsの広まりで大量生産/消費の見直しが叫ばれたりと、アパレル業界の商習慣が変化していることを強く実感した1年でもありました」(小手川氏)
EC需要が高まるにつれ、アパレルメーカーが自社ECサイトの運用を本格化する動きも目立つようになったという。デジタルマーケティングに力を入れる企業が増えたことで、それまではマガシークのようなモール運営側に集中していたデジタル領域の人材がメーカーに流出。小手川氏は「自社の優位性が出しづらくなってきた」と述べる。
企業のマーケティング支援事業を展開するReproが行った「Webサイト活用状況に関するアンケート調査2021年版」によると、自社のデジタルマーケティングに関する課題として「人材不足」を挙げる声が最も多かったという。
あえて兼任体制を敷きメンバーの事業理解を促進
この結果をふまえ、Reproの岡野氏は「アパレル業界に限った話ではありませんが、専任の担当者がいない企業は施策のPDCAを回しづらく、成果につなげにくい傾向があります」と指摘した。
そんな中、マガシークでは専任担当者を配置せず、あえて兼任体制を推奨。その意図について小手川氏はこう語る。
「メンバーが業務を積極的に兼任することにより、自身の事業理解につながります。事業全体を理解することでこなせる施策の幅が広がり、結果としてデジタル領域に強い人材へと育っていくんです。弊社ではデザイナーが毎朝自分の作ったクリエイティブの効果検証を行っていたり、ディレクターが自らメルマガを書いたりしています」(小手川氏)
兼任体制を敷く以前は、MAGASEEKとd fashionという2つのECモールを異なる事業部が運営していた。ところが2020年10月、人材のアロケーションを理由に事業部を統合。小手川氏がコンシューマサイト事業本部の本部長として組織体制への変革を行った。
「売上が上がって工数が少ない仕事」を優先
組織変革にあたり「施策の矮小化」「プライオリティ管理」「リソース・ノウハウ不足」という3つの課題があったと小手川氏は振り返る。
小手川氏によると、兼任体制を敷く前のMAGASEEK事業部はセクショナリズムのような状態に陥っていたという。メルマガの制作だけを担当するメンバーや、バナーの制作だけを担当するメンバーが存在し、それぞれの業務に関係のあるKPIしか追わない点に小手川氏は課題を感じていた。
「KPIを絞り込むと個人の評価は行いやすくなりますが、各人が小さなKPIに固執してしまうと、事業の全体最適を妨げることになります。たとえば、サイトのセッション数が悪いときにセッション数だけを上げても売上にはつながりませんよね。そこで、売上と利益を全員のKPIとし、全員がそこに向かって業務に臨めるよう整備しました」(小手川氏)
KPIの全体化にともない、業務のプライオリティを管理する必要も出てきたと小手川氏は続ける。
「売上や利益をKPIに設定すると『売上は上がるものの工数がかかる仕事』に優先して取り組んでしまう人が出てきてしまいます。まずは『売上が上がって工数が少ない仕事』に取り組んでもらい、チャレンジングな施策には20%くらいの労力で取り組む。このルールをマネージャーから現場に徹底して浸透させたおかげで、メンバーが自然とプライオリティを管理できるようになりました」(小手川氏)
KPIの全体化でメンバーの当事者意識がUP
売上や利益という大きなKPIを具体的な施策へ落とし込むためにはどうすればよいのか。小手川氏は以下の図を使って説明した。
たとえば、d fashionの担当者には「生活衣料を簡単かつお得に買える」というサイトのコンセプトから顧客のニーズを導き出し、そのニーズを満たせば売上につながることを提示。このように、事業の目的をブレイクダウンしながら施策を考えるよう促しているという。
d fashionのマーケティングを支援するにあたり、定例会を開いてマガシークのメンバーと頻繁に顔を合わせているという岡野氏。「黙っている方が1人もおらず、意見を述べて積極的に施策のアイデアを出そうとする皆様の姿勢に感銘を受けました」とチームの印象を語った。
「メンバー1人ひとりがKPIを意識しながら業務にあたっているからこそ、我々のような外部パートナーから知識やノウハウを吸収しようという気概が生まれているのかもしれません」(岡野氏)
自社の苦手分野を理解し適切なアウトソースを実施
兼任体制でマルチタスクを推奨するマガシークだが、それでもやはりリソース・ノウハウの不足からは逃れられないと小手川氏は話す。
事業部を統合したタイミングでメンバーが減り、日々新しい施策に取り組まなければならない状況を前に、同社は外部パートナーの協力を積極的に仰ぐことでリソース不足をカバーしているそうだ。外部パートナーと協力体制を構築するにあたり、小手川氏は「パートナーに要望を丁寧に伝え、決して丸投げしないこと」をポイントとして挙げた。
マガシークのパートナーを務めるReproは、マーケティングツール「Repro」を中心に伴走型のマーケティング支援を行っている。同ツールはWebサイトやアプリケーションの行動データを取得し、ユーザー企業の保有するデータと掛け合わせることで、Web接客やプッシュ通知などの施策を実現。世界66ヵ国、7,300サービスでの導入実績を誇るReproの看板ツールだ。
Reproはこのツールを使いながら、4~5名体制でマガシークが取り組むマーケティング施策の提案・分析・実行をサポート。時間と工数がかかるために内製で行うことが難しい業務を請け負っている。
「弊社はデザイナーが多いので『ページを作る』という業務なら自社でスピーディーに実行することができますが、システムまわりが手薄なのでツールの運用はReproさんのようなプロに任せた方が早いんです。企業によって強みは違うので、プロに委ねるべきポイントの見極めは必要だと思います」(小手川氏)
伴走型の支援がインハウス化の地盤を作る
ツール導入時に発生する学習コストを専門家のサポートで最小化し、初速を落とすことなくツールの効果を最大化できる点も、伴走型のサービスを提供するReproの強みだ。
「将来的にはインハウス化を目指す企業様もいらっしゃるため、ツールの導入から約1年でユーザーに向けたコミュニケーションシナリオを確立し、徐々に自走体制へシフトできるよう支援しています」(岡野氏)
セクショナリズムやリソース不足を乗り越え、組織変革に成功したマガシーク。今後の展望について、小手川氏は以下のように語った。
「昨今はCookie規制への対応がデジタルマーケティング領域全体の課題とされていますが、こうした専門性の高い領域については内製のチームだけで対処しきれません。Reproさんの協力を仰いでクリアしつつ、ファーストユーザーの獲得に注力していきたいと考えています」(小手川氏)
コロナ禍でオンラインシフトが急速に進み、デジタルマーケティング人材が慢性的に不足する昨今。そんな中でECサイトの売上を最大化させるためには、チームの体制整備とパートナーとの関係構築、そしてツールの適切な運用が求められる。マガシークとReproは本セッションを通じ、それら3要素の有用性を示した。