作り手にとっては「思想」、ユーザーは「愛着」と「利便性」
――実際のクリエイティブづくりはどのように進められたのですか?
最初の製品をリリースする前のクリエイティブは、私たちがコンセプトをつくったのち、ニューヨークに住んでいるデザイナーさんに、アートディレクションとデザインをお願いしました。
これは日本のD2Cのパッケージが、「シンプルかつフォントが特徴的」といったスタイルが多いように感じていたため、それとは異なる、日本らしくないデザインにしたかったからです。実際にそのデザイナーさんとお話をしたときに、私の想像の範疇を超えたデザインに仕上げていただけるだろうと思い、お願いすることにしました。リリース後のパッケージイラストは、Instagramでつながったイギリス在住のイラストレーターさんに依頼しています。
現在の体制としては、社員3名と、業務委託としてコミットしてくれているメンバーの計7名ほど。そのなかにデザイナーもいるため、ウェブサイトやSNSのクリエイティブ、パッケージのアップデート、同梱物など、ラベルの制作以外は自社で手掛けています。
――なぜ、立ち上げ当初から、コンセプトやクリエイティブづくりに注力していたのですか?
前提として、“ブランド”に対する感じかたは、作り手とお客さまとで異なると思っています。まず作り手にとってのブランドは、思想がそのまま表現されたもの。こんなブランドの世界観にしていきたい。こういった人たちにこんな気持ちになってほしい――。そんな思想を具現化したものが、作り手にとってのブランドです。だからこそ「私たちの思想の核がなにか」を固める作業に多くの時間をかけ、コンセプト設計をしていきました。
一方、お客さまにとってのブランドは、「愛着」と「利便性」の掛け合わせだと思っています。愛着というのは、作り手のストーリーに共感したり、大切な人からプレゼントをもらうなどの出会いかたに影響されるような定性的な部分。一方、利便性としてわかりやすいのは「安さ」や「おいしさ」。世の中にこれほどモノがあふれているなかで消費者は、自分にとってメリットがなければそれを選ばない。だからこそ、このふたつを掛け合わせることが重要なのです。
そのため、「作り手」の思想を具現化した商品と、「お客さま」が求めている愛着×利便性の双方が大きく異なってはいけない。両者のバランスをとりながら作っていくべきだと私は考えています。もちろん、作り手の思想を尖らせることでファンが生まれるケースもあるでしょう。しかし、私としては「絶対にこうありたい」と自分たちの思いを具現化する部分と、商品を手に取ったお客さまからの声を反映しながらブランドを作っていきたいと思っています。
たとえば、低アルコール飲料のシェア自体は市場のパーセンテージとしては高くありません。それでも私たちはヘルシーに楽しめる商品を提供し続けますし、ターゲットがブレることは決してない。ただ、その商品を具現化していくうえでは、お客さまのニーズに合わせていくことも必要。売り方やクリエイティブについては、必要であれば柔軟に変えていきたいと考えています。
そんな私たちにとって非常に重要なお客さまの声を知るために、1人ひとりのお客さまを徹底的に掘り下げていく「N1分析」を行っています。お客さまの購買データをもとにメールでユーザーインタビューのお願いをし、1対1でお話させていただいたり、最近ではお客さまに足を運んでもらえるクローズドのバー「koyoi the bar」を開催し直接お話する機会を設けたりもしています。
一般的にマーケティングやリサーチでは、n数を大きくし定量的に見ていくことが多いかと思います。もちろんそれも大切ですが、私たちは個々のお客さまを深く知ることが、そのターゲットのニーズを理解することにつながると考え、N1分析を重視しています。