AIによる効率化の先を見据えて
デジタル環境の進展にともない、活況を呈しながら、大きく変化している広告業界。デジタル広告においては、パフォーマンスクリエイティブのニーズ拡大を中心に、短期間で大量の制作物を要する高速PDCAへの対応など、以前にも増してスピード感のあるクリエイティブ業務が求められるようになっている。デジタル広告の現場では、業務量が増えていく中、適正な労働量でのリソースマネジメントが課題になっている。
一方で、もう少し先に目を向けると、こうした課題もAIにより解決されていく可能性を秘めている。人間は人間にしかできないことを――より質の高いクリエイティビティを発揮できるよう業務環境やワークスタイルを変革し、より人間らしい業務への人的リソースの配分を実現させていく必要がある。
こうした背景のもと、博報堂DYグループが2年前から始動しているのが、AIを活用しクリエイティブ業務の研究開発を行う横断組織「Creative technology lab beat」だ。
学術研究、プロトタイプ開発、クリエイティブ業務におけるワークスタイルの探求という3つの柱でクリエイティブ業務のDXを目指しているCreative technology lab beatのビジョンについて、リーダーを務める木下氏は次のように話す。
「博報堂DYグループが提供できる価値の源泉には、クリエイティブ業務に従事するクリエイターがいます。彼らには、クライアント企業や生活者、そして社会に新しい価値を届けることに時間を使ってもらいたい。そのために、Creative technology lab beatでは、AI技術やテクノロジーを活用したクリエイティブ業務、ワークスタイルを探求することで、クリエイターのサポートをしています。
2023年はAI技術を使った新たなクリエイティブワークスタイルの提示をミッションとして取り組んできましたが、2024年からはそのワークスタイルを実践・標準化していく計画です」(木下氏)
「クリエイターの勘と経験に依存しがち」という課題
広告クリエイティブと一口に言っても、中身は様々だ。今回のセッションでは、広告クリエイティブを「パフォーマンスクリエイティブ」と「ブランデッドクリエイティブ」の大きく2つに分けている。
簡単に説明すると、クリックや契約などWeb上で特定のアクションを獲得する目的があるのがパフォーマンスクリエイティブ。一方、ブランデッドクリエイティブは、ブランドに対する認知度・好意度の上昇など態度変容を起こすことを目的としてするものが多い。よって、パフォーマンスクリエイティブはロウワーファネルへ、ブランデッドクリエイティブはアッパー/ミドルファネルへアプローチするものと分けられることもある。
クリエイティブの制作から運用、効果検証まで一連のPDCAのスキームがある程度確立されているパフォーマンスクリエイティブ領域に対し、その制作過程に大きな課題を残すのがブランデッドクリエイティブ領域であるとして、今回Creative technology lab beatは目を付けた。
「テレビやアウトドアメディア、デジタルなど面が多岐にわたるブランデッドクリエイティブは、出稿の期間も長く、広告制作と評価(効果検証)の間で分断が起こりがちです。また、評価するためのデータも乏しく、クリエイティブ制作はクリエイターの勘や経験に頼ってしまっているところも多くあります。クリエイター本人が、自分の手掛けたクリエイティブの評価とその要因を知りたいタイミングで知ることができない。私たちはここに大きな課題があると考えました」(内山氏)