価格・品質よりもブランドコンセプトや世界観を重視するZ世代
マイナビでは、高校生から社会人シニアまで幅広い層に向けた情報メディアを複数展開する。若年層向けメディアとしては、主に「マイナビティーンズ」「マイナビ学生の窓口」「マイナビニュース」が挙げられる。
若年層向けマーケティング情報を発信する「マイナビティーンズラボ」の運営に携わる嶺岸氏によれば、Z世代へのアプローチ方法にはファンマーケティングが効果的だという。しかし、そもそもZ世代をファンにするには、どうすればよいのだろうか。
同社がZ世代に行った「購買行動において重視するポイント」についてのアンケート結果を見てみよう。購入の決め手となるポイントの1位は「SNSで話題になっているから」、2位は「メーカー・ブランドに好感が持てるから」、3位は「友人・知人などからの口コミ」という結果だった。コスパ・タイパの価値観で知られるZ世代だが、「値段が他の商品に比べて安かった」は4位に。この結果から、Z世代は価格よりもメーカー・ブランドの好みや、同世代からの口コミを重視する傾向が伺える。
続いて、メーカー・ブランドが好きになった理由では「コンセプト・世界観が好きだから」が1位にランクイン。「商品が生まれた背景や開発秘話などのストーリーを伝えることが重要です。Z世代にとって、品質よりも重要な項目になっています」と、嶺岸氏は見解を述べた。
「推し=ファン度」を高めることが購買につながる
では、好きなブランドに対してZ世代はどのような購買行動を取るのだろうか。アンケートで「好きなメーカー・ブランドの商品に対する行動」について聞くと、「継続的な購入・利用」「新商品のチェック」「店頭などでの体験」などが上位に挙がった。嶺岸氏はこの結果を「推し消費の行動と似ている」と解釈する。
「Z世代を考える上で重要なのが、“推し”がいること。Z世代の80%には推しがいるという調査結果も出ています。その対象は芸能人やインフルエンサーだけではなく、アニメ・ゲームなどの2次元キャラ、動物、乗り物まで多岐にわたります。つまり推しがいる状態=ファンである状態と定義することができ、その点を意識したプロモーションが有効です」(嶺岸氏)
また、Z世代に「同世代が発案したアイデアや企画が社会で実現されることに対して関心があるか」と尋ねると、64.7%が「ある」と回答したという。
以上の結果を踏まえ、嶺岸氏は「ブランドの“推し”化と同年代の声を取り入れることがポイント」と指摘。Z世代は「企業の作った感」をすぐに見破ってしまう。Z世代のリアルなインサイトを商品・サービスに反映できているか、プロモーションにもリアルな声を取り入れられているか、そしてそれを広く波及できているかを念頭に置くことが大切だ。
学生コミュニティ×老舗企業の貝印が挑んだ、認知拡大施策
同社にはZ世代に関する施策について、多くの課題が寄せられる。中でも多いのが「学生やZ世代に効くプロモーション手法がわからない」だ。セッションでは、そうした課題を解決し「ブランドの“推し”化」と「同年代の声を取り入れる」ことに成功した2つの事例について、Z世代向け案件を中心としたプランニングを手掛ける中西氏が紹介した。
1つ目は、老舗刃物メーカーである貝印の事例だ。貝印では50歳以上のブランド認知率が80%である一方、Z世代は約20~30%と低いことが課題だった。そこでZ世代向けリブランディングの取り組みとして、マイナビの学生コミュニティからメンバーを募り、貝印の広報チームと連携した共創プロジェクト「貝印の『紙カミソリ』みんなに広めよう!プロジェクト」に着手した。
同プロジェクトでは、紙のハンドルに金属の刃が付いた「紙カミソリ」を通じて、Z世代の認知度向上を目指した。紙カミソリはテスト販売時に3日で完売するなど、非常に注目されているアイテムだ。
「若者向け」というブランドイメージが33ポイント上昇!
学生メンバーによって生み出されたアイデアの一つに「KAMIカミソリ」がある。カミソリに「受検の合格祈願」という付加価値を付け、神社の新しいラッキーアイテムにするというものだ。
実際に、このアイデアをもとにした新パッケージの紙カミソリを販売。子どもの合格を祈願する親が応援メッセージを記入できる欄を設けるなどの仕掛けを施した。また、都内の神社で祈祷されたものを正月から数量限定で無料配布するキャンペーンも実施した。
「特別仕様の紙カミソリを受け取った学生がSNSで拡散しやすいように、毎年春から盛りあがる『♯春から大学生』のハッシュタグを付けました。結果、Z世代を中心に拡散され、メディアにも取り上げていただけました」(中西氏)
また、大学生向けWebメディア「マイナビ 学生の窓口」に特設ページを作り、プロジェクトの途中経過について掲載。バックグラウンドトストーリーなどのコンテンツを公開した。
同施策の結果、貝印に対し「若者向けのイメージを持っている」という学生が施策前は0%だったのに対し、実施後33%まで上昇した。さらに貝印が学生に抱いてほしい「伝統ある」「安心・信頼できる」「代表的なブランド」といったイメージも、軒並み50%台まで上昇させることに成功した。
貝印の事例に対し、学生のアイデアが本当にビジネスに活用できるのか疑問に思う人もいるかもしれない。中西氏は「確かにビジネス言語で話されていないので、そのままだと難しいこともある」とした上で、「そのアイデアをいかにビジネスに落とし込むかは、これまで多くの企業の課題に向き合ってきたマイナビだからこそ実現できるポイントです」と話した。
キッコーマン食品の事例に学ぶ、Z世代に刺さるポイント
2つ目に紹介されたのは、キッコーマン食品の事例だ。一人暮らしをスタートするZ世代に、「初めて購入するしょうゆにキッコーマン食品を選んでもらいたい」という思いから、同社はマイナビと共同でプロモーションを行った。
「キッコーマンの『しぼりたて生しょうゆの魅力』みんなに広めよう!プロジェクト」と名付けたこの取り組みを進めるにあたり、当初キッコーマン食品が考えていた訴求ポイントは「しょうゆの新鮮さとまろやかさ」だった。中西氏は「PR方法を考えていく中で、Z世代に刺さるポイントがまったく違うことがわかりました」と振り返った。
プロジェクトではマイナビコミュニティの大学生がキッコーマン食品の広報チームと連携し、ワークショップを通じてアイデアを出し合った。しかし「学生からあまり意見が出ない」という課題が生じたという。
中西氏は、学生と社会人では共通言語が異なるために聞きたいことがうまく引き出せなかったと分析し、「このような場合、大人側が欲しい回答を誘導する危険性もあります」と落とし穴を示した。そうした際は、日頃から学生とともにコンテンツを作成しているマイナビが間に入って意見を聴取する。「Z世代からどう話を聞き出すかは重要なポイント」と中西氏は指摘した。
プロジェクトで生まれたアイデアをマイナビがまとめた結果、「シェア率・保存期間の長さ・適量利用」というポイントがZ世代に刺さることがわかった。
「もちろん、しょうゆの新鮮さやまろやかさは重要な要素です。ただ、それ以上にまず手に取ってもらう必要があります。何がフックになり得るかは、Z世代当事者に聞いてみないとわかりません」(中西氏)
若年女性向け大規模ファッションイベントで実施した、Z世代向けプロモーション
今回のプロジェクトも貝印の事例と同様に、Webコンテンツで発信を行った。さらに、2023年にマイナビが特別協賛をした若年女性向け大規模ファッションイベントでプロモーションを実施。会場に、SNSの拡散を狙った“ニューレトロ”をコンセプトとしたブースを展開した。
ブースでは、PRポイントの一つ「適量利用」を実際に体験できるカップ寿司も用意。現地に訪れたZ世代に「いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆ」を垂らして食べてもらった。この施策では写真撮影・SNS投稿を条件にしており、拡散につなげていった。
オンライン施策ではSNSの拡散だけでなく、マイナビが展開するメディアに現地レポートをタイアップ記事として掲載した。リアル・オンライン両軸でのプロモーションで、Z世代に対するキッコーマン食品の認知度が高まったという。
現在、マイナビでは高校生をメインに1万人以上の会員が所属する「マイナビティーンズ」や、大学生が所属する「ガクラボ」というコミュニティを運営している。「ガクラボ」を卒業したOB・OGともつながりがあるため、現役学生だけでなく若手社会人の生の声も聞くことが可能だ。
嶺岸氏は、マイナビのZ世代向けソリューションについて「課題整理・ユーザーインサイト分析などの上流工程から、Z世代との企画共創・実現化・自社メディアでの情報発信・広告施策の運用に至るまで、一気通貫で支援を行えることが特徴です」と語り、セッションを締めくくった。