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Cookieレス時代のネット広告を考える~利用者保護とマーケティング成果を両立するために(AD)

SNSマーケ界の猛者ナハトに聞く、Meta広告の新運用手法「CIBS」の効果

 Meta広告の運用については、日本でも各社が日々研究し、知見・ノウハウを蓄積している。一方で、多くの企業がまだ試していない運用方法もある。その一つが「CIBS(Metaインフレーション予算戦略)」だ。本稿ではCIBSの概要や特徴、実装手順などを具体的に解説。CIBSを積極的に活用しているナハト社の事例も交えて、活用事例や実績も紹介する。

SNSマーケ界の猛者「ナハト」にインタビュー

MarkeZine:ナハト社はこれまでほぼメディア露出をされてこなかったと聞いています。はじめに、簡単にナハト社について教えていただけますか。

栗田:ナハトは、SNS広告やインフルエンサーマーケティングなどの領域を中心とした支援会社としての側面と、商品や事業の開発を行う事業会社としての側面を併せ持ったSNSマーケティングカンパニーです。2018年に創業し、今年で7年目を迎えました。

株式会社ナハト 取締役 AD事業本部 本部長 栗田優磨氏
株式会社ナハト 取締役 AD事業本部 本部長 栗田優磨氏

 「予算消化型」の広告代理店モデルに疑問を感じる私たちは、ブランドプロミス「〜Profitable Marketing〜利益に繋げるマーケティング」を掲げています。重視しているのは、自分たちの運用によってクライアント様がいかに利益を上げられるかです。そのため、これまでは主に成果報酬型での獲得支援を行ってきました。最近はその他にも多々寄せられるニーズに応えるべく、予算ベースでの運用支援もスタートしています。

西川:ナハトさんは「運用」に強くコミットしている印象があります。運用者一人ひとりがより良い運用やクリエイティブ制作を目指して自主的に研究を重ねられていますよね。特に栗田さんは、先日発表されたMeta Agency First Awards 2024 Japanにおいて、Planner of the Yearをご受賞されるほど先進的な取り組みを行っていただいています。

Meta広告の新・運用手法「CIBS」とは

MarkeZine:今日はナハト社がうまく活用し大きな成果を上げられているという「CIBS(Metaインフレーション予算戦略)」について、詳細をお聞きしていきます。まず、CIBSとはどういった運用方法なのか、基本的な解説をお願いできますか。

西川:CIBSは、CPAを抑えつつ、獲得数と出稿額の増加を図ることができるMeta広告の新しい運用手法です。この手法を活用するためには、前提として「ペーシング機能」の理解が必要になるため、こちらの説明からしていきたいと思います。

Facebook Japan株式会社 Agency Partner 西川拓氏
Facebook Japan株式会社 Agency Partner 西川拓氏

 Meta広告には、広告配信を最適化するペーシング機能という仕組みが存在します。これは、キャンペーンの「残日数」と「残予算」に基づいて、オークションに参加する・しないを決める役割を担っているものです。キャンペーン期間内で予算を均等に消化できるよう調整しつつ、コスト目標を達成できるよう入札価格の調整も行います。つまり、予算と入札戦略を“相互に”調整し、最適な広告配信を実現するための機能と言えます。

 一方、裏を返して見ると、このペーシング機能には、本来は獲得可能なコンバージョンの機会を予算設定により失ってしまう可能性が隠れています。

 そこで、キャンペーンもしくは広告セットの「日予算」を通常の5~10倍に設定することで、ペーシング機能を意図的に取り除き、予算制限による機会損失をなくそうと目指す試みが出てきました。それが「CIBS」です。CIBSにより、好機を逃さず積極的に獲得を目指す広告配信ロジックを構築できるようになります。

Meta内で新ロジックとして共有→国内外で検証が進行中

MarkeZine:CIBSは、Metaが導き出した運用手法なのでしょうか?

西川:はい、Metaではお客様のビジネス拡大に寄与する新たな手法の研究や議論が、グローバルで盛んに行われています。CIBS自体は以前から社内で議論されていたのですが、オーストラリアとニュージーランドで実践を試みたところ、たしかな手応えがあったということで、日本でもぜひ展開したいとナハトさんにお声がけしたのです。

MarkeZine:ナハトの栗田さんは、CIBSについて聞いた時、どのような所感を持たれましたか?

栗田:我々がMeta社と直接コミュニケーションを取るようになったのは、実は最近のことで、それまでは我流でMeta広告をハックしてきました。そのような中でも「ペーシングのような機能が働いているのだろう」ということには何となく気づいていたので、西川さんからCIBSのロジックを説明された時は「なるほど、たしかにうまくいきそうだな」と思いました。

MarkeZine:CIBSでは、キャンペーン予算を通常より大きな額で設定するということでリスク面での不安がありそうです。その点はどう捉えていますか?

栗田:出稿額が予算以上に上がってしまうリスクはやはりあるので、CVの定義が明確な案件に絞り、小さい規模からテストしていく必要があると思います。

 一方、冒頭でご紹介した通り、弊社は成果報酬型を中心に運用支援を行っており、広告主様から「広告予算」を預かるケースは多くありません。つまり、CIBSを実践するにしても、自分たちでリスクを背負い、クライアント様に成果をお返しすることができるのです。その意味で、CIBSは弊社の強みや特長がよく活きる手法だとも考えています。

【ナハトの実践例】獲得件数を大幅に上げつつ、CPA・CPMは低下

MarkeZine:ナハト社では、CIBSを実施して、どのような成功事例が出ていますか?

栗田:CIBSの導入前後を比較したところ、導入後に「CPA27%減」「獲得件数3.6倍」「CPM19%減」という結果が出た案件がありました。CPAだけでなく、CPMも下げられたという点がポイントだと思います。

 また、別のクライアント様の案件でも「CPA27%減」「獲得件数5.7倍」「CPM23%減」といった結果が出ており、多くの案件でCIBSの効果を実感しています。なお、いずれも月額予算が数千万円規模の事例ですから、CIBSによるインパクトの大きさが想像できるでしょう。

 MetaにはASCなど別プロダクトもありますが、「運用手法」としてここまで数字を伸ばせるものはなかなかないと思います。

西川:従来の広告運用ロジックでは、効果を高めるためにターゲティングを狭め、特定の層を狙いにいくことが一般的でした。たしかに、この方法で獲得効率が高まるのは事実ですが、同時に対象となる市場規模を縮小させてしまう可能性もあったわけです。

 しかし、CIBSでは、獲得効率の向上と配信規模の拡大を同時に実現することができます。そのため、効率だけでなく獲得を伸ばしたい・出稿額を伸ばしたいという目的がある場合には特に有効でしょう。逆に、CPAがそもそも低いカテゴリ(アパレル、ゲームアプリ系)では、今のところ成功事例が多くない状況であり、さらに研究が必要だと感じています。

栗田:もう1つ、CIBSの特長として注目すべきは、競合との競争が激しい環境下でも効率的にターゲット層を拡大し、獲得層を増やすことができるということです。要は、Metaの広告配信において、複数の企業が同じターゲット層を狙っている時に起こるCPMおよびCPAの高騰を解消することができます。CIBSによる成果向上は、これによる影響も大きいのだろうと見ています。

3ステップで解説:CIBSの実行手順

MarkeZine:では、CIBSを実践する際の手順について、具体的に説明をお願いします。

ステップ1:通常の5~10倍で日予算を設定(ペーシング機能解除)

西川:3つのステップに分けてご説明します。まずステップ1では、CIBSを実装するキャンペーンの日予算を、通常よりも大きな額で設定します。

 皆さんが気になるのは「大きな額とは?」というところだと思います。この最適な額については我々も研究中で、ナハトさんも様々なパターンで検証して下さっていますが、今のところ、通常の10~15倍の額で日予算を設定すると効果が出始めることがわかっています。競合の状況を含めた市場動向によって最適な設定額は変わってくるでしょう。

ステップ2:キャンペーン予算またはアカウント予算の設定(上限額の設定)

西川:ステップ1で日予算を大きく設定するので、実際に配信が爆発してしまわないよう、ステップ2では最大出稿額を設定します。「キャンペーンの全体予算」「アカウントの予算上限」に関しては、ペーシング機能の影響がないため、ここで設定した予算額を超えて広告が配信されることはありません。

栗田:日予算をどんなに高く設定しても、キャンペーン予算の上限に達すると、配信は停止・制限されます。ですので、広告費が爆発的に上がってしまうリスクはここで回避することができます。ただ、上限に達して配信が止まってしまうと、CIBSにより得られる効果が小さくなってしまうため、上限に達する前に手動で予算を引き上げ、その日の配信をさらに伸ばすという運用を我々はリアルタイムで行っています。

MarkeZine:第一にはCIBSにおけるリスク回避のために、加えてより高い成果を上げるために、このステップが重要なのですね。

西川:はい、予算の上限額は現実的なラインで設定するよう注意していただきたいです。

栗田:たとえば、マス媒体で広告を打った後は、急激に獲得件数が伸び、配信が一気に伸びてしまうことがあるので注意が必要です。他にも、不可抗力で読めない事態は起こり得ますし、ASCではキャンペーン単位での上限設定はできないため、アカウント単位で上限を設定する必要があります。

ステップ3:目標単価の設定(目標CPA設定/過度な配信の防止)

西川:ステップ3では、キャンペーン入札戦略で目標単価を設定します。これは保証値ではなく、あくまで目安値です。たとえば、2,000円と設定したから、必ず2,000円になるわけではありません。配信時には、ここで設定した目標CPAを目指すロジックが働くため、ペーシング機能が外された状態でも、CPAを目標に近づけながら過度な配信を防ぐことができます。

MarkeZine:CPAの目標値は、どのくらいで設定するとよいのでしょうか?

西川:目標CPAに関して、現在私たちが確認している範囲では、目標CPAの約10%減を狙うことで効果が出ています。CPAを10%程度下げつつ獲得数を維持し、同時に予算上限を外すことで大幅な出稿増を実現できることになります。

 しかし、通常の半分や10分の1など、目標CPAを極端に低く設定すると、システムが対応できず、配信量が著しく減少する傾向があります。かといって通常より高いCPAを設定すると、獲得数と配信量は増加しますが、効率性の面で意味をなさない場合があるので見極めが必要です。

 この点において、ナハトさんの運用力は際立っています。キャンペーンを見ると、目標単価がリアルタイムかつ適切に調整されている印象です。

人力による対応が必須?「CIBS」活用時のポイント

MarkeZine:CIBSを実践する際は、人力によるリアルタイムな運用が必要となるのでしょうか。

栗田:人間による運用コミットは一定必要だと感じています。広告配信が0時から開始されたとして、予算を大幅に増額した結果、朝起きた時に想定外の大規模出稿が発生していた……といったことも十分に考えられるからです。

西川:そうですね。たとえば、通常のキャンペーンと併走させたり、小規模のA/Bテストから始めたりするなど、人による対応を含め、様々な試みがリスク管理として必要になってくるでしょう。

MarkeZine:最後にCIBSに関心をもった読者に向けて、活用時のアドバイスをいただけますか。

栗田:CIBSは新しい運用方法であり、また複数のロジックを組み合わせて編み出された手法であるため、いわゆる「虎の巻」のようなものが存在しません。最も効果的なアプローチは、仮説検証を繰り返し、様々なパターンを継続的に検証することです。そうして、成功したパターンを拡大していくのが現時点での最適解だと考えています。

 必ずしも大きなリスクを取る必要はないと思いますが、私たちがCIBSによって結果を出せているのは事実です。特定のクリエイティブが高いパフォーマンスを示している場合や、CVが好調な時期にこの運用手法を活用すると、CV効率を高めながら、出稿額を大幅に増やしやすくなります。出稿額の増加は、結果としてクライアント様の売上拡大・事業成長に繋がるので、リスクの観点さえクリアにできれば、非常に有用な手法だと考えています。

西川:そうですね。リスクをカバーするための設定方法もしっかり存在していますから、リスクを最小限に抑えつつ、積極的にチャレンジしたい広告代理店様や広告主様にぜひ活用していただきたいと思います。

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この記事の著者

和泉 ゆかり(イズミ ユカリ)

 IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:Facebook Japan G.K.

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2024/12/11 11:13 https://markezine.jp/article/detail/47278