強いロングセラーブランドを持つ組織の「自信の揺らぎ」
槇亮次氏は、新卒でネスレマッキントッシュ(現・ネスレ日本)に入社後、執行役員まで昇った人物だ。「キットカット」を国内シェア1位へ導くなど、新たな需要を作ってきた槇亮次氏が、2023年3月にMizkan(以下、ミツカン)へ加わった。
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槇氏がマーケティングの本部長に着任して最初に取り組んだのは、100名以上のメンバーと1対1で話すことだった。
「彼らがどういう風に会社を見ているのか、何を期待し、何をやりたいと思っているのかを、私なりに聞いていくことから始めました」(槇氏)
見えてきたのは、自信が揺らぎ、閉塞感を抱えているメンバーが一定数いることだった。ミツカンには、「味ぽん」や「ミツカン 穀物酢」など、強力なロングセラーブランドがある。しかし直近は成長が鈍化していたことも相まってか、組織の自信につながっていなかった。
この診断を踏まえ、槇氏はブランドの刷新から取り組むことを決断する。
味ぽんの独自価値を「汎用性の高さ」に据え直す
ブランド刷新では、「味ぽん」の独自価値の再定義に取り組んだ。槇氏には確信があった。
「60年もの長い間、お客様にご愛顧いただいているロングセラー商品なのだから、揺るぎないブランドの真髄となる良さが絶対にある。見せ方や表現を少し変えるだけで、お客様にその魅力が伝わるはずだと」(槇氏)
多くのメンバーを巻き込み議論を重ね、「味ぽん」の独自価値を「汎用性の高さ」に据え直した。
従来の「味ぽん」は、鍋など特定の料理を挙げて「この料理に使ってください」と提案するアプローチが主流で、パッケージでもおすすめの料理を固定して訴求しがちだった。槇氏はこれをフィギュアスケートにたとえる。
「特定の料理を指定するのは、規定演技を強いるようなものです」(槇氏)
顧客の選択肢は「フリー演技」でいい。実際、「味ぽん」の味のバランスは驚くほど大半の料理に合う。他の調味料と比べても、これほど多様な料理に合わせられる汎用性を持つ製品はほとんどない。様々な料理に合うことを表現する手段を数多く考え、新しいコミュニケーションや商品を次々と展開していった。
成果は数字でも確認された。売上が伸びている理由を分析したところ、使用用途が多様化したことが実証されたという。
「『ブランド』という言葉を使うと、『イメージ』や『世界観』といった抽象的な話になりがちです。しかし槇さんは、お客様の具体的な使用シナリオに落とし込んだわけですね。
現場のマーケターやブランド担当者のよくある悩みとして聞くのが、『どのように、ブランドへの投資判断をすればいいのか』ということ。槇さんは、どう考えますか?」(イナモト氏)
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「ブランドを戦略的に活用すれば、大きなビジネス成果が得られるという事実は、既に山ほど実証されています。納得させるためのファクトを求めている経営層に対しては、とにかく、ファクトで説明することを徹底すべきです」(槇氏)
ブランド構築は投資である以上、どのリターンを獲得したいのかを明確に提示し、それを測る指標(好意度、認知度、購入意向の推移など)を設定する必要がある。「測定できないから説明を諦める」のではなく、どうすれば数値やファクトとして提示できるかを考え抜くこと。そこが企画を立案する側の「クリエイティビティの発揮のしどころ」だという。
