ビールで「楽しい」「幸せ」を届ける
──ヤッホーブルーイングは自社の事業を「ビールを中心としたエンターテインメント事業」と定義しています。顧客に届けたい価値や体験は何なのでしょうか?
仮屋:世の中のビール訴求は「喉越しが良い」や「おいしい」がほとんどです。おいしさは大前提の大切な価値ですが、それ以上に「楽しい」「幸せだ」「これが自分の理想だ」と感じていただきたいと考えています。
ヤッホーブルーイングは2027年に創業30周年を迎えますが、「ビールに味を!人生に幸せを!」のミッションのもと、個性とバラエティあふれるクラフトビールを楽しむ文化を日本に根付かせ、ビールファンにささやかな幸せをお届けする活動を続けています。突き詰めれば、私たちの事業を通じてお客様に幸せになっていただくことが一番の目的です。
──2026年には品川と泉佐野市に大型のリアル施設を開業しています。この動きと「幸せを届けること」はどのようにリンクしていますか?
仮屋:「楽しい」の延長に「幸せ」があり、ここはすごく密接に関わっていると考えています。缶を買って「飲むだけ」の体験ですと、どうしても「おいしい」で止まりがちです。もちろん、それも大切です。しかし、「楽しい」や「幸せ」を感じていただくためには、五感を通じた体験がとても大事になってきます。
ビールがあって、それを飲む空間があって、人がいて、スタッフとのコミュニケーションがある。そういったことを通じて、ビールがおいしいだけではなく、ビールに関する知識を得ていただいたり、スタッフからおすすめの楽しみ方を聞いていただいたり、あるいは近くにいた知らない人と仲良くなったり。そういったことまで含めて「楽しい」や「幸せ」を提供できると考えています。
──リアルな接点が「おいしい」から「楽しい」「幸せ」につなぐ力を発揮するのですね。
仮屋:はい。先日、大阪の「よなよなビアライズ」にヘルプスタッフとして行ってきたのですが、現地のスタッフから「ここに来たお客様は『おいしかった』ではなく『楽しかった』と言って帰っていく」と聞きました。空間の様々な魅力があるからこそ「楽しい」「幸せ」という感情を届けられる。これこそがエンターテインメントだと感じています。
──楽しいと言っても、1人で楽しむ・ワイワイと楽しむなど多様だと思います。その点はいかがお考えですか?
仮屋:もちろん、人それぞれの楽しいを尊重したいと考えています。「よなよなエールの超宴」という私たちのファンイベントの中でも大規模なイベントがあるのですが、魅力の1つになっているのが、思い思いに自由に過ごせるようになっているところです。1人でビールにじっくり向き合って味や飲み方を試すのもありですし、仲間内で楽しむのも、近くにいた人と仲良くなって盛り上がるのもありです。いろいろな楽しみ方をしていただきたいですし、そういった場づくりを意識しています。
店舗はお客様に出会い、未来の種を蒔く場所
──リアルな場は、ファンエンゲージメントにおいてどのような役割を果たすとお考えでしょうか。
仮屋:エンゲージメントの「広さ」と「深さ」どちらの役割も持っています。まず「広さ」で言えば、拠点ができること自体に大きな価値があります。ビール自体の認知はあっても、楽しみ方や種類の多様さは情報だけだと伝わりにくいものです。しかし、エンターテインメントをともなう場があると、「なんだか楽しそうだな」と初めて来てくださるお客様がいらっしゃいます。
品川の「YONA YONA TOKYO BREWERY」はオフィスワーカーの方がたくさんいらっしゃいますが、このお店ができたから初めて来てくださった方がいらっしゃいます。大阪の「よなよなビアライズ」でも、建設工事が始まって「何ができるんだろう」と気になっていた多くの地元の方が開業直後から足を運んでくださいます。通常の企業活動だけではなかなかアクセスできない方々と出会い、コミュニティの幅が広がるという点ですごく機能していると思っています。
──深さの面ではいかがですか?
仮屋:2つの側面があります。初めて知った方が店舗でヤッホーブルーイングを好きになるという濃いブランド体験を提供できています。もう1つ、元々ビールを好きな方々がさらに深いコミュニティを店舗でつくっています。
イベントは常設ではないという弱さがあります。その一瞬は特別感を持っていただけますが、やはり平熱に戻っていきます。一方、店舗はオールウェイズ・オンのタッチポイントになります。一度私たちと出会ってくださったお客様が2回、3回とご来店いただき、好きになっていただける。あるいはファン同士のコミュニティの場になっていきます。
──店舗を運営すると、どうしても投資対効果や数値的なインパクトで評価される部分もあるかと思います。そのあたりはどうお考えですか。
仮屋:事業として店舗や施設単体での収益は生まれています。しかし率直に言いますと、施設単体で大きな成長をしていくモデルではないと考えています。店舗を起点にお客様と出会う幅が広がったり、事業者様との共創・コラボレーションが始まったりします。これが重要です。
たとえば、北海道のエスコンフィールド内にある「そらとしば by よなよなエール」でも球団や企業とのコラボレーションから話題性につながっています。泉佐野のほうでも地元の事業者様からお声がけをいただき、新しい事業や評判が生まれることがあります。
今日営業したから今日の売上に返ってくるという種類のものではないですが、2年、3年、5年と続けていったときに必ず返ってくるという確信を持っています。お客様と出会うことが一番の目的ですが、それだけでは測れない広がりの可能性を秘めていますし、そうした広がりをつくろうというマインドで取り組んでいます。
