はじめに~クロスコミュニケーションの必要性
ネット社会の進展がマーケティング環境を劇的に変化させている。本来であれば何十年に一回訪れるかどうかの大きな変革の波が、立て続けに二波押し寄せてきた。第一波はWebによって企業が自社メディアを獲得したこと。そして第二波は、消費者が発信メディアを獲得し、購買心理形成プロセスを変えてしまったことだ。ダイレクトマーケティングを展開する企業にとって、ネットは格好のツール(マーケティング装置)として活用されてきたが、今はマスマーケティングを含め、ほとんどのマーケティング手法にとっても構造的に中核に据えざるを得なくなった。そしてそのインパクトは、実はマス広告を中心に展開してきたマスマーケター企業を特に直撃しつつある。
従来、マス広告による「空爆」と売り場での販促=「地上戦」で成立したキャンペーンは、マス広告だけではブランドの購買意志決定までを促すことができなくなり、売り場への誘引力を失った。つまりコミュニケーション構造を根本的にリモデルしなければ、効果的なマーケティング展開はできなくなっている。コミュニケーション構造のリモデルには、広告コミュニケーションの開発プロセス、マーケティング組織体制などの再編成が必要だ。
それは、一言で云えばテレビCMや新聞広告といったメディアに決められた広告フォーマット上の広告表現を考えるのではなく、ブランドが見込み客との「絆」(エンゲージメント)を形成し、どのメディアにどんな役割をもたせて目的を達成するかのコミュニケーションをデザインすることである。Webによって、興味関心が顕在化すればいつでも情報にアクセスできる環境では、生活者が求めているのは、広告でもメディアでもなく、コミュニケーションコンテンツである。
企業はマーケティングメッセージを生活者が求めるコミュニケーションコンテンツに変換し、そして最適にデザインするという発想が求められている。つまり、コミュニケーションコンテンツとその構造を設計することが重要なのだ。コミュニケーションコンテンツの開発、次に、それに適合したキャンペーンをデザインした結果メディア配分が決まる。近年「クロスメディア」というワードが流行ったが、本質は「クロスメディア」というより「クロスコミュニケーション」なのだ。拙著では、次世代の広告コミュニケーションデザインのあり方としての「クロスコミュニケーション」を概念定義し、その開発プロセスやケーススタディを提示したい。
─「はじめに」より抜粋─