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BtoB企業が陥りがちなWebサイト構築の罠
BtoB企業こそ大切にすべきグローバルWebの攻略法とは

 8月9日、FatWire株式会社主催による「BtoBとグローバルWeb」と題したセミナーが行われた。グローバル展開とは、単純な“英語化や多言語化”を指すものではない。真のグローバルWebを構築する際に役立つ、多彩なノウハウが公開された。

グローバルWebの導入前に、準備しておくべき注意点とは

 まずイントロダクションとして、「グローバルWebの導入前に押さえておくこと」と題し、FatWire株式会社 代表取締役 田中猪夫氏から、グローバルWeb導入前の注意点について解説された。

FatWire株式会社 代表取締役 田中猪夫氏
FatWire株式会社 代表取締役 田中猪夫氏

 田中氏はグローバルWebを導入する前に、次の4つの簡単な注意点を押さえておくべきだと話を進めた。

コンテンツ著作権管理とグローバルPIM

 1つ目は、同社で5月12日に開かれたセミナーのテーマでもある、コンテンツ著作権管理に関する点についてだ。「写真やコンテンツに関する著作権について権利は誰にあるのか、またどの範囲まで利用可能なのか、といった点についてはグローバルに展開するなら、注意した方が良い」(田中氏)

インターカンパニー会計への取り決め

 2つ目は、グローバルWebを構築する際に発生した費用の問題だ。

 例えば、どこかの国の部署がコンテンツを作成しそのコンテンツを外国で利用するとなった際、会計上、インターカンパニー間で有料取引を行うケースがグローバルカンパニーでは多い。

 想定されるパターンとして、作成されたコンテンツは各国に有料で販売する「コンテンツ按分型」、高いクオリティで、デザイン・制作されたテンプレートを各国に販売する「テンプレート按分型」、本社IT部門の費用を使用子会社で按分する「サーバー、ライセンス按分型」などがある。

 いずれにせよ、もし取り決めがまだないのであれば、後々社内がスムースに動けるために、会計上の取り決めを行っておいた方が良いだろう。

海外オーディエンスへのプレゼン

 日本国内にサーバーを置いて、各国のコンテンツを一括管理する場合、各国間で生じる“地域の温度差”を考慮する必要がある。日本国内だけであれば、更新が簡単というポイントだけでも担当者は満足する場合もあるが、レコメンデーションのカルチャーが強い欧米のマーケティング担当者に対しては、マーケティング機能の説明やデモが必要となるだろう。「マーケティング志向の強い欧米は特に、グローバルWebを導入する際には事前の根回しをしておくことをお勧めする」(田中氏)

ソーシャルメディアガイドラインのグローバル化

 「日本国内でもソーシャルメディアガイドラインを持つのは常識となっている。グローバルWebを構築する際には、グローバルで通用するソーシャルメディアガイドラインが必要だ」と語る田中氏。参考サイトとして、グローバル企業のソーシャルメディアガイドラインが多数掲載されたSocial Media Governanceを紹介。「全世界共通で良いのか、各国の文化に合わせて変更した方がいいのか検討してもらいたい」と語った。

BtoBのサイト評価に役立つ「BtoBサイト調査」とは?

 次に登壇したのは、株式会社日本ブランド戦略研究所 代表取締役 榛沢明浩氏。「グローバルBtoBサイトの10のポイント」と題し、ユーザーニーズに沿ったグローバルWebの構築のポイントについて、同社が実施するBtoBサイト調査に基づく豊富なデータとともに紹介された。

株式会社日本ブランド戦略研究所 代表取締役 榛沢明浩氏
株式会社日本ブランド戦略研究所 代表取締役 榛沢明浩氏

 10のポイントの話に入る前に、同社が行う「BtoBサイト調査」について触れておこう。毎年4月下旬~5月上旬に240のBtoBサイトを対象に行われており、100万人程度のビジネスパーソンにアンケートを実施。うち有効回答数は1万人程度という大規模な調査となっている。今年は国内だけでなく、中国でも同様の調査を実施。(BtoBサイト調査in中国)次の観点からBtoBサイトの「ビジネス貢献度」を明確化されている。

  • 視聴率…ターゲットに対する到達度/アクセスのきっかけと目的/サポート等の利用状況
  • ユーザー評価…サイトの印象/ニーズ充足度とその理由/サイトの問題点
  • 営業補完度…購入・検討実態/サイト閲覧後の行動/売上に対するサイトの効果

 BtoBの場合、Webで営業が完結するということはほとんどない。営業への橋渡しがWebの役割となる。またBtoCと異なり、オープンになったデータが整備されていないので、BtoB企業のサイト評価をする際には参考になるデータとなるだろう。

グローバルBtoBサイトの10のポイント(ポイント1~3)

 榛沢氏が挙げるBtoBサイトの10のポイントは以下の通りだ。

  1. 国により異なる製品情報との連携
  2. スペック情報の確実な格納
  3. 生産終了品と相当品との連携
  4. 専門サイトとの連携/XML配信
  5. 探しやすさ(サイト内検索は最後の手段)
  6. オプション、カスタマイズ品、関連製品のレコメンデーション
  7. CRM/Salesforce.comとの連携
  8. 会員管理との連携
  9. 会員への誘導
  10. 多言語対応(現地の言葉のWebサイト)

 では順に内容を見ていこう。

1. 国により異なる製品情報との連携
2. スペック情報の確実な格納
3. 生産終了品と相当品(後継製品/現行品)との連携

 ポイントの1~3は製品情報をいかに整備するかに関わるポイントだ。なぜこれらが重要なのか。その根拠となるデータを紹介していく。

 以下の表はBtoBサイトのニーズ充足度をランク付けしたものだ。ニーズ充足度とは、ターゲットに占める、当サイトにアクセスし、かつ情報ニーズが充足された人の割合のこと。(参照:ニーズ充足度

講演資料より掲載(以下、同)
講演資料より掲載(以下、同)

 このランキングは2011年のものだが、オムロンは5年連続1位となっている。上位にはFA(制御機器等)のサイトが並んでいるのが特徴だ。「上位企業は早くから相当品・生産終了品に関するニーズが高いと気付いて、取り組んできた会社。ニーズ充足度と購入検討率とは正の高い比例関係にある」と榛沢氏は解説した。

 次いで紹介したグラフはニーズ充足度と購入検討率の関係を表したもの。「BtoB企業ではWebサイトのニーズ充足度が軽視されがちだが、ニーズ充足度をどう上げていくかを考えることが、購入検討率を高めていくことにつながるということがデータでしっかりと現れている」(榛沢氏)

 アクセス目的の内訳を見てみると、最も多いのは購入検討段階における「導入の参考」であり、アクセス目的の半数を占めている。

 (導入検討段階)企画の立案+導入の参考=25.6%+48.4%

 (購入・導入後)導入済み製品について調べる=35.9%

 一方、購入・導入後も35.9%と意外と多く占めており、新たな製品の導入検討へ繋がる閲覧行動に結びつくことが読み取れる。

 けれども、サイトの問題点において「旧製品や代替品の情報が少ない」という点が挙げられており、なかなか企業側が対処できない問題だという。その理由を榛沢氏は次のようなメーカーとユーザーの思惑のギャップによるものだと分析した。

  • メーカー側…新製品を売りたい/売れない製品の情報をいつまでも公開しておきたくない、など。
  • ユーザー側…旧製品が図面に組み込まれている(部品など)製品探索のため、すでに特性を把握している/検証済み/利用実績がある、など。

 ちなみに、生産・販売終了品/旧製品情報に対するニーズについて自由回答を求めたところ、以下のような意見が挙がったそう。サイト改善にぜひ役立てたいところだ。

自由意見
  • 製造中止品の代替品およびマニュアル類を閲覧したい(電子部品・材料)
  • サポートがある期間は継続して載せて欲しい(情報システム)
  • 廃止/保守品種の情報検索ができるようにしてほしい(電子部品・材料)
  • 代替品表示を徹底して欲しい(電子部品・材料)
  • ある製品の旧タイプ/次タイプなど時系列での特定商品の流れを知りたい(印刷用機器・資材)
  • 旧製品の検索がしにくく、現行品との互換がわかりにくい(計測機器)

グローバルBtoBサイトの10のポイント(ポイント4~6)

4. 専門サイトとの連携/XML配信

 10のポイントの4つ目は、集客に関わる部分。榛沢氏はこんなグラフを紹介した。

 このグラフはアクセス(流入)から問い合わせ(コンバージョン)までの推移について平均値を算出したものだ。アクセスから問い合わせまでに至るまでにユーザーの数は急速に減少していることがわかる。

 「BtoBの場合、効率を重視してアクセスの母数は軽視される傾向にあるが、アクセスを集めるところで大きく出遅れると、それ以降の段階で取り返すことはきわめて困難である。アクセスで母数を多く集めているところは減衰しても問い合わせ段階でアクセスの少ないところに逆転されることは滅多にない。つまり、最初の集客の段階で出遅れたときに、後で持ちなおすことは難しいということだ。BtoBでも最初のアクセスがとても大事だということを忘れてはならない」と榛沢氏は語る。

 では実際、専門サイトからの流入はどれくらいあるのだろうか。各サイトへのアクセスのきっかけを見てみると、「業界サイト・専門サイトの情報を見て」が最も多く、重要な誘導元となっていることがわかる。

 「こういった専門サイトに対して随時情報発信していくことが大事」(榛沢氏)

 さらに製品・サービス分野別の専門サイトの閲覧率を見てみると、全体的に「nikkei BP」が最も多い。FA(制御機器)では、最も閲覧率が高い専門サイトに「ミスミ」というECサイトがランクインしている。必ずしもECサイトで購入しているとは限らないが、業界によってはECサイトも情報発信をする場として有効であるようだ。

5. 探しやすさ(サイト内検索は最後の手段)
6. オプション、カスタマイズ品、関連製品のレコメンデーション

 先に紹介したサイトの問題点で、「旧製品や代替品の情報が少ない」と並んで不満点の1位となっていたのが「情報の分類がわかりにくい」だ。これを解消するためにサイト内検索という手段を安易に採ってしまうのは得策ではないと榛沢氏は指摘。その理由として、以下の点を挙げた。

  • 部分一致だと大量の検索結果が表示され、選択できない。
  • キーワードより型番検索の方が有効な場合が多いが、正しく型番を入力できないことが多い。(正確な型番を入力できない/枝番や記号(ハイフンなど)の違いのため目的のデータをヒットできない)
  • 画像付きの検索結果を表示させるサービスでもあるが、部品のように見かけだけでは区別が付かない製品にはあまり有効でない。

グローバルBtoBサイトの10のポイント(ポイント7~10)

7. CRM/salesforce.comとの連携
8. 会員管理との連携
9. 会員への誘導

 セミナーでは「どのようなメリットがあれば会員登録をしたいか」に関する調査結果も示された。

 これによると、最も多いのは「スキルアップに役立つ情報がある」であり、次いで「資料請求がしやすい」「登録した製品の関連情報が入手できる」「サイト上で見積もりができる」と続く。

 「個人情報を提供する抵抗を減らすためには、ユーザーにベネフィットを提供する必要があるということだ。レコメンドしていくことで、これらのニーズに応えることにも繋がる」(榛沢氏)

 そして、相当サイトの業務系DBとの連携についても調べてみたところ、SCMシステムよりCRMシステムに連携する企業の方が多いことがわかった。しかし、CRMシステムの中で最も多い割合を占める顧客DBとの連携が実現されている企業は全体の4分の1に過ぎない。

 さらにCRMシステムとの連携について従業員規模別で見てみると、イメージでは大企業の

 方が進んでいそうだが、むしろ大企業の方が顧客DBとの連携が遅れていることが判明。従業員規模別に見たところ、1,000人未満は36%だが、1,000人以上は16.7%と非常に少なくなってくるという結果となった。

 問い合わせ履歴管理などは大企業の方が進んでいるようだが、顧客DBとの連携はあまり進んでいない。既存システムがしっかりしているがゆえに、Webと連携させるためのハードルが非常に高くなっているようだと榛沢氏は分析する。

10. 多言語対応(現地の言葉のWebサイト)

 外資系企業のサイトに対する不満点として、以下の調査結果が紹介された。

調査結果
  • 日本語化して欲しい
  • 日本語訳の充実を望む
  • 日本語での情報を多くして欲しい
  • 日本語にもっと対応を
  • ローカライゼーションをしっかり
  • 日本語のマニュアルが少ない
  • 日本語情報をメインにしてほしい

 とりあえず英語で対応しようとするところが多いが、英語圏以外の国も考慮に入れると、それではやっぱり不十分だと語る榛沢氏。上記の不満は日本人の意見だが、同様のことが日本企業の海外現地向けサイトでも問われるであろうことはほぼ必然だ。「今日紹介した10のポイントをしっかり押さえて、ユーザーのニーズに沿ったグローバルWebの構築に取り組んでほしい」(榛沢氏)

ユーザーニーズを満たしながら、複雑な構造を持つ製品も、スマートに一括管理

 最後に、FatWire株式会社技術部 木村潤氏によって、生産終了品と相当品の連携に関して、同社が提供するCMSのデモが行われた。

FatWire株式会社技術部 木村潤氏
 FatWire株式会社技術部 木村潤氏

 木村氏は、Microsoft Windows OSの変遷を紹介。ひとつの製品でも進化は複雑で、単純な横並びではないことを示した。

 「このような複雑な製品構造を持つデータベースを管理するには、BtoBに即したCMSを使っていただきたい」と語る。

 デモでは、すべての製品情報をひとつのデータベースに登録して、複雑な製品構造を管理する模様が紹介された。生産終了品となった製品ページの下には、代替品のレコメンデーションが表示されるところが特徴だ。

 新製品ページには、生産終了品との違いが案内され、ユーザーの不満として挙がっていた問題に応えられる仕組みとなっている。グローバルという視点だけでなく、ユーザーのニーズを満たして長期的な関係を築くことが、グローバルWebの成功への鍵と言えそうだ。

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この記事の著者

野本 纏花(ノモト マドカ)

1983年生まれ。成蹊大学経済学部卒業。大学卒業後、大手IT企業にてレンタルサーバーサービスのマーケティングを担当。その後、モバイル系ベンチャーにてマーケティング・プロダクトマネージャーを務める傍ら、ライター業を開始。旅行関連企業のソーシャルメディアマーケターを経て、2011年1月Writing&Marketing Com...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2011/08/18 17:22 https://markezine.jp/article/detail/14233