O2Oカオスマップ
最近、日本経済新聞がO2Oを取り上げるなど、「O2O」という言葉がマーケティングを専門とされていない方にも浸透しつつあるようです。O2Oの言葉の定義にもさまざまあるようですが、ある金融系サービスの話題をカバーするブログに、日米のO2Oサービスを分類した図が掲載されていましたので、これをなぞりながら今後の業界の方向性を考察してみたいと思います。
このカオスマップを眺めていると、スマートフォン端末が急速に世の中で普及していることで、小売店の店頭のあり方に変化が生じていることがわかると思います。特に米国版のカオスマップにおいては、グル―ポンのようなデジタルクーポン、shopkickのようなクーポン以外のリワード、RedLaserのようなバーコードスキャンの領域が多数のプレーヤーがひしめく激戦区だということが見て取れます。
これらに共通するのは、より安く、よりお得にという消費者にとって最もわかりやすい価値を提供している点です。やはり、O2Oの世界でも価格訴求というのは消費者に対する強い誘因になるようです。
価格感度と値付けのバランス
一方、これらのサービスと今まで店頭で行なわれてきたような値引きとの違いは、スマートフォン端末を介して行なわれるサービスであるため、消費者個々人に対して値引きの内容をパーソナライズできる可能性が高いことです。これは、従来のプライシングの考え方自体を変えてしまう可能性を秘めています。
従来の一般的な値引き、たとえば通常140円の牛乳を1パック100円でセールした場合を考えてみます。この場合、もともと定価の140円でも牛乳を買おうと考えていた消費者については1本当たり40円の機会ロス、つまり売り上げ減が発生します。一方で価格が100円になることで、140円では買わなかったであろう消費者の中にも買おうと考える人が増えて、この増加した人数分に関しては売り上げ増となります。
つまり消費者の価格感度に応じて売り上げ増が売り上げ減を上回る最適な価格のバランスを決めることはリスクを伴う難しいことだったわけです。多くの近代的な小売店は過去の統計から価格感度を把握する努力をしており、売行や在庫に応じて時間別に価格を変動させています(夕方のスーパーマーケットの惣菜売り場や、季節の終わりの服屋さんがいい例です)。
「一物一価」と「一物多価」、そして「バーチャル一物多価」
このプライシング最適化が内包する難しさは、来店者全員がひとつの商品を同一の価格で買わなければならない「一物一価」であることに起因しています。理想的には140円で買いたいと考える人には140円で、100円でしか買おうと思わない人には100円で販売することができれば、売上を最大化することができます。このことからプライシング理論では、売上を極大化するためには「一物一価」はすぐれた値付けの方法ではないとされています。
「一物多価」つまり、商品の価格が個々人でバラバラに設定することが可能になれば、あらかじめ牛乳を買うことがわかっていれば値引きはせず、逆に絶対買わないということがわかっていれば、値引きするように設定することができます。
日本の小売店において、同じ商品が人によって違う値段で販売されるということは非現実的のように思われますが、実際にはさまざまなロイヤリティプログラムやクーポンを組み合わせることによって、人によって価格が異なる「一物多価」が疑似的に成立しつつあるように思われます。「会員特別割引」「携帯クーポン」「フラッシュマーケティング」「クローズドキャンペーン」などはいずれも疑似的な「一物多価」の仕組みですが、すでに数多くの企業が導入しています。
スマートフォンというパーソナルな端末が店頭で存在感を増すにつれ、人によって異なる割引サービスを受けることが容易になり、この「バーチャル一物多価」はより加速するものと思われます。