今年5月まで「スマポ」経営陣は掛け持ちでした
今年5月にベンチャーキャピタルから1.5億円の調達を行うまで、「スマポ」の主要メンバーは他の企業で働きながら、つまり「掛け持ち」での起業でした。そんな中途半端なやり方はけしからん、と思うでしょうか。しかし、これには理由と信念があります。
個人的な話になりますが、「スマポ」を経営する株式会社スポットライトは私の4回目の起業です。過去3社のうち売却2、成長中1、廃業は0件。うち1つは上場企業へ売却した「ショッピッ!」です。そしてそのいずれのケースも、学生であったり会社勤めであったり、当時は別の身分との「掛け持ち」でした。
なぜ、確信犯的にこのようなアプローチを取るのか。それには合理的な理由と、大げさに言えば日本を変えるヒントがあります。
独立ありきではスタートアップは育たない
事業を創るのは大きなリスクを伴います。新規開業から3年後の生存率は50%未満しかありません(製造業の場合。経済産業省「工業統計表」より)。
失敗した場合、人生に大きなダメージを受けると考える人も多いかもしれません。失敗に不寛容な日本では、廃業には悪いイメージがあります。起業の成功率は低く、失敗は取り返しがつかないことだとすると、起業は、魅力的な選択にはなりません。
苦労しながらも一代で優良企業を育て上げた経営者の諸先輩方も、「自分の子供には同じキャリアを歩ませたくない」と言う方が多数派です。自分は運に恵まれたからよかったものの、リスクが高い選択だったことを痛感しているようです。
「手堅い起業」が爆発的な成長につながらない理由
一方、日本では年間10万社前後の開業届が出されています。この中には、起業のリスクが高いことを知ったうえで、それでもなお起業したいと考える方々も多くいます。必然とも言えるでしょうが、多くの独立開業をされる方は、まず手堅い事業から始めようと考えます。たとえば、コンサルティング、販売代理店、受託開発、フランチャイジーなど自分のスキルや時間を切り売りする投資のかからない商売です。
しかし、これでは「スタートアップ」という感じは出ません。実際、独立された方は、こんな「脱サラ」商売ではいけない、もっと大きなことがしたくて開業したのだ、という思いを持たれることが多いように見受けます。そして、「空いた時間で自社サービス(商品)を開発しよう」と考えるわけです。たとえば、日中は受託開発を行い、夕方と週末は飲みに行く時間を削って自社サービスを開発するなどです。
ところが、この「空いた時間で自社サービス」が爆発的な成長を遂げることはあまりありません。個人的な経験や観察では、
- 現金収入のための事業が実質的に優先され、自社サービス開発をするリソースが結局なくなる
- 同じ分野で「それ専業」のプレーヤーとの競争になり、敗れる。またはニッチに押し込められる
- 非連続的な成長ができる組織スキル・組織風土にならない
が主な理由です。
結果として、世界を変えたいという大望のために起業したのにもかかわらず、日本にあまたある中小企業のひとつになっていってしまいます。これが無駄だと言っているわけではありません。しかし、アップルやグーグルのような企業を生み出すアプローチではないことも確かです。
問題は、起業家個人のリスク(人生を棒に振らない)と、事業としてのリスクが切り分けられていないことにあります。安定したサラリーマン人生をやめて、手堅い事業から始める、というのは本末転倒になりかねません。独立ありきでは、リスクを取って急成長するスタートアップを育てることは難しいのです。