DSP運用できているのはわずか2割の現状
DSP(Demand Side Platform)も運用が大切――。スマートフォン特化型DSP「Bypass」の運用まわりの機能について前回記事で紹介した。運用の重要性について、“当たり前のこと”と感じたMarkeZine読者は多かったのではないだろうか(参考記事)。
ところが、まだDSPでPDCA運用をきちんと回せているアカウントは約2割だと言う。「DSPをしっかり運用している約2割に目を向けてみると、リスティング広告の運用を強みにしている、もしくは、トレーディングデスクをもっている広告代理店がほとんどです」(DSP事業部 事業部長 岡部健二氏。以下、同)
リスティング広告で培った運用ノウハウをDSPでも活かし、PDCAを回して広告効果を改善してきていると岡部氏は指摘する。
この状況は、リスティング運用に長けた広告代理店や、顧客のスマートフォン関連事業を支援する立場の企業にとって、絶好のチャンスになるのかもしれない。
「Bypassは当社から事業会社に直接営業することはなく、代理店経由で導入いただいています。最初のころはスマホ専業の広告代理店や、総合広告代理店からアカウント登録いただいていましたが、最近は広告代理店ではない企業の新規アカウントが目立つようになってきました。
“広告代理店ではない企業”とは、PR会社やコンサルティング会社、EC関連のシステムをASP提供する会社などです。彼らは通常、広告代理店として活動していませんが、彼らの顧客はスマホ関連のビジネスを拡大してきています。支援している顧客から『ついでにスマホでの集客も手伝ってよ』と相談を受けて、『何とかしないと。まずは広告から始めよう』とBypassに問い合わせいただいているようなのです。
従来は、どの代理店からディスプレイ広告を買っても効果はそんなに変わりませんでした。それがDSPの普及によって運用が大切になりました。代理店の運用ノウハウ次第で、広告効果に大きな差が生まれるようになってきているのです」
Bypassがバージョンアップ、さらに高度な運用が可能に
Bypassは10月26日、広告効果をさらに押し上げる一連の機能をリリースした。「レコメンド配信」「クリエイティブ最適化」「シナリオ配信」という3機能の追加が主な変更点。これまでよりも高度な運用が可能になる。これらの機能によって、Bypassの運用はどう変わるのか。詳しく掘り下げていこう。
先行例でCTR 1.5倍、CVR 2倍の実績。ユーザー単位で最適なクリエイティブを選ぶ「レコメンド配信」
今回加わった主な機能の1つが「レコメンド配信」。配信するクリエイティブについて、広告枠単位ではなくユーザー単位で自動的に最適なものを選んでくれる。
配信するクリエイティブを決めるために、まずは対象となるユーザーの行動履歴を参照。ECサイトの場合なら、過去に閲覧された製品や同カテゴリの製品の広告を表示。あるいは協調フィルタリングを用いて、同じような行動履歴を持つユーザーが購入した製品の広告を配信する。
「レコメンド配信はPC向けのDSPでかなり注目されている機能です。スマホ向けDSPでいち早く導入しました。ECや旅行、不動産、人材などの業界で、特に効果があるのではないでしょうか。実はBypassを利用されているお客様の中には、他社のレコメンドエンジンを使ってレコメンド配信を既に試されたところがあります。クリック率(CTR)で1.5倍ほど、コンバージョン率(CVR)で2倍ほどパフォーマンスが良くなりました。Bypassで今回採用したものとは別のエンジンでの実績ですが、同程度の効果は見込めるのではないでしょうか」
クリック課金型の運用よりもさらにCPCを引き下げるために開発された「クリエイティブ最適化」
続いて紹介するのは「クリエイティブ最適化」。CTRを上げるためにクリエイティブ配信を最適化してくれる機能だ。Bypassでは現在、広告がクリックされる単価(CPC)の目標値を入力して、あとは最適化機能に任せるクリック課金型の運用が推奨されている。
しかし、さらにCPCを引き下げたいという声が、Bypass利用企業の中から出てくるようになった。そうした企業にはクリック課金からCPM(Cost per mille:広告掲載1000回当たりの単価)課金に切り替えてもらい、CTRを上げることでCPCを減らしてもらおうと考えた。利用企業からの要望に応える形で開発された機能なのだ。
広告接触回数ごとにクリエイティブを出し分ける「シナリオ配信」
最後に取り上げるのは「シナリオ配信」の機能。以前の記事で、スマホ広告は接触回数が25回前後までそれほど落ちないことに触れた。この機能が実装されたことで、接触回数ごとにクリエイティブをきめ細かく変更し、広告効果を改善していく運用が可能になった(参考記事)。
例えば、接触回数の少ない間は人気の製品を訴求する一般向けのクリエイティブを配信。何度も広告を見てユーザーが飽き始めたところで、「こんなに多くの人が購入しているのに、あなたはまだ買っていないんですか!?」と煽る広告を出す。それでもクリックしてくれない人には、価格帯が一段低いお手ごろな製品に切り替えて訴求するのが効果的かもしれない。
そのように、広告接触回数ごとのユーザーの反応を想像してシナリオを作成していくことで、より高度なユーザーとのコミュニケーションを実現できるようになったわけだ。
直感で操作可能なBypass管理画面
運用に役立つ機能を矢継ぎ早にリリースしていくBypass。最新動向に追いついていかないと、運用ノウハウを持つ代理店との差が広がっていく心配もある。
ただ、Bypassの管理画面はとてもシンプルなつくりになっている。マニュアルを見ながら難しい設定方法を覚えていく必要はなく、直感的に操作できると好評。DSP運用に不慣れでも、すぐに操作を覚えられるはずだ。食わず嫌いして「知らないものには手を出さないでおこう」ではなく、まずはできるところから使い始めてみたらどうだろうか。
逆に、DSP運用に慣れている代理店には、それゆえの落とし穴がある。DSPごとに広告を買い付けるロジックが異なるため、あるDSPで成果を残せた運用戦略でも、Bypassにそのまま当てはめると上手くいかないことも起こり得る。
「それぞれのDSPごとの買い付けロジックについて、特徴を把握しておく必要があります。RTB(Real Time Bidding)のオークションロジックを理解せずに運用していては、成功する確率が低くなります。仕組みを理解した上で運用することが成功への近道になるのではないでしょうか」
国内の主要スマホSSP各社と年内に連携。広告在庫は100億impほどに
Bypassは導入企業数・広告出稿量が予想以上のペースで伸びてきた分、広告在庫の確保が課題になりつつあった。しかし、9月に「Geniee SSP」「忍者AdMax」と連携。
さらに10月29日にはGREEの「AdLantis SSP for Smartphone」との連携を発表し、年末までには複数のSSPと連携する予定で、100億impほどの広告在庫を確保できる見通しだ。
「スマホのDSPとして、広告在庫が少ないところが事業規模を拡大する上で課題になっていました。広告在庫を確保できる目処が立ちましたから、今後は機能を拡張する方向に開発リソースをもっと割いていくつもりです」
今後、新機能として考えているのは、クライアントごとに異なるKPIにあわせて、前述のRTBの買い付けロジックを個別にカスタマイズできる機能。重視する指標は顧客獲得単価(CPA)なのか、それとも投資対効果(ROI)なのか。顧客の重視する指標で良い成果が出るようにカスタマイズできる機能を開発していきたいと岡部氏は展望を語っている。