『新しい市場のつくりかた』著者が語る! 世の中に支持される商品開発とは
基調講演には、『新しい市場のつくりかた』(東洋経済新報社)の著者、東海大学政治経済学部専任講師の三宅秀道氏が登壇。「日本の製造業における新しい市場のつくりかた」と題し、講演を行った。 三宅氏はまず、三菱重工の人工衛星の姿勢を制御する「ジャイロ」の技術を、イタリアの高級船舶メーカー、フェレッティ社が導入した例を挙げた。
「フェレッティ社から、大富豪が船上パーティーを開催する際、海上でもワインがこぼれないように、ジャイロの技術を導入したいと言ってきたそうです。三菱重工側から見れば、そうした活用方法はまったく想定しておらず、またニーズを探るリサーチもしていなかったと言います。厳しい言い方をすれば『たまたま』販路が広がったにすぎない。もし大富豪が『海の上なんだから、ワインはこぼれても仕方がない』と思っていたら、必要とされなかったわけです。つまり、何かの役に立たなければ、どれだけ高性能であっても価値はないと言えます」
価値を自ら作り上げた例として、フランスのタイヤメーカーである、ミシュラン社のミシュランガイドを紹介。黎明期に、自動車を使ってもたらされるしあわせを「おいしいレストラン」を紹介することでわかりやすく伝えた。その文化が浸透することで、結果的にタイヤが売れることにつながったのである。
つまり「新しい市場」をつくるには、技術やモノがもたらす価値や文化が認識されなければならない。価値や文化が認識されるような商品の開発はどのように行われれているのか。三宅氏はこれまでに1,000社を超えるインタビュー経験を持つが、特別な技術力、組織力、資金力があるわけでもない、小規模企業(20人以下の企業)が成功していることに気づいたという。
「たとえば、ファイン株式会社の『レボ Uコップ』という商品があります。わざわざ飲み口が半分以上カットされていて、それほど容量が入らない、一見不便なコップです。でも実は、傾けても鼻に当たらないため、首を曲げなくても全部飲み下すことができる、ある条件のもとでは非常に便利なコップなんです」
この商品開発は、いかにしてなされたか。ファインの清水直子社長は「問題を発見できてよかった」と言ったそうだが、三宅氏は「『発見』ではなく『発明だ』」と言う。
「本質的に、商品の企画はサイエンスではありません。『首を曲げなくても水が飲めたらいいのに』と思ってコップを作ったように、こんなものがあったら世の中ステキじゃない?というビジョンを投げかけて、世の中がそれに賛同してくれるかを問う。これが商品の『企画』です。音楽を演奏したり絵を書いたりするのと同じ、アートなんです。
多くの日本企業は、技術開発と同じようなサイエンスのアプローチで企画もやろうとしています。すると、世の中の流れや空気を読みすぎて、自分の理想を掲げていない、差別化できないものになってしまいます」
では、世の中に賛同されるような理想ある、商品開発とは。三宅氏は、「文化的制約」「技術的制約」「環境的制約」「経済的制約」という、4つのプロセスを一気通貫でコーディネートすることだと言う。
「製造業の方とお話していると、老舗で、華々しい歴史をもってらっしゃる企業ほど、4つのプロセスのうち、得意分野の『技術』の一本槍でどうにかしようとしてしまう。すると、技術はほどほどでも、文化や環境のほうから発想するというやりかたが出なくなってしまう」
技術の一本槍では価値は創造できない。それに気づいたら、三菱重工のジャイロとフェレッティ社の出会いのように運に任せるのではなく、ビジネスマッチングも積極的に行う必要がある。それを生み出すのは、合目的性を求めない「コミュニケーション」だと言う。
「『街で知らない人と仲良くなったのはいつですか?』と問いかけたいと思います。自分たちの持っている資源が別の形で活きるかもしれない。そういうことをリサーチするには、会う前から『この人に会ったらトクをしそうだ』という人を選んではいけない。新しい価値観を自分の中に呼び込むなら、合目的性ばかり追求していると、未来の価値観が錆びてしまうんです」
最後に三宅氏は、今日からすぐに実行できることとして、「価値観が違う人、自分と問題意識が違う人と積極的にコミュニケーションをとっていくこと」を勧め、講演を締めくくった。(次ページはパネルディスカッション)