製造業のマーケティングに必要な新しい意味での「コミュニケーション」とは
第二部は、パネルディスカッション。パネリストには、三宅秀道氏、コクヨファニチャーの藤木武史氏、イプロスの岡田登志夫氏、モデレーターとしてパワー・インタラクティブの岡本充智氏が登壇した。
まずは、藤木氏が手がけるグループワークについて。公共施設用のロビーチェアを開発する際、デザイナーや営業担当など同社の社員、施設を運用する人たち、施設を利用するさまざまな人たちが実際に参加して使用し、問題点をディスカッションしながら作っていくというやりかたを始めたと言う。
「グループワークにより、当社の商品開発メンバーだけは気づけなかったさまざまな問題点を見つけることができました。これは単に優れた商品開発をプロジェクトで行ったと言う結果が重要なのでありません。開発、設計、営業や実際の利用者など異業種なメンバーで多くの発見を共有することが企業の財産を構築することとして大変重要です。これが製造業としても今後の『開発プロセス』や『販売戦略の実行』として重要なものとなってくるのではないでしょうか」(コクヨファニチャー・藤木氏)
製造技術データベースサイト「イプロス製造業」を運営する岡田氏は、 商品開発プロセスを共有することは、マーケティングにも有効だとする。
「ネットプロモーションでもっとも重要なのは、商品開発のストーリーをしっかりと作り、それをわかりやすく、読者に響く形でテキストや画像に落としこむこと。コクヨファニチャーさんの取り組みは、そういった意味でも非常に有効だと考えます。こうしたマーケティングは、現在、多くの製造業界の企業では、高度成長期に現場を見られてきた方が幹部になられていることもあって、まだまだ理解されにくいのかなと感じています」(イプロス・岡田氏)
モデレーターの岡本氏は、三宅氏の書籍『新しい市場のつくりかた』から、自動車メーカーとアパレルメーカーの違いについての記述を引用。三宅氏は、アパレルメーカーが「若い才能が正しい」と、謙虚に新しいアイディアを取り入れる姿勢を見習うべきだと言う。
「途上国でも、技術的には同じレベルのものを作れるようになってきています。先進国はコンセプトでそれに勝たなきゃいけない。そうなると、先入観のない若い人の意見が求められます。気心が知れていない人との、ちょっと苦痛を伴うコミュニケーションを乗り越えた先に、自分のアイデンティティが見えてくることがあるんです」(三宅氏)
今回のセミナーのテーマとして設定した「コミュニケーション」について、ネット活用の面から岡田氏は次のように述べた。
「ネットで出会いというと、ソーシャルメディアになるかと思いますが、そこで面識のない人同士がビジネスの話をするのは非常に難しい。そこで我々のサイトでは、リコメンドの仕組みを取り入れて『予期せぬ出会い』を生み出し、新しいイノベーションを促進していきたいと考えています。製造業はBtoBと言われますが、これからはBtoBtoCなのかなと。最終的には『人』を考えてビジネスをしていくべきだと感じました」(イプロス・岡田氏)
藤木氏は、製造業の立場から「ものづくりだけでは厳しい時代」としながらも、コミュニケーションから活路を見いだせるとする。
「これまで、商品開発についての伝達が非常に曖昧だったのではないかと思いました。グループワークで行ったような商品開発の経緯を、お客さまにもストーリーとしてきっちり伝えていく。そうすることで、日本の製造業も魅力あるものが作り続けられるのではないかと思います」(コクヨファニチャー・藤木氏)
最後に三宅氏が、「新しいものづくり、新商品の開発のためのコミュニケーションは既にお互いの辞書にある概念の伝達を前提にした単なるデータの通信でなく、これまで伝わらなかった、意識化できなかったようなことを伝えるために、新たな言葉や概念から作って文脈から深く伝える努力を積み重ねていくことになるでしょう」とまとめ、パネルディスカッションを締めくくった。