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イベントレポート

AIエージェントの時代が到来──グローバル企業各社の展望と、アドビが新たに示したマーケティングの進化

 米国時間の2025年3月18日から20日にかけて、アドビが主催するデジタルマーケティングカンファレンス「Adobe Summit 2025」がラスベガスで開催された。2日目の基調講演では、JPモルガン・チェースやマリオット・インターナショナルなどアドビのソリューションをマーケティングで活用する企業が登壇した他、同カンファレンス内で新たに発表されたAIエージェントについて紹介がなされた。本記事では、講演の中からMarkeZine編集部が注目したトピックスをピックアップしてお届けする。

「AIは世界を変革する」JPモルガン・チェースでのAI活用

 Adobe Summit 2025の2日目に行われた基調講演では、まずJPモルガン・チェースの会長兼CEOを務めるジェイミー・ダイモン氏とアドビの会長兼CEOであるシャンタヌ・ナラヤン氏が登壇。AIの進化と金融業界における活用戦略について語った。

 4兆ドルの資産を管理し、1日10兆ドル以上の資金を動かす巨大な金融ネットワークを統括するJPモルガン・チェースは、アメリカを代表する金融機関といえる。そんな同社を率いるダイモン氏に、ナラヤン氏は大規模な企業におけるイノベーションについての考えを尋ねた。

JPモルガン・チェース 会長兼CEO ジェイミー・ダイモン氏、アドビ 会長兼CEO シャンタヌ・ナラヤン氏
左:アドビ 会長 兼 CEO シャンタヌ・ナラヤン氏、右:JPモルガン・チェース 会長 兼 CEO ジェイミー・ダイモン氏

 ダイモン氏は「農業・印刷技術・エンジン・鉄鋼・セラミック・インターネットと並んでAIも世界を変革する力を持つ」と語った。テクノロジーとイノベーションは常に経営戦略の中心に据えられるべきであり、CIOやAI部門の責任者と経営層がともに議論する重要性をダイモン氏は強調した。

 また、顧客体験に対する見解をナラヤン氏から問われたダイモン氏は、「JPモルガン・チェースの経営哲学において顧客中心の視点は不可欠」と述べた。顧客体験を向上するためには、あらゆる業務がより良く、より速く、より効率的に行われるべきだとダイモン氏は指摘。かつてAmazonの創業者であるジェフ・ベゾス氏と話した際、彼がスワイプの速度をミリ秒単位で考えていることを知り、自社の速度を即座に確認したエピソードも紹介した。

 講演を通じて、ダイモン氏はAIをはじめとした技術革新が企業の進化に大きな役割を果たすことを何度も強調した。ナラヤン氏も「2024年はAIの年だったと言っても過言ではなく、それは今も続いている」と発言し、その上でJPモルガン・チェースでは金融サービスの文脈でAIをどのように活用しているか質問を投げかけた。

 ダイモン氏は、AIの導入は2012年に始まり、現在では2,000人以上のスタッフがデータサイエンスやAI、機械学習、自然言語処理に取り組み、200人規模のAI研究チームも設立されていることを紹介した。実際にJPモルガン・チェースでは、リスク管理・詐欺対策・マーケティング・顧客獲得戦略・広告運用など、AIを金融業務の様々な領域に適用し、効率化を推進している。

 また、社内の大規模言語モデル(LLM)を用いることで膨大な量の文書を分析し、日常業務の質問に迅速に対応できる環境を整備。このようなAI活用事例は急速に増加しており、たとえば商業銀行部門では運営コストが従来の10分の1に削減された。ダイモン氏は手ごたえを語るとともに「真の利点は単にコストが削減されたことではなく、何百人もの新たな銀行員が追加されたも同然と言える点です」と述べ、「これはまだ氷山の一角です」とさらなる可能性に期待を寄せた。

アドビが新たに発表したAIエージェントの一部を紹介!

 次に、アドビによる新たなAIエージェント活用に関する説明が行われた。Experience Cloudエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントであるアンジュル・バンブリ氏は、「AIエージェントは、単なる質問応答機能にとどまらず、自律的に業務を遂行する強力なソフトウェア」だとし、ユーザーが指定した要望やゴール、制約に基づいて適切なプランを策定するのだと述べた。

 「つまり、実務者は『何をしたいか』を指定し、AIエージェントは『どのように実行するか』に集中するという役割分担が成立するのです」(バンブリ氏)

 特に、Adobe Experience Platformと各アプリケーション(Real-Time CDP、Journey Optimizer、Customer Journey Analytics、Experience Managerなど)との統合により、一貫した顧客体験を実現できる。これらの機能はすべてAIアシスタントを通じて提供され、裏側では「Adobe Experience Platform Agent Orchestrator」が各エージェントを管理する。

アドビ Experience Cloudエンジニアリング担当シニアバイスプレジデント アンジュル・バンブリ氏
アドビ Experience Cloudエンジニアリング担当シニアバイスプレジデント アンジュル・バンブリ氏

 バンブリ氏はいくつかのAIエージェント機能を紹介。1つ目に挙げられた「Audience Agent」はReal-Time CDPと連携し、オーディエンス(ターゲット)の作成と管理を支援するエージェントだ。たとえば旅行会社では、航空券やホテルを予約した顧客の中からレンタカーを追加する可能性の高い顧客を特定し、ターゲティングを最適化できる。

 2つ目に言及された「Journey Agent」は、Journey Optimizerに組み込まれ、顧客の購買やカスタマージャーニーの設計を支援する。ロイヤルティプログラムでステータスを維持できない顧客に対して適切なプロモーションを提案し、エンゲージメントを向上させるなど、履歴やロイヤルティデータを分析してブランドの要件に適合した提案を行える。

 3つ目には「Experimentation Agent」が紹介された。これは、マーケティングの継続的な実証と改善をサポートするAIエージェントで、アイデアを迅速に試し有効なものを展開する上で役立つ。たとえば新規加入者のエンゲージメントを向上させる方法を模索する場合、AIが過去の実証結果と顧客データを分析して複数の施策を提案。その効果を予測し、最も成功する可能性の高い施策を選定する。その上で実施後には結果を要約して、さらに次のステップを提案してくれる。

Adobe Experience Platformに搭載された10のAIエージェント(クリックして拡大)

 またバンブリ氏は、新たに発表した「Brand Concierge」についても解説。これは、AI技術を活用し、顧客に対話形式でパーソナライズされた体験を提供するツールだ。ある顧客が数週間前に購入したズボンに合わせて最適なトップスの色やスタイルを提案するなど、顧客の購買履歴やブランドの在庫情報などを基に、より具体的でパーソナライズされた提案を行える。

 この「対話形式」がカギだとバンブリ氏。今や、会話はマーケティング担当者や意思決定者がデータから洞察を得るための新たな方法になっていると指摘した。この潮流に対応しているのが「Data Insights Agent」となる。基本的な分析や将来的な傾向の予測に加え、想定外のパターンを特定したりデータ間の因果関係を明らかにしたり、問題解決への具体的な手段を提示することもできる。

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収益目標の6倍を達成した、マリオットのAI活用

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この記事の著者

吉永 翠(編集部)(ヨシナガ ミドリ)

大学院卒業後、新卒で翔泳社に入社しMarkeZine編集部に所属。学生時代はスポーツマーケティングの研究をしていました。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/04/24 08:00 https://markezine.jp/article/detail/48989

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