収益目標の6倍を達成した、マリオットのAI活用
続いて、グローバルなホテルチェーンであるマリオット・インターナショナル(以下、マリオット)のヴァイスプレジデント 兼 マーケティング オーケストレーション担当グローバルヘッド ヒラリー・クック氏が登壇。マリオットは世界中に9,500を超えるホテルや30以上のブランドを運営し、年間350ものキャンペーンを展開し、220万人以上の会員に向けサービスを提供している。
2027年に創業100年を迎えるマリオットでは、デジタルマーケティングにおいて積み上げてきた歴史的な制約を抱えながらAIをいかに活用するかが重要な課題だという。そこでクック氏らは「MAPA(Marketing and Personalization Accelerator)」という名称でアドビ製品を用いたマーケティング基盤を立ち上げ、オーディエンス戦略とデータ活性化、コンテンツ生成の加速、オーケストレーションと意思決定など広い領域で活用している。
「AIは、何十年もの負債を解消するための万能の解決策ではありません。しかし、我々が正しい努力を厭わないなら、それは驚くべき増幅器となります」(クック氏)

またクック氏は、マリオットがマーケティングプロセスの革新に取り組んだ具体的なユースケースについても言及。プロセスの文書化を進め、修正すべきポイントや課題を具体化した結果、45の異なるプロセスを1つに統合し、顧客に対する視点を統一することに成功した。これにより、既存のキャンペーンにおけるコンテンツやオファーの更新速度を約93%短縮させ、期待した効果を上げていないキャンペーンもスムーズに修正できる環境を実現した。
さらに、試験的なアプローチにより成熟度を高めると同時にスピードを加速することで短期間による進化を生み、収益目標を大きく超えた6倍を達成できたとクック氏。またコンテンツの生成においても進化を遂げ、現在はウェルカムジャーニーのバリエーションが50万以上に増加し、市場投入までの時間は70%削減された。クック氏は、このような取り組みが顧客やビジネスに対する価値を加速する基盤を築くと説いた。
「BtoB3.0」の時代が到来
これまでは、BtoC領域でのAI活用が講演のトピックの中心だった。ここで、アドビのデジタルエクスペリエンスビジネス担当シニアバイスプレジデントであるアミット・アフジャ氏は、BtoB領域におけるAIの進化について紹介を進めた。顧客データのデジタル化やアカウントベースマーケティング(ABM)の時代を経て、現在はAIが主導する顧客ジャーニーを実現する「BtoB3.0」の時代に突入しているという。
アフジャ氏がBtoB3.0を説明する中で強調したのは、次の4つのポイントだ。まず、BtoBマーケティングは単なるマーケティングやセールス、ファネルの上流部だけに留まらず、全体を包括する必要があること。そして、リードフローとアカウントフローを包括的に理解し連携させる重要性。さらに、顧客が購買グループやジャーニーのどこに位置しているかを把握し、統一的な視点を確立する必要性。そして最後に、リアルタイムでの最適化を行い、顧客の状況に基づいて対応することだ。

さらにアフジャ氏は、データ基盤とマーケティングプロセスを統合プラットフォーム上で実現する重要性に言及し、Adobe Experience Platformがそれを可能にすることを示した。
セッション内で行われたデモでは実際に、Audience Agentによってサービスのクロスセル対象となるアカウントが推薦される様子を披露。作成した購買グループを既存のジャーニーに追加し、ユーザーに対しミーティング予約への誘導やホワイトペーパーのダウンロードなど文脈に応じた様々な体験を提供するとともに、「Adobe GenStudio」を使用してソーシャル広告コンテンツを生成・配信する方法も実演された。各インタラクションの進展に応じて購買グループのエンゲージメントスコアが更新され、一定の値に達すると営業チームへの通知が自動で行われる仕組みにより、営業とマーケティングの連携がさらに強化されるという。
アフジャ氏は続けて、BtoBのパーソナライゼーションにおいて必要とされる3つの重要な要素を述べた。まず第1にAIエージェントを使用しパーソナライゼーションを実現すること、第2にコンテンツを生成するサプライチェーンにBtoBの視点を取り入れ、パーソナライゼーションを推進すること。そして第3に、BtoBにおけるインタラクションの概念が変化している点にも言及した。かつてはフォームへのクリックが主流だったが、会話型の体験へと進化しているのだ。
講演の中でアフジャ氏は、長年にわたり議論されてきたマーケティングとセールスの融合についても触れた。そしてセールスだけでなく、カスタマーセールスチームやカスタマーサービスチームといったあらゆる部門が洞察を共有し、アカウント状況を把握できる環境を構築する重要性を挙げた。BtoC同様にBtoBでも、カスタマージャーニーを測定し最適化する必要があり、Customer Journey AnalyticsのBtoB機能がビジネスプロセスの把握と最適化に貢献するとした。