プロジェクト炎上のメカニズムと早期発見、行うべき処理の概論
4月15日・16日に開催された「Unite Japan 2013」(会場:ベルサール汐留)は、 Unity Technologies社が提供する3Dゲーム開発の統合環境「Unity」のオフィシャルイベント。これまで、アムステルダム、サンフランシスコ、モントリオールなどで開催され、内部開発者や現地のエンジニアによる実際の開発事例を紹介する、さまざまなセッションが開かれている。
今回、このイベントに、ブロガー、投資家として知られる山本一郎氏が、「ゲーム開発プロジェクトの炎上のメカニズムと早期発見、行うべき処理の概論」をテーマに登壇した。
誰しも失敗したいと思ってプロジェクトに参加しているわけではないが、さまざまな要因によって、納期を前ににっちもさっちもいかなくなるプロジェクトがある。山本氏が代表取締役を務めるイレギュラーズアンドパートナーズは、ゲームやアニメなどの製作委員会の組成や補助を行い、企画や制作を行っている。さらに、プロジェクトが炎上したとき、こうした案件を請け負って、完成にまで持っていくことも業務としている。
まさに「火中の栗」を拾うかのような仕事だが(※)、山本氏はこれまでに関わった案件からプロジェクトが炎上に至るさまざまなパターンを分析、それを打開するにはどうすればいいのか(どうするしかないのか)を見出し、その一端を今回のセッションで紹介した。会場を埋め尽くすUnityユーザーたちが興味深く見つめるなか、山本氏のセッションが始まった。
※本講演後の氏のブログでは、「逆に言えば、ある程度慣れてしまうと炎上処理や復旧策というのは楽な仕事です。いったんプロジェクト止めて、リソースを突っ込み直して要らんもの切って処理し直すだけで消火できるプロジェクトばかりですから」と語っている。
「炎上」と「デスマーチ」は違う
山本氏は、「炎上」を「時間・人員・予算というリソースをいくら突っ込んでも、求める完成度に至らないこと」と定義し、いわゆる「デスマーチ」とは違うと説明する。デスマーチは、ある程度メンバーが踏ん張ればリリースできるんじゃないかという状態で、品質は低いとしても最終的には完成に至る。
しかし、炎上はその前の段階で、どうがんばっても「これは完成しないよね…」とメンバーがうすうす感じている気付いている状態。したがって「炎上がおさまってから、デスマーチが始まる」(山本氏)。
炎上すると、ものが完成しない。ゲームとして破綻している、仕切り直しをしたいが追加で投入する予算がつきてしまった、仕切り直しをして開発者を投入したが、完成度が上がらない…などなど、やればやっただけ進捗がマイナスになるという不思議な状態、これを炎上という。
炎上と複雑性
いったん炎上したら、がんばればものができるところまでプロジェクトを戻していかなければならない。そのときのキーワードが「複雑性」だと山本氏は言う。ここからはプロジェクトマネジメントの基本的な考え方を踏まえながら解説が始まった。
ある程度、人月の大きい、3年かけてやるようなプロジェクトを立て直すというときには、いま何がどこまでできているのかを定量的に表すための進捗の判断をトレースをかけて行なう。失敗プロジェクトとは、期間が過ぎれば過ぎるほど複雑性が上がっていく状態。これを進捗がマイナスになる傾向と合わせて診断していくことになる。
上がってしまった複雑性をどう解決するのか。その方法は大きく分けて3つある。
【1】偉い人どうしでハードランディングする
プロジェクト取りやめ、あるいは大幅な追加予算を入れて仕切り直しする。
【2】偉い人が責任をとったうえで仕切り直し
プロジェクトを止めることについては、相当な責任追及が行われる。担当者がいきなりスパーンと飛ばされる(責任をとる)。そのうえで、新たな責任者がやってきて、今までつくった素材などをぜんぶ出させて仕切り直しをするというパターン。
【3】下請業者が命を削って解決する
現場の人たちが決められた残り少ない予算と時間のなかでゴールデンマスターにするパターン。山本氏は、「このやり方はよくない」と指摘。複雑性が上がってしまった場合には、なんらかの対処をしなければ炎上状態から立ち直らせることはできない。問題解決にあたっては、追加予算などの手当てができなれば、ものが出せないなどの状態になるということを考えるべきだと語った。