近年、DSP/RTBやアトリビューション分析といった、オーディエンスを起点としたターゲティングや分析手法の進化によって、デジタルマーケティングはどのようなオーディエンスにどのチャネルを使ってどうアクションを起こすのかという観点が重要になりつつあります。そういった背景から昨今、急激にDMPが注目をされ始めています。
筆者が経営する株式会社Intimate Mergerは、DSP/DMPを開発する株式会社フリークアウトと、データ解析を得意とするエンジニアリング企業 株式会社Preferred Infrastructureの合弁企業で、主にナショナルクライアントのプライベートDMP構築から、データ解析、データ利用チャネルへの連携開発などを行っています。本稿では 我々のDMP構築プロジェクトの経験から、よく起こりがちな問題を取り上げていきたいと思います。
デジタルマーケティングにおけるDMPの立ち位置
DMPは広告主(利用者)がもつデータ、第三者のデータなどを一元管理・分析し、加工した解析データを、Emailや広告/サイトコンテンツ配信などデータ活用を必要としているチャネルにつなげるためのハブの役割と定義できると考えています。
しかし、実際のところはどんなデータでも一元管理・分析でき、あらゆるマーケティングチャネルにも入力できるという柔軟性・自由度ゆえにプロジェクトが肥大化し、プロジェクトがスタックしてしまうケースや、大きな絵を描いて導入を行ったがうまく利用できていないケースが増えてきている印象があります。
仮にすべてを1から実現しようとすると、データウェアハウス構築プロジェクト+ビジネスインテリジェンス構築プロジェクト+CRM環境構築プロジェクト+それらの横断プロジェクトを一気にやってやろうというプロジェクトになりかねません。ビックデータプロジェクトのオールスター戦みたいなことをやらなくてはいけなくなります。そうすると、数千万~数億円で数年かかる大規模プロジェクトになってしまいます。
本記事ではDMPの導入を検討している企業や既に導入をしているがうまく使えていない企業に向けて、当社がDMPを構築する際に注意している点をご紹介させていただければと思います。
「DMPを構築する」とは?
まずはDMPを構築するということについてです。当社は「DMPを構築する」ことを、DMPによって以下3つの領域をリアルタイムかつシームレスに連携させることと定義しています。
- データを蓄積するための “データストレージ領域”
- 蓄積したデータを分析・集計して、見える化を行う “アナリティクス領域”
- 分析・集計した結果を各データ活用チャネルで利用する “チャネル連携領域”
では、具体的にDMP単体がどのような機能を包含していて、それぞれの領域とどのようにして連携を行っているのでしょうか。
DMPは「IDの名寄せ機能」と「IDリストの抽出機能」の2つの機能を提供しています。「IDの名寄せ機能」は主にデータストレージの領域との連携の際に用いられている機能で、「IDリストの抽出機能」は主にアナリティクス領域とチャネル領域の2つの領域に提供を行っています。
DMPがデータストレージ領域に提供している機能
現在存在している1st Party Data(クライアントが保有するデータ)や外部データは、それぞれ異なるID体系によって管理が行われています。例えば、オーディエンスを一意に示すための情報としては会員IDやメールアドレス、名前、携帯電話番号、Cookieといったものが存在していて、1st Party Dataだけの場合でも管理をしているサービスごとに異なるID体系を持っているケースもあります。そういった環境下にあるクライアントに対して、DMPは名寄せ機能を提供しています。
DMPがアナリティクス領域に提供している機能
アナリティクス領域で1st Party Dataと外部データを用いた分析を行おうと思うと、共通IDの中から特定のルールでデータを抽出する機能が必要になります。例えば、サービスの休眠顧客になったオーディエンスを1st Party Dataから抽出し、外部データと連携を行い休眠顧客になった原因を発見したり、外部データを分析し、見込み顧客リストを作成して「IDの名寄せデータベース」に登録を行い、チャネル領域との連携を行うといったことが可能になります。
DMPがチャネル領域に提供している機能
マーケティングに利用しているチャネルは管理IDがそれぞれ異なっているケースが多く、そのため、分析した結果をそのチャネルに対して最適なIDリストとして抽出を行う必要があります。例えば、メルマガではターゲティングリストはメールアドレスで必要になり、コールセンターでは電話番号、DSPではCookieが用いられています。
構築時に注意をしたい4つのチェックポイント
前項で「DMPを構築する」とはどういうことかまとめました。実際に当社がDMP構築プロジェクトを行う際は、以下の4つのポイントを必ずチェックしています。
1.最低限必要な機能が定義されているか?
DMP構築プロジェクトはデータを持っている部署やマーケティングを行っている部署、広告宣伝を行っているチームなど部署を横断したプロジェクトとして行われ、超巨大プロジェクトになってしまうことがあります。DMPの最終目標は「データによる最適化」ですので、データの検証プロセスが複数回必要になります。そのため、検証が行える最小単位のプロダクトを定義されているかが非常に重要になるのです。
2.将来の拡張性は検討されているか?
1. でも触れた通りで複数の部署の横断プロジェクトになることが多く、関連部署が増えるとDMP構築後に新しいデータソースが発生することや様々なニーズでデータを加工する機会が度々発生します。その事態に対応できるようにしておかないと、各部署で延々新しいDMP構築プロジェクトを行わなくてはいけなくなってしまうので注意が必要です。
3.既存の資源は連携の対象になっているか?
これは単体部署で構築を検討している際に起こりやすい事態で、1部署でのみ利用しているIDを元にして他の部署で使っているIDの代わりになるID体系の検討を行っていることがあります。結果として部署を横断して使えるDMPにならないため、ここで作成したIDを包含した新規のDMPを構築しなくてはいけなくなります。
4.各領域間がリアルタイムでシームレスに連携できるようになっているか?
取り扱うデータが膨大で利用用途も多岐にわたっているため、分析のコストが上がってしまうケースも多くみられます。1個のデータを出すのに数十時間・データの更新に数日かかってしまうことも少なくありません。ここで発生するタイムラグが結果として最適化を阻害することや各チャネルの特性を消してしまうことがあるため、リアルタイムにシームレスで連携できる状況を作っておくことは非常に重要になるのです。
最後に
DMP構築プロジェクトは今までのビッグデータのプロジェクトの集大成的なプロジェクトと考えています。そういった背景の中で、我々Intimate MergerはFreaKOut社とPreferred Infrastructure社とのジョイントベンチャーとして2013年6月に設立されました。FreaKOut社のリアルタイムに情報を処理するノウハウと Preferred Infrastructure社の多様な構造のビッグデータの分析ノウハウは、DMP構築プロジェクトが目標としている世界観やプロジェクトを推進していく上で陥りがちな様々な課題を解決していくためにベストな布陣だと考えています。