「ニコニコ動画」はまだ赤字
ユーザーから、著作権者からの依頼がなければ削除しない現在の管理体制についての質問があがると、西村氏は、ある動画の削除依頼のケースを引き合いに出して説明。削除依頼があったためそれを削除したところ、その依頼者の上司から「あれはプロモーション目的でアップしたものなので、削除するな」という要請があり、再度アップしたことがあったとして、削除するかどうかについては権利者が決めることだと回答。また、杉本氏は、すべて権利者にゆだねているわけではないとして、あくまでも権利者と話し合いながら、対策を続けていく姿勢を強調した。
また、動画再生画面上にコメントを表示する現在のサービス形態については、著作物の同一性保護の観点から問題はないかという質問について、杉本氏は、動画サーバーとコメントを管理しているメッセージサーバーは別であり、それぞれ別レイヤーで提供していることから、動画コンテンツ自体を改変しているわけではないと回答。さらに、ニコニコ動画で活発化している、アニメ作品などの一次創作物をユーザーが編集して作成する「MAD」などの二次創作物について尋ねられると、国内の法律に照らせば「おそらくNG」としたうえで、次のサービスを作り出すには、既存の法律の範囲内にとどまっていることが難しいと説明した。また、ニコニコ動画は黒字化しているのかとの問いには、小林氏が黒字にはなっていないと回答。来期こそ単月黒字を目指すと答えた。
さらに、自分で音楽をつくっているというユーザーから、ユーザー自身も権利者ではないのかという質問があがると、西村氏は「権利者=投稿者」と考えていると答え、著作権者の権利は、動画の著作権の中の一部であると考えていると述べた。また、クリエイティブ・コモンズの考え方を導入して、自身がコンテンツ制作者であるユーザーの権利を守る考えはないかという問いに対しては、クリエイティブ・コモンズは、日本国内の法律に照らすとほぼ法的には無効であるとしたうえで、著作権については裁判に持ち込んで裁判所で決めることになるが、その判断ですら裁判所でひっくり返ることもあるとして、何が正しいかを判断するのは難しいと説明。サービス運営者としては、問題が発生すれば対応し、ラインは明確にできないが困っている人がいない状態にすると答えて、質疑応答は終了した。
みんながニコニコできる日は来るのか? ― 著作権とユーザーの権利
ユーザーが参加して行われた初めての発表会は、こうして無事終了した。もりだくさんの発表のなかで注目なのは、やはり質疑応答でも話題が集中した著作権問題。今回、西村氏は「権利者=投稿者」という、独自のコンテンツに関する権利の考え方を示した。
西村氏は2ちゃんねる管理人としての活動においても、一貫してユーザーの立場や権利を重視してきた。ニコニコ動画のコメントは「集合愚」と言われたが、2ちゃんねるの書き込みは「便所の落書き」と批判された。それでも西村氏は、ユーザーが書き込む場を維持し続けてきた。今年の8月にYouTubeが日本のコンテンツホルダーとともに記者会見を華々しく行ったとき、西村氏自身のブログの「誰のおかげで大きくなったんだろう?」というエントリで、「動画共有サイトのパートナーってユーザーだと思うんだけどなぁ」と述べている。
しかし、コンテンツクリエイターからすれば、「ニコニコ動画のユーザーが投稿してるその作品は誰がつくったと思ってるんだろう?」と聞きたいことだろう。作品をつくる人、それを楽しむ人の間にある溝を埋めるために必要なのは、著作権法の遵守なのか、サービスを提供している企業の技術的対策なのか、クリエイターと視聴者の対話なのか。発表会終了後、帰る人でごった返した廊下には、ドワンゴ会長の川上量生氏が静かに談笑している姿があった。ドワンゴ設立10周年にしてつかんだ「ニコニコ動画」の成功を、川上氏はどのように見つめているのだろうか。ニワンゴとドワンゴのクエストはまだまだ続く。
プレスリリース:「ニコニコ動画が初の本格的バージョンアップ 新機能、新インターフェース満載の「ニコニコ動画(RC2)」開始」(PDF)