若者のなかで失われる「家族づくり」の意義
長い歴史のなかで、家族は個人やコミュニティ、そして社会全体を支える存在として機能してきました。調査からも、多くの生活者が家族を「かけがえのない存在」だと感じていることがわかります。家族と過ごす時間は、日常のなかで安心や喜びをもたらす大切なひとときであり、人生の幸福感を支える重要な要素です。さらに先行きが見えにくい現在においては、心の拠り所であるだけでなく、家族が生活や経済面を支えるセーフティーネットとしての役割も担っています。
一方で、「生まれ育った家族の一員であること」と、「自ら新しい家族をつくること」は、異なる行為です。そして、多くのGen Z(Z世代)は、家族そのものの価値は認めながらも、自分が家族を築くことには消極的な姿勢を示しており、実際に「家族をつくることは人生において大切だ」と考えている人は約半数にとどまっています。これはプロシューマー層(トレンドを生み出し、社会の消費行動に影響を与える生活者グループ)でも同じ傾向がみて取れます。
社会の基盤であり、幸福の源泉でもあるはずの「家族」。それにもかかわらず、なぜ若者たちは新たに家族を築くことに消極的なのでしょうか。グローバル調査では「経済的理由」が全体の16%にとどまり、他の要因が示唆されています。
本記事では、生活者を理解するうえで欠かすことのできない「家族」というコミュニティに焦点を当てます。家族観が揺れ動く今、ブランドはいかに生活者と向き合い、信頼を育んでいくことができるのか。そのヒントを探っていきます。
新しい家族の在り方。「揃っていること」よりも重要なこと
Petron – A Melody Of Affection
ペトロン(Petron)は、マレーシアでガソリンスタンドを展開するエネルギー会社です。同社のキャンペーンの中でも、ハリラヤ(ラマダン=断食月の終わりを祝う祭り)に合わせて描かれた家族の物語は、多くの人々の心を捉えました。
主人公は、両親の離婚をきっかけに父と二人で暮らす少女、シャシャ。日々の暮らしのなかで、彼女は母のいない現実を少しずつ感じ取っていきます。そして家族が集う祝祭ハリラヤと、自身の誕生日が近づくにつれ、「母に会いたい」という気持ちが募っていき、父はその想いに戸惑いながらも、不器用ながら精一杯の愛情で娘に寄り添い続けます。
やがてシャシャは、人と分かち合うことを大切にするハリラヤの風習や、周囲との温かな交流を通して、家族の形は違っても、自分が多くの愛情に支えられてきたことに気づき、心の成長を遂げます。そして迎えた誕生日。母もシャシャのもとに駆けつけ、家族それぞれの想いが重なり合う、というストーリーが描かれます。
家族とは、揃っていることではなく、想いが受け継がれていること。このメッセージは大きな共感を呼び、人々を目的地へ運ぶエネルギー会社として、Petronは生活者とエンゲージメントを深めることに成功しています。
