メディアは掲載場所ではなく“体験そのもの”へ——。国内でも“兆し”あるマーケティングの新たな潮流に、業界を先進するブランドはどう向き合っているのだろうか? 本連載では、世界で100ヵ国以上にオフィスを展開する広告代理店HAVASで日本のエグゼクティブ・ディレクターを担う北市卓史氏が、同社が持つ専門研究チームとそのネットワークを活かし、世界各国の先進的なブランドによる取り組み事例を紹介。今後国内でも注目すべきマーケティングトレンドを共有していく。今回取り上げるのは、「メディア」を捉え直す潮流とその事例だ。
体験をどう作り出すか。メディアクリエイティビティとは
広告は、これまでになく進化しています。データは精緻になり、配信は最適化され、できることは増えました。ではその進化は、生活者の心をどれだけ動かしているでしょうか。
今多くの広告は、いくつかの共通した課題に直面しています。
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見てもらえない
情報があふれる中で、広告は気づかれにくく、簡単に飛ばされてしまう。 -
おもしろくない/関係ないと思われる
他のコンテンツと同じ目線で見られ、「おもしろい」と感じられなければ選ばれない。 -
お金をかけても成果につながりにくい
出稿量を増やすだけでは効果が出にくく、投資に見合う手応えが得られにくい。
だからこそ近年、広告には「伝える」だけでなく、見た人が立ち止まり、参加し、誰かに話したくなる体験としての役割が求められています。こうした考え方の中で注目されているのが、「メディアクリエイティビティ」という視点です。メディアを単なる掲載場所ではなく、体験そのものとして捉え直そうとする発想です。
こうした変化は、スマホの普及で広告が生活に溶け込んだ2010年代から顕著になってきたと思います。それを象徴する事例が、レッドブル(Red Bull)が2012年に行った「Stratos」プロジェクト。スカイダイバーのフェリックス・バウムガルトナーが成層圏から地上へ飛び降りる人類初の挑戦は、YouTubeのライブ配信を通じて世界中で共有されました。一つの挑戦と、強いアイデア、グローバルに開かれたメディアの特性が重なることで、世界的なイベントへと進化したのです。
そして2020年代に入り、状況はさらに進みます。今求められているのは「そのメディアがなければ成立しないアイデア」です。完成した表現を、テレビやSNSなどに載せるのではなく、そのメディアの特性を前提に、最初からアイデアを設計することが重要になっています(注:2000年頃にもメディア体験が注目されていた時代があり、かつて大切にされていた感覚が戻ってきた様にも見えます)。
本記事では、ブランドコミュニケーションにおいて不可欠な「メディア」に改めて注目します。数値の効率を追うのではなく、どんな体験が生まれ、どう記憶に残るのかという視点から、現在求められるメディアのあり方を、事例とともに掘り下げていきたいと思います。
メディアハック(1)「優勝セレモニー」に隠れたチャンス
MERCADO LIVRE - COUPON RAIN
メルカド・リブレ(Mercado Livre)は、ラテンアメリカ最大級のECサイトです。同社は長年、サッカー大会のスポンサーを務めてきましたが、ロゴ露出は多いものの、実際の話題化や購買につながりにくいという課題を抱えていました。
そこで着目したのが、優勝セレモニーという「必ず注目が集まる瞬間」そのものをメディアにするという発想。トロフィーが掲げられる瞬間、通常は紙吹雪が舞いますが、その紙吹雪をすべて割引クーポンに。50種類の割引コードを印刷した200万枚以上の紙吹雪をスタジアムに放ったのです。
翌日、優勝セレモニーの様子は各メディアで報道されました。その際に「紙吹雪の中にクーポンがある!」という広告を展開。この話題はインフルエンサーやスポーツメディア、SNSへと広がり、人々はポスターや記事の写真を拡大しながら“クーポン探し”をするという大きなイベントへと発展していきました。
結果としてメルカド・リブレは、単なるスポンサー露出に終わらず、人々が参加し、探し、実際に買い物をするまでを一気につなげることができました。注目が集まる瞬間を起点に、広告を「見られるもの」から「参加されるもの」へと変えた好事例です。
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北市 卓史(キタイチ マサシ)
HAVAS JAPAN 株式会社 Executive Director
営業職をベースに、国内と海外にて広告代理店の会社/新規事業立ち上げに従事。2022年より世界149カ国にオフィスを展開する広告代理店であるHAVAS社の日本法人の現職に就任。多様性のある職場や働き方、他国オフィスとのオペレーシ...
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