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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Autumn

事例を通して見る世界のマーケティング/ブランディングのトレンド

みんなで決める民主主義はもう限界?データと事例で見る、変わる生活者意識とブランドの対応

 世界で戦争、エネルギーや食料の不足など複合的な危機が広まる今、人々が感じる不満と焦燥、そしてブランドに求められる姿勢とは━━? 本連載では、世界で100カ国以上にオフィスを展開する広告代理店HAVASで日本のエグゼクティブ・ディレクターを担う北市卓史氏が、同社が持つ専門研究チームとそのネットワークを活かし、世界各国の先進的なブランドによる取り組み事例を紹介。今後国内でも注目すべきマーケティングトレンドを共有していく。第11回となる本稿で取り上げるのは、複合危機などによって今生活者に起こっているパラダイムシフトとブランドとの向き合い方だ。

「ポリクライシス」はブランドにどのような影響を与えるのか?

 2023年、ケンブリッジ英語辞典に「Polycrisis(ポリクライシス)」という新しい言葉が追加されて話題となりました。これは、いくつもの社会問題が同時に起こり、それぞれが影響し合って、さらに大きな危機を生み出してしまうという、まさに現代の問題を表した言葉です。

 たとえば、ウクライナ戦争では戦争そのものに加えて、石油や石炭の輸出が止まり、エネルギー価格が上がりました。その結果、世界中で物価が上昇。また、ウクライナの農業だけでなく、世界的に物流が止まったことで、発展途上国では食料不足が深刻になるという、ポリクライシス(複合的な危機)を引き起こしました。  

民主主義よりも「強いリーダー」を求める声

 こうした複雑な問題が重なると、人々は「今の政治や社会の仕組みで本当に大丈夫なのか?」と疑問を持つようになります。

 Havas社の調査によると、一部の生活者は「みんなで話し合って決める民主主義」よりも、「少数のリーダーが強い力で決める権威主義」の方が、問題を早く解決できると感じ始めています。特にプロシューマー層(トレンドを生み出し、社会の消費行動に影響を与える生活者グループ)の約40%が「今の時代には民主主義よりも権威主義の方が効果的だ」と考えているという結果が出ています。

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 その背景には「有権者に大きな決定を任せるには、情報が足りない」「人々が自分の行動をうまくコントロールできていない」といった不安や不満があるようです。近年では、SNSやフェイクニュースの影響で、情報の質や信頼性に対する不信感も高まっており、こうした考えにより大きく拍車をかけているのでしょう。

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自由よりも「管理」を求める時代に?

 こうした中「もっと社会を厳しく管理すべきだ」と思う人が増えてきています。これまで大切にされてきた「自由」が、少しずつ制限されても仕方がないと感じる人が出てきているのです。

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 第二次世界大戦後、民主主義は「自由で安定した社会の象徴」とされてきました。しかし、今のように多くの問題が同時に起こる時代には、「民主主義ではうまく対応できないのでは?」という声が広がっているのです。

価値観の変化がブランドに与える影響とは

 こうしたパラダイムシフトは、人々の考え方や行動にどのような影響を与えるのでしょうか? 今回の記事では、「自由」と「統制」という2つの考え方の背景にあるものを探りながら、変化する生活者の意識がブランドや企業にどのような影響を与えるのかを考えてみました。少し遠因的にはなりますが、その潮流を捉えた事例を見ながら、深掘りをしていきたく思います。

(1)何よりも安全を優先。TIM Telecom「Block Pin」

 ブラジルでは、年間およそ100万件ものスマホ盗難が発生しており、大きな社会問題となっています。特に多いのが、スマホを操作している“その瞬間”を狙った犯行です。スマホのロックが解除された状態で盗まれると、端末だけでなく、銀行情報やSNSアカウントなどの個人情報まで悪用される危険があります。

 こうしたリスクは、音楽フェスやイベントのように人が多く集まる場所でも同様です。スマホは写真や動画を撮ってSNSでシェアするために欠かせないアイテムですが、その一方で、「使いたいけれど、盗まれないか不安…」と感じている参加者も少なくありません。

 そこで、ブラジル大手の携帯電話会社でのTIM Telecom(ティムテレコム)は、国内最大級の音楽フェスで、あるアイテムを配布しました。それが「Block Pin(ブロック・ピン)」というタグです。

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1億7,200万回の閲覧を生んだ「安全確保」のキャンペーン

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この記事の著者

北市 卓史(キタイチ マサシ)

HAVAS JAPAN 株式会社   Executive Director

営業職をベースに、国内と海外にて広告代理店の会社/新規事業立ち上げに従事。2022年より世界149カ国にオフィスを展開する広告代理店であるHAVAS社の日本法人の現職に就任。多様性のある職場や働き方、他国オフィスとのオペレーシ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/07/29 07:00 https://markezine.jp/article/detail/49509

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