時代に先駆けECサイトをメディア化 月間83万の固定ファンを抱える
消費者に商品を直接的にアピールするのではなく、消費者に有用な情報を提供することで間接的に商品に興味を持ってもらうコンテンツマーケティング。そのブームの先駆けとも言える、「北欧、暮らしの道具店」がECサイトのメディア化に成功した、その秘訣とは。
「いわゆるコンテンツマーケティングというものが、僕の目からは性質の異なる2つの手法が混ぜ込ぜに語られているように見えます。1つは特定の記事をバズらせてソーシャルメディアでシェアされたり検索エンジンに高く評価されることでトラフィックを得る手法、もう1つは良質なコンテンツを長期的に提供し続けてユーザーに何度も訪問してもらう手法です。個別の記事をバズらせることと、メディアとしてユーザーと長期的な関係をつくることは別もので、この二兎を追うのは難しいんですよね。
個別の記事にトラフィックを集めることでビジネス上の目的を遂げられるケースもあるでしょうが、その後『別の記事が更新されていないかな』と期待してもらえるような長期的な関係性を結べるかは疑問です。
僕たちにとっては今すぐに物を売ること以上に、いつかお買い物をしてくださる可能性があって、習慣的かつ能動的にサイトに遊びにきてくださる方々を増やすことが大事なことです。特定の記事が極端に話題になるよりも、『あそこに行ったらいつも自分の好みのコンテンツが見られる』と信頼していただける、期待していただけることを主な目的としてコンテンツを制作しています」
“売るものありき”のコンテンツ作りでは、メディア化はできない
「ECサイトでお客様を楽しませるためにコンテンツをつくっていきたいが、なかなか続かない、ネタが出てこないなどというご相談をいただくことがあります。ある意味それは当然の感想で、出版社やテレビ局などのメディア企業があらゆるリソースをつぎ込んでようやく運営できている『メディア』というものを、片手間で実現するには無理があります。
メディアとして成長していこうとするなら、そして僕たちのように小さな会社がそれを志すとしたら、組織のありかた、人材の採用のしかた、意思決定システムのありかたなど、会社全体がメディア企業そのものになっていくことが求められると考えて、僕たちはすべてを変化させてきました。
お店としての組織、お店の運営に向いた人材で構成されたチーム、お店としての意思決定システム、お店としての費用構造のまま見かけだけメディア化しても、それを持続するのは極めて困難な試みになるでしょう。 要するに、『これを売りたいからコンテンツをつくる』という発想では、ECサイトのメディア化はできないということです。
当社では職種を問わずスタッフ全員を、採用段階でライティングやスタイリング、写真撮影の実技テストを経て採用しています。例えば所属がカスタマーサービス担当や、バイイング担当のスタッフでも、全員が主担当業務と並行してコンテンツの制作に関わっているんです。また、商品についても、編集方針やコンテンツに沿って仕入れを決めます。
仮にあるECサイトを運営する組織でバイヤーに一番大きな権限があって、どんなコンテンツをつくるかを直近の売上や在庫状況によって決めるとしたら、どんなにコンテンツをつくったとしても、メディアとしてお客様に認知していただくことはなかなか難しいのではないかと思います」
時にはユーザビリティを犠牲にする
組織まで変えるとは、かなり大きな決断だったはずである。ネットショップとして始めながらそこまで転換できたのは、なぜか。
「不要不急のものを売っているか、生活必需品に近いものを売っているかの違いは大きいと思います。『北欧、暮らしの道具店』は、日常生活になくても全然困らないものを売っている。本質的には、娯楽を売っているエンターテインメントビジネスなんですよね。それは映画やスマホゲームなんかと、何ら変わりのないビジネスをしているという意識を持っています。
だから、暇だなと思った時に、テレビを見るか、ゲームをするかといった選択肢の中に、『北欧、暮らしの道具店』を見るというのを、どれだけ入れていただけるかが勝負だと。
生活必需品に近いものを売っているECサイトなら、欲しいと思ったときに素速く買っていただけるよう、利便性を追究するべきでしょう。もちろん、二次的にエンターテイメント性を提供されるところもあると思いますが。
一方、僕らの場合は、ある意味では買いにくさを演出してでも、面白さを優先するということもあるわけです。なぜなら、僕らのお客様は楽しみたくてサイトに来てくださるのであって、便利に買い物したくて来られているわけではないからです。お客様の主な目的である『楽しむ』を邪魔するなら、その便利さはかえって逆効果だからです。
そう考えていくと、今まで一面的に語られてきた『ECサイトはユーザビリティよく、買いたいときに素速く買えるようにする』ということだけを追究すれば売れるECサイトになるのかというと僕個人は疑問に思っています。実店舗の世界では、娯楽的な商品を売るお店が、楽しい買い物体験を演出するために便利さを多少犠牲にしてでもさまざまな手を打つことは、ごく普通のことです。ECだけが便利さやスピードが最優先だとは思えないですよね」
ASP利用でシステムを効率化し、メディア作りに集中する
ECサイトのメディア化はもちろん、これまで『北欧、暮らしの道具店』はさまざまな変身を遂げてきたが、基本的には、ネットショップ構築ASP「カラーミーショップ」を使い続けてきた。
「おそらく、『カラーミーショップ』でなければ、ECサイトのメディア化は実質不可能だったと思います。テンプレート編集の自由度の高さはもちろんですが、やはりAPIに対応していること。
当社では、API経由で在庫・受注データを引っ張ってきて、自社開発の発注支援システムを通してメーカーに自動発注したり、再入荷お知らせメールを自動で送信したりという独自の関連システムをカラーミーショップに付加して生産性を高めているんですが、普通のASPサービスではなかなか難しいことです。
同時にショップのフロントやカート部分のサーバー管理やメンテナンスを全てカラーミーショップ側に任せられることも大きいですね。急なトラフィックが増えた際も安心ですし、サーバー管理を自社で行う手間と費用を考えると、月々3,150円(※)しかお支払いしてないのが申し訳ないくらいです(笑)。
※カラーミーショップには、月額875円、1,295円、3,150円のプランがある
通販は、非常に工数のかかるビジネスで、当社もこのオペレーション周りを効率化するまでは、サイトのメディア化に取り組むのが難しかったんです。
それが今では、月間5,000件前後の受注に適切に対応し、返品交換やお問い合わせといったいわゆる『通信販売事業者』としての機能をしっかりと提供しつつ、月に20~30の商品ページに特集記事が4本、週に2、3本のメルマガ、日々のコラムといったコンテンツを公開し、それに加えて隔月で小冊子も発行しています。これだけの仕事を経営者含めて12人しかいない会社で、毎日誰ひとり残業せずにまわすことができています。オペレーションの効率化により、本業に集中できるということですね」
自分で自分の首を絞めることになっても、とことん使いやすいスマホサイトを
スマホからのアクセスが5割を超えるECサイトもめずらしくない昨今。「北欧、暮らしの道具店」のスマホサイトを、「自信を持って見せられるものができた」と青木さんは言う。
「そう遠くない将来にスマホとPCのアクセス比が『8:2』になるだろうと、2013年は恐れおののいていました。スマホではコンバージョンレートも、購買単価も、買い回りも落ちる可能性がある。スマホの普及は、コンタクトポイントが増えるという意味ではいいのですが、そういった副作用もあるわけですね。
スマホサイトは自信を持って見せられるものができたのですが……、できてからスマホ率がまた10%も上がったので、自分で自分の首を絞めてるっていうか(笑)。でももう、不可逆な状況なので、とことんまで行き着いてしまおうと。
スマホを研究していてこわいなと思ったのは、スマホで能動的にブラウザを開く機会が激減していること。そうなると、『北欧、暮らしの道具店』を見るという目的を持ってブラウザを開いてもらわなければならなくなる。それが難しいなら、スマホのホーム画面に入れてもらうしかないなと。
独自のアプリはまだ用意してないですが、環境に左右されずに自分たちのやりかたを貫くために、アプリを持つというのは重要なことだと思っています。そういう意味でも、APIに対応している『カラーミーショップ』ならいいものが作れるだろうと、心強いですね」
質の高いアクセス増で、低CVRを凌駕する
メディア化、メーカーとしての商品開発、スマホ対応の先にあるべきECサイトの姿とは。
「最近は、高PV低CVRでいこうと言っています。スマホからのアクセスでCVRは下がっても、それを凌駕するだけのアクセスがあれば何の問題もない。『北欧、暮らしの道具店』は、年間で1.8倍ずつお客様が増え、CVRは微減傾向にありますが、ビジネスとしても1.6~1.7倍ずつ伸びているんです。
CVRを高めようというのは、買おうかどうしうようかと、ちょっと気持ちがグラグラしているお客様の背中を押す行為ですよね。CVRを高める施策が、未来の売上につながっていくのかどうか。業種にもよると思いますが、僕らのような娯楽を売っているビジネスでは、楽しみに来ているお客様に後悔するかもしれない買い物をさせることが、本当にいいことなのかと思うのです。
そういうリスクのある施策よりも、お客様からの支持を増やしていって、低いCVRを凌駕する、質の高いアクセス数を増やしていこうと考えています」