広告のリーチ先は顕在顧客から潜在顧客へ
ロックオンが運営する「アドエビス」は、もともと広告の効果測定を目的に開発された。しかし、今年4月に効果測定サービスから、マーケティングプラットフォームとしてコンセプトを改め、再スタートを切ることにしたという。
その背景にあるのは、広告市場における大きな変化だ。競争が激化する中で、ペイドメディアへの出稿だけでは顧客層へのリーチが難しくなり、CPA(Cost Per Acquisition:顧客獲得単価)も上昇傾向にある。となれば、広告手法にも様々な工夫が必要となり、多様化が進む。それに対応する形でのリニューアルというわけだ。岩田氏は「会社として大きく舵を切り、社会のニーズに応えていきたい」と意欲を見せる。
コンセプト自体を大きく変えたアドエビスだが、提供サービスの中には、コンテンツマーケティングに関する効果測定や活用が含まれている。その事例としてトイレタリー用品、医薬品などを提供するライオンのオウンドメディア「Lidea」が紹介された。同メディアでは、製品の紹介ではなく、暮らしに関するアイデアや提案などのコンテンツを掲載している。それらは決して直接的な販売につながる情報ではない。潜在層を含めたあらゆる消費者に対し、暮らしに役立つコンテンツを提供することで「ファン化」を進め、その先に商品を購入してもらう。つまり、“長い目”で見た顧客育成を目的としている。
また、ウェブサイト制作事業を行うLIGが運営するメディア「LIG inc.」についても、ロックオンが提供するコンテンツ効果測定システムが活用されているという。
コンテンツマーケティングが必要になった3つの背景
ところで、改めて「コンテンツマーケティング」の考えで作られるコンテンツと、これまでの会社サイトやブログ、ランディングページなどの記事とは何が異なるのだろうか。
コンテンツマーケティングは米国で提唱された手法で、WikipediaやContent Marketing INSTITUTE に説明されている内容をまとめると「価値のあるコンテンツ作成」「見込客の獲得」「売上につながる」の3つのプロセスに基づくものとなる。つまり、コンテンツが売上げ直結になるのではなく、やや遠回りしながら顧客との関係を醸成し、その上で売上へとつなげていくという「距離感」がポイントと言えるだろう。
それでは、なぜコンテンツマーケティングが必要なのか。岩田氏はその背景として大きく3つの背景を挙げる。まず第1に、インターネットマーケティングの主役がPCからモバイルへと移行する「デバイスの変化」が起きている。PCに比べ、モバイルは検索時間よりもSNSやアプリなどの稼働時間が多い。必然的にリスティング広告の閲覧回数は低くなり、顧客へのリーチ手段の変更が必要になる。そして第2に「メディアの変化」がある。従来のペイドメディアに加え、ソーシャルメディアやオウンドメディアが成長し、トリプルメディアの時代となっている。
そして、第3は「SEM(Search Engine Marketing:SEOやリスティング広告などの手法)の飽和」だ。これまでインターネットマーケティングで売上の約半分を担うとされていたSEMだが、競合が増え、その効果は徐々に低下している。岩田氏は、顕在層に適した施策であるSEMが「ブランドワード」から「ミドルワード」「Bigワード」と移り、さらにDSP(Demand Side Platform)による配信効率化へとつながってきたことを紹介。すでに顕在層向けのアプローチがレッドオーシャン化し、潜在層向けのマーケティングにシフトしてきたと指摘する。つまり、潜在層へとリーチするため「ネイティブアド」や「コンテンツマーケティング」が注目され、導入が進められてきたというわけだ。
コンテンツマーケティング運営に必要なKPI設計とは
ただし、コンテンツマーケティングでは潜在層に“リーチすること”だけが目的ではない。ニーズを喚起し、顕在顧客化し、さらにはロイヤリティカスタマーへと育成することが重要な目的となる。その目的の達成には、コンテンツ作成・配信はもちろん、効果測定や改善も含めた「継続的な運営」が重要な鍵となることは間違いない。しかしながら、どのように運営していけばよいのか。
コンテンツマーケティングの運営は、「環境分析」「企画」「制作」「効果測定」「改善」の5ステップで構成されているという。基本的には、ホームページやランディングページなどの運営と何ら変わるものはない。しかし岩田氏が最もこれまでと異なる部分として指摘するのは「企画」の段階で行う「KPI設計」、つまり「何をもって効果ありと判断するか」である。この「KPI設計」とそれに基づく効果測定の部分については「ちょっと他とは違うコツが必要」と岩田氏は語る。
先述した「コンテンツマーケティングの目的」を考えると、「①価値あるコンテンツ作成」は、「②見込み客の獲得」を経て「③売上=コンバージョン」があってこそ評価される。つまり見込み客の獲得がコンテンツ作成にあたり一番最初のKPIといえるだろう。そして、このプロセスは「見込み客にリーチする」ことに始まり、「理解を深める」「共感を得る」「ファンにする」の4つの順番で行っていく必要がある。
そして実際の「売上=コンバージョン」まで全て含めて「測定指標」となる。さらに簡単かつ的確に評価するには「具体的な数値」に落とし込む必要がある。
大事なのは評価指標を運用改善につなげること
では、具体的にどのような指標で評価すれば良いだろうか? まずリーチについては「ユニーク訪問者数」「新規訪問者数」、そして理解を深めてもらえたか、情報を届けられたかについては記事が最後まで読まれたかという「読了数(率)」、共感を得られたかは「メールなどでの会員登録数」、ファンになったかは「SNS拡散数」、そして最終的な売上は「コンバージョン数」が評価指標にあたる。
ただし、単にこれらを測定し、分析するだけでは意味がない。運用し、改善へとつなげることが必要だ。たとえば、記事の訪問者数が平均650だとすれば、それより多く訪問者数を獲得した記事の内容やテーマなどを分析し、以降に活かす。さらに、指標ごとに平均値に対する数値を出してステップごとに比較すれば、コンバージョンに至るまでのボトルネックも明確化できるだろう。
コンテンツ改善を推進する仕組み
岩田氏が提示した指標は計6つ。ユニーク訪問者数の数値は良くても、会員登録数は良くないなど、それぞれが異なる傾向を示すだろう。これらを総合的に評価しなければ、PDCAサイクルを円滑に回すことはできない。
そこで岩田氏は、指標の実際値を平均と比べた“比率”をポイント化し、それの和によってコンテンツの善し悪しを判断する仕組みとして、「moz.com」の「One Metric template」を紹介する。Googleのスプレットシートになっており、Facebookの「いいね数」などの数値を入力することで「平均比率ポイントの和=コンテンツスコア」を算出して効果を可視化できる。
この「コンテンツスコア」をコンテンツの作成者に伝えれば、モチベーションを高めるきっかけになるだろう。また流入はあるがその後のスコアが低い場合はコンテンツの見直しを、逆に流入後の反応がいい場合はタイトルなどの見直しで流入を強化するといったように、コンテンツの改善を行うこともできる。
ロックオンが導き出す「コンテンツスコア」
岩田氏はこうした計測・分析を行わず、「PVとコンバージョンだけで評価すること」に対して懸念を示す。オウンドメディアは潜在顧客層へのアプローチであるが故に、PVに対してコンバージョンはかなり低いことが多い。その時PVとコンバージョンの間における顧客態度の変化を測定せずに「効果が低い」「割高」と判断することによって、コンテンツマーケティングの価値を見いだせず、施策そのものが停止されることがあるという。
これに対し、「コンテンツマーケティングとは、遠くから潜在顧客にリーチし、長い時間をかけて関係を醸成していく施策。その価値を理解してもらうためにも、こうしたKPIの評価は必要であり、それに基づく運営が重要となる」と岩田氏は強調する。
そしてロックオンでは、「コンテンツエビス」として、流入評価や読了評価、共感評価、拡散評価、成果評価の数値化と重み付けの自動計算による「コンテンツスコア」の提供を開始したという。
「アドエビスのこれまでの蓄積があってこそ、ワンストップでここまでのコンテンツスコアを提供することができる。培ってきた資産をフル活用したソリューション」と岩田氏は胸を張る。今後はセミナーなどを開催し、「コンテンツエビス」の機能や具体的なコンテンツマーケティング運営のメソッドなどを紹介する予定だ。