米国に見るパーソナルデータの利用と規制
深田:サードパーティデータの売買については、抵抗感のある人も多そうです。
大山:日本の場合、匿名化されたパーソナルデータをどう取り扱うかについての法整備はこれからです。2014年6月に「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」ができ、政府の方針としては積極的な活用がうたわれていますが、実際の活用にあたっては第三者のモニター機関を業種ごとに作っていく必要があります。
米国の場合はデジタルになる以前からDM用の顧客リストなどデータ売買の歴史がありました。この背景からか、デジタルの時代になってもマーケターはパーソナルデータを買うという行為には日本ほど抵抗はなかったようで、健全な市場を作るためにオラクルやGoogleなどサードパーティデータを取り扱う企業が率先して、モニタリングを行う第三者機関「Network Advertising Initiative」を立ち上げたと聞いています。消費者に有益な情報を提供するという信念のもと、いかにしてパーソナライズしたデータを収集し、活用するのかというレギュレーションを決めて、ベンダーやメディア同士が相互に監視し合えるようにしているんです。
深田:米国では、企業が中心となって中立的な組織を作っているのですね。前回濱野さんに話を伺うと、楽天マーケティングさんで収集したデータは外には出さないと明確な線引きをされていました。これはYahoo!さんやCCCさんなど他の企業でも同様かと思いますが、オラクルさんとしては、日本はデータが集めにくい状況ではないでしょうか?
大山:日本ではデータを購入する広告主側、データを提供するメディア側の双方に新しい概念であるパーソナライズデータについての啓蒙が必要ですね。メディアにしてもオーディエンスデータを収集していたり、それらを使った新しいビジネスモデル持っているのは一部の大企業だけで、他の企業はマネタイズで苦戦しています。オーディエンスデータの販売が新しいマネタイズ手法につながるだけでなく、メディアとしての価値もあげられることを伝えていきたいですね。
また日本では、パーソナルデータと個人情報がごっちゃになっていて、グレーゾーンだからデータの売買に手を出したくないというメンタル的なハードルがあります。メディアとして生き残るためには、自社で収集可能なデータにバリューを持たせることが必要ですし、広告主も費用対効果をあげながら効果的なパーソナライゼーションが求められています。今がちょうど転換期だと思います。
深田:最近似た文脈の話として、海外の大手広告代理店のCEOがイベントで「Facebook、Google、Oracleは仲間の振りをした敵だ」という発言をしたそうです。背景には、データの売買や露出の機会を広告主に与えてメディアに提供するという、かつて自分たちの領域にあった仕事が奪われていることがあるようです。
大山:ベンダーもメディアも代理店も目指していることは同じだと思っています。米国は多民族でエリアも広いので、テレビのチャンネルが細分化されています。そのためテレビだけでマスにはリーチできません。ですから、デジタルの活用がどの国よりも著しい。一方、日本の場合は総体的にまだまだテレビの影響力は強いですよね。とはいえ、20代へのリーチは10%程度で、テレビ以外のデバイスでのメディア接触時間が増えているというデータも出てきています。本当にリーチしたい顧客と適切にコミュニケーションするためには、どのメディアを組み合わせていくのが最適なのか真剣に考える時期に来ています。
日本では啓蒙が必要な段階
深田:データの活用について、オラクルさんはコミュニケーションのあり方の設計なども行うのですか? それともそこはパートナーまたは顧客が行うのでしょうか?
大山:ツールの設計思想を理解し、正しく使ってもらうためには、我々ベンダーのサポートが不可欠です。そのため、コンサルティング部門がフォローします。海外のオラクルマーケティングクラウド部門では、ツールの導入サポートだけでなく、カスタマージャーニーを踏まえたシナリオ設計やデータ分析を担う戦略コンサル、コミュニケーションの効果を左右するクリエイティブを作成するクリエイティブ部門など、マーケターをフルサポートできる組織体制になっています。
深田:日本ではいかがですか?
大山:日本ではまだ啓蒙が必要な段階なので、パートナーと一緒にサポートをするエコシステムを作っています。マーケティング・オートメーション(MA)やDMPは日本企業にとっては比較的新しい思想なので、私の部門ではまずは正しく使われるように導入部分に注力しています。
また、クライアント企業でもパーソナルデータを誤解していることもあります。例えば、匿名化されたサードパーティデータを購入して、デコーディングというか、戻して個人データにたどり着くのでは? 個人データを増やせるのでは? という誤った発想をされる方もいます。
本来、匿名化したパーソナルデータを活用すると、どのような新しいコミュニケーションができるのかを考えるべきなのに、その発想が抜けていて勘違いしてしまうんですね。ブランドを傷つけずに正しくコミュニケーションしていくには、データとの付き合い方までを正しく伝える必要があると感じています。
深田:データ活用という意味では、パートナー企業にそれをやり切る高いスキルセットがあるのかも課題になりますね。ツールがあってもシナリオを書ける人がいないから使いこなせない、という話を聞きます。
大山:だからこそ、我々のような外資系ベンダーは強みがあります。先行している海外市場導入での失敗、成功を踏まえたベストプラクティスの最新情報をタイムリーに入手できるからです。手探りだけでトライ・アンド・エラーを繰り返すより、海外の知識を持ったうえで、実際の施策ではコミュニケーション・プランニングを担当するローカルの代理店、コンサルティングファームなどと組むことで、よりスムーズに高い成功率でお客様を成功に導くことができますから。