膨大なデータから見えてくる次のマーケティング戦略
深田:今回の対談にあたって、これまでのトリプルメディアの立ち位置と、これからのあり方について整理しました。それが、こちらの図です。
これまで、情報発信はマス媒体に依存してきました。しかし、インターネットの普及などを背景に、マス媒体でのアプローチ効果が低下しつつあります。そこで、企業自らがメディアを用意しはじめています。一方で、カテゴリマスを握っているデジタルメディアが従来のマス媒体の役割を奪いつつ、新しい顧客とのコミュニケーションを実現しています。
こうした実情を踏まえて、楽天が取り組もうとしているデータを活用したマーケティングをテーマに、濱野さんにお話をうかがっていきたいと思います。
濱野:現状はまさに、この図の通りだと思います。楽天の強みはデモグラフィックデータ(以下、デモグラ)、購入データと結びつくIDを大量に保有していることです。一般的にデータの活用には、「個人データの活用」と「セグメント化された情報の活用」の2種類がありますが、豊富なデータによって、楽天ではどちらも活用することができるのです。
もちろん、外部にデータを提供するビジネスは行いませんが、広告と組み合わせることで、個人にマッチした広告の配信や類似ユーザーへの配信といった活用が可能です。これによって、不適切な広告を見せない、ユーザーに寄り添ったマーケティング活動が実現できると考えています。
さらに、デモグラや購買データのみならず、基礎体温を記録するキレイドナビのようなデータも一部保有しています。これらのデータを用いれば、予防医療に活かすこともできるでしょう。つまり、広告に限らず消費者にもインパクトのあるサービスを提供できる。私たちは、“楽天がデータを活用することで、ユーザーにとって「よりいいものが手に入る」「新しい発見ができる」”という図式を目指しているのです。
メディアの価値は「データと人が集まる場所」であること
深田:楽天のデータ活用を考えた時、楽天市場の購買履歴だけでも様々な可能性がありますね。現在、構想されていることはありますか?
濱野:実は今「3種類同じものを購入している人は友達になれるのではないか」という仮説を持っています。例えば、深田さんと全く同じカメラ、時計、文具を持っている人がいたとします。趣味嗜好がマッチしているので、話が合うと思いませんか? そういったつながりが持てる場所を、楽天ならば作れると考えています。
あるいは、新商品を買ったユーザー1,000人を集めてコミュニティを作って、その商品を買いたい人はコミュニティに質問できるようになれば、便利だと思いませんか? さらに、量販店がそのコミュニティ向けにキャンペーンを打つこともできるでしょう。
深田:コミュニティを作ることもデータ活用のひとつなのですね。
濱野:データがあるだけではなく人が集まる場所を持てることに、メディアとしての価値があると考えているのです。
深田:濱野さんの仰るように、特定分野に興味のある人を大量に囲うカテゴリマスがあれば、広告主はマスと同じように予算配分することもできるかと思います。極論、もう従来型のマスはいらないのではないかという話につながりそうですね。
濱野:テレビ離れは間違いない現象です。特に若年層をターゲットにした場合、テレビ型のマーケティングだけでは十分ではないでしょう。リーチしたいターゲットが決まっているなら、デジタルメディアのほうが効率がいい。
ただ、テレビには現在のデジタルメディアでは果たせない役割もあります。テレビCMをやっているからこの企業は大丈夫、というような信頼感があるから、Webのキャンペーンにも参加できるということはありますよね。