データ活用の可能性に気付いてもらう情報発信が必要
MarkeZine編集部(以下MZ):企業がオウンドメディアに力を入れる動きが目立っていますが、ヤフーでもデジタルマーケティングの情報サイトとして『Insight for D』を立ち上げられたんですね。まずは、サイト開設の背景を教えていただけますか?
鈴木:数年前に、ヤフーの広告本部はマーケティングソリューションカンパニーへと名称を変更しました。広告主の皆さんに、広告という一部の解決策を提供するのではなく、マーケティングをトータルでサポートできる体制に名実ともに変わることを目指したのです。
そしてマーケティングがよりデータを活用したパーソナルアプローチにシフトする中で、マルチビッグデータをさまざまな施策に活用いただきたいという意図の下、ソリューション“ズ”カンパニーと複数形にしたんですね。
MZ:それ以降、たとえばデータ活用の専門チームやマーケティングのシナリオ設計チームを立ち上げるなど、かなりの勢いで機能や組織の変革をされていたと思います。
鈴木:はい、消費者の態度変容のプロセス全体において、広告での認知獲得や購買促進はごく一部なので、データ分析をベースにこのプロセスを一気通貫で支援できる体制を整えてきました。
ただ、私たちが広告以外にも多様なソリューションを提供していることの認知がまだ十分ではなく、実際にビッグデータをマーケティングに活かせている企業も多くありません。そこで、データ活用の可能性に気付いていただくための情報発信が必要だと考えたのです。
データ関連の記事への反響を受けてInsight for D開設
MZ:情報発信が目的ということで、マーケティングソリューションズカンパニーのオウンドメディアではありますが、プロダクトを打ち出されてはいないんですね。
鈴木:はい、あくまで、マーケターがデータを活用するための気付きやノウハウを提供するためのメディアなので。
MZ:そうしたメディアが必要だというお話は、いつごろ出始めたのですか?
鈴木:オウンドメディアをマーケターへの情報提供に活用したいという話は、前々からありました。そのテーマとして挙がっていたのが、業界のメインストリームになりつつあるデータの戦略的活用だったんです。
実際に立ち上げ準備をし始めたのは去年ですが、その前からマーケティングソリューションブログなどでもたびたび詳細な記事をアップしていて、やはりPVがよいのはデータ活用に関する記事でした。
MZ:ニーズはかなりあったんですね。
鈴木:元々は当社の広告プロダクトやクロスメディア展開の効果検証の記事が中心でしたが、当社が保有する検索データにリサーチやアナリストのチームがどうかかわって、マーケターが使える知見を得ていくかという、かなり噛み砕いた実践的な記事が多かったので、反響が高かったのだと思います。
そこで、ニーズがこれだけあるなら当社の情報だけでなく、企業のデータ活用事例なども交えて紹介して、もっとデータを「使う」発想にシフトできればと。そうした考えで、1年かけてInsight for Dを開設しました。
届けたいのはプロダクト情報ではなく“ヒント”
MZ:データ活用の促進に数年取り組まれている中で、やはりまだ企業の具体的な活用には至っていないとお考えですか?
鈴木:そうですね。私たちも、マルチビッグデータを活用できるといいながらも、まださほど多く事例を打ち出せていませんでしたし。
でも、当社のデータと広告主のデータを掛け合わせれば、さらにマーケティング施策に活かせたり、顧客の一連の流れの中で態度変容を起こしたりすることができます。そういった活用方法に気付いてもらいたい、というのが第一の目的なんです。
MZ:実際にサイトを拝見すると、かなり第三者的な視点を重視されていると感じます。「ゲーム好きの男性はお金に困っていて、美容に関心のある女性は……」といったライトな切り口の記事から、プロバスケットボールのリーグ「B.LEAGUE」の事務局長が語るデータ活用の取り組みといった生のお話があったり。編集の方針をうかがえますか?
鈴木:私たちがInsight for Dを通してお届けしたいのは、プロダクト情報ではなくデータ活用のシナリオを構築するためのヒントです。そのため、記事は広告ではなく完全なコンテンツです。あくまでもデータを活用する人たちにとって役立つ情報を発信するメディアにしたいと考えています。
伝え方としては、やはりまず興味を持ってもらうことが第一だと思うので、よくある“とっつきにくい”解説にならないように注意しています。なるべく「現場でどう活かされているのか」という視点をベースにしながら、分かりやすく読めるように心がけています。
コンパクトながら、現場に活かせる知見を盛り込む
MZ:たしかに、「ハロウィンに『ギョーザの皮』が売れる理由」といったタイトルなどは、マーケターなら皆が興味を持ちそうです。また、これまでまったくデータ活用に接点がなかった人でも理解できそうな記事も多いですね。デジタルマーケティングの情報サイトといっても、難解な雰囲気もないですし。
鈴木:自分の経験でもあるのですが、「役立ちそうだな」と見つけた記事をブックマークしても、忙しい中でどんどん新しい情報に接触していくので、気になったときに読まない記事は、後になっても読まないんですよね。記事はカテゴリによって、キーワード解説など初心者向けのものもありますが、メインコンテンツである事例は、やはりデジタルマーケティングに数年携わっているプロを読者対象として想定しています。
ただ、接触したときにパッと読んでもらえるように、事例などは最初に記事の要約を箇条書きでコンパクトにまとめたりして、「読まなきゃ」ではなく「読みたい」と思ってもらえるストーリーを展開し、読んだ後はしっかりと現場に活かせるヒントや知識を得られる記事を目指しています。
MZ:今、データを扱うのは何もデジタルマーケティング部門だけではなくなってきていますから、周辺の人たちに分かりやすいことも大事ですね。
鈴木:そう思いますね。なので、読み込みの深さはプロと初心者では違ってくるかもしれませんが、レベル感の違う関係者に転送しても興味を持って読んでもらえるようにしています。
“うまくいかなかったケース”から学びを得る
MZ:まだ開設して間もないところですが、すでに反響が大きかった記事などはありますか?
鈴木:先ほど挙げていただいた、プロバスケットボールの「B.LEAGUE」でのデータ活用事例は、手応えがありましたね。スポーツは皆さんに身近な話題であり、意外とデータ活用が進んでいたりするので、以前から取り上げたい分野でした。バスケットボールは新興スポーツだからこそ、リーグ主導でかなり積極的な取り組みがなされていたので、思った以上に充実したお話になりました。
それから、成功事例だけでなく、うまくいかなかった話への反応も大きいと感じています。たとえば、ある企業がDMPの導入を進めていたのに、最終的にトップの意見で白紙に返ったとか……。その場合、何がいけなかったのかを紐解けば、成功させるための視点を得ることができます。そういう切り口も盛り込んでいきたいですね。
MZ:ちなみに、どのような編集体制で運営しているのですか?
鈴木:Insight for Dは、私がみているマーケティング部管轄のプロジェクトなので、マーケティング部内に編集室があり、編集主幹を含めて10名弱があたっています。今のところ、皆で手分けして社内外の取材から入稿まで行っています。以前にマーケティングソリューションブログで扱っていたような情報も含め、週に3~4本を更新しています。
データが「あって当たり前」の時代に役立つサイトへ
MZ:ヤフーとかかわりのない、純粋なデータ活用事例の記事のほうが多いですが、今おっしゃったマーケティングソリューションブログで扱っていたような情報などは、ヤフーだからこそ提供できるコンテンツですね。
鈴木:そうですね。先ほどお話ししたように、広告色が出ないようにはしていきますが、やはり当社のマルチビッグデータは他に類のない厚みがあるので、それを通した解析や施策の効果検証にはたくさんのヒントが詰まっています。当社ならではの情報も、もちろん積極的に発信していきます。
MZ:直近で力を入れていくことは?
鈴木:現状の記事は、入門・事例・市場トレンドの3カテゴリですが、近々4~5つになるよう準備中です。また、日々社内の各部署に出向いて寄稿などの話もしているので、当社の個々人の知見も加えていきます。
MZ:発足したばかりで反響が大きいとのことで、今後が楽しみですね。最後に、今後への期待をお教えください。
鈴木:当面のメインターゲットは、プロのデジタルマーケターですが、今は本当に何もしなくても企業にどんどんデータが集まってきますし、社内で関わる人もマーケターだけに限らなくなっていますよね。
データを起点にしたバリューチェーンを考えると、経営層はもちろん、あらゆる立場の方にとって何らかの気付きを得られるサイトになればと思います。データはもはや、あって当然なので、幅広い人のインスピレーションとなるような記事をどんどん発信していきます。