4つの事例から見る「デジタル化の本質」
続いて、阿部氏は5つのポイントをそれぞれ押さえた4つの先進事例を紹介した。1つ目のエコシステムとは、異業種同士をデジタルで融合することで新たな価値を提供し、相互にカスタマーエンゲージメントを高め合うものだ。一例を挙げると、定額制音楽サービスSpotifyとスターバックスの取り組みがある。
これはスターバックス店内でSpotifyアプリを起動すると、今流れている曲をお気に入りリストに登録したり、またはリクエストを出したりできるというもの。音楽そのものと、それを聴く環境を組み合わせた新たなサービスを実現している。
2つ目のパターンの事例で有名なものは、Uberだ。これは輸送手段という資産をデジタルで共有化することで、輸送やロジスティクスのビジネスモデルに変革を起こすというもの。
3つ目の商品・サービスのデジタル化でいえば、国際配送サービスUPSが自社拠点に3Dプリンタを設置して、メーカーが発注した試作品を迅速に届ける取り組みが挙げられる。今やデータさえあれば製品を提供することさえ可能なのだ。
4つ目のITビジネス基盤確立による顧客接点の創造は、法律改正(自由化)による新規事業者の市場参入や、5つ目の成果に基づくビジネスは、IoTの仕組みを生かし機器を使用した分だけの代金を受け取る建設機器大手・コマツの取り組みが挙げられる。
これらに共通するポイントは何か。阿部氏は「すでに存在する技術、珍しくない技術を組み合わせることでイノベーションを生み出しているのです」と指摘する。デジタル化とは、こうした取り組みすべてを含めたことを指すのだ。
デザインシンキングから具現化へ
こうして考えると、デジタル化以前・以降の最大の違いは、「バリューチェーンの中で、各業種・業態の住み分けができているかどうか」ということが見えてくる。デジタルの力は、このバリューチェーンをスキップし、時には壊して、新たな価値をエンドユーザーにもたらすことにある。
阿部氏によると、現在経営者の60%ほどが、デジタル化を「脅威」と捉えているという。その理由は「破壊力」と「スピード」だ。バリューチェーンをゼロリセットしてしまう「破壊力」は前述のとおりだが、阿部氏は同時に「スピード」を強調する。アマゾンが世界トップレベルの小売店になるまでに5年、アップルが世界を買えるのに3年、Uberが北米No1のタクシー会社になるまでに1年。人や物理的なモノはコピーするのに時間を要するが、デジタルつまりITの成功モデルを発見した後の展開のスピードは、比較にならないほど早いことは既に世界中で実証されている。
「テクノロジーの要素技術は、SAP Hybrisを含めて、もう揃っているのです。そこで一歩先に進むためには、自分たちのビジネスにおける強みを理解し、最適な技術を組み合わせて新たなチャレンジをしなくてはいけません」(阿部氏)
そこで日本企業のチャレンジになるのが、社内コンセンサスの醸成だ。従来の日本企業の強みであるボトムアップ型意思決定、すり合わせ型コミュニケーションによる高い品質、トップダウン型意思決定による迅速な意思決定を融合させ、そこに最新のテクノロジーの有効活用をミックスした進め方を、阿部氏は提案する。
SAPは、SAP Hybrisというビジネスソリューションをプラットフォームに加え、新たな価値創造に向けた3ステップのコンサルティングを提供している。それが、既存モデルにとらわれずに新しい発想を磨く「デザインシンキング」、出てきたアイディアをIT/ビジネスのアーキテクチャに落とし込む「エンビジョンワークショップ」、そして、それを短期間で具現化することを繰り返す「プロトタイピング」だ。
この3ステップは、ツールとしてデジタルを導入するのではなく、競争を勝ち抜くデジタルイノベーションには欠かせないステップといえる。今後、ますます複雑化するデジタル時代において、コアコンピテンスを生かしつつ勝ち抜くビジネスをデザインできるか。これが最も重要なポイントだ。
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