地方文化が直面する「負のサイクル」を、デジタルでどう突破するか
MarkeZine編集部(以下、MZ):今回、文化庁の事業として受託したプロジェクトにおいて、博報堂プロダクツが解決すべきと捉えた、地方自治体や祭事団体の課題とは何だったのでしょうか。
岡本:私たちが祭事団体へのヒアリングを通じて痛感したのは、素晴らしい文化資源を持ちながらも、その多くが「地域密着型」ゆえの閉塞感に悩まされているという点です。これまでの地方祭事は、地元の熱量に支えられてきた一方で、門戸が地域内に閉じてしまい、遠方や海外からの参加動線が整っていないという現状がありました。非常に熱狂的な祭事であっても、情報や参加手段が「地域限定」であるために、外部のファンを呼び込むチャンスを逃してしまっている。この「内向きの構造」こそが、祭事の可能性を狭めている大きな要因だと捉えました。
西澤:加えて、祭事運営の「収益構造」にも大きな課題があります。多くの団体が抱える悩みは、大きく分けて「資金不足」と「担い手不足」の2点です。
お祭りの収入は当日の手売りチケットや出店に依存していることが多く、天候一つで収支が左右される非常に不安定なものです。収入が減れば規模を縮小せざるを得ず、それが来場人数の減少に繋がる。この「負のサイクル」の根底には、お祭りがビジネスとして成り立っておらず、若年層から「慈善事業」やボランティアのみのように見られてしまっている現状があります。こうした奉仕精神に頼らざるを得ない構造が、若者が関わり続ける動機を削ぎ、結果として深刻な担い手不足に繋がってしまう場合もあります。
同社 MD ビジネス事業本部 アシスタントプロデューサー 西澤 美咲氏(写真右)
岡本:今回実証実験を行った新潟県三条市の「本成寺鬼踊り」も、まさにこうした課題に直面していた一つでした。伝統を維持するためには、まずこの収益基盤を安定させ、外部からも人や資金を呼び込める持続可能な事業モデルへと転換する必要があると考えました。
なぜ「NFT」なのか?戦略的意図と「来場者との継続接点」を生むブロックチェーンの特性
MZ:解決の手段として、あえてNFTという先端技術を選択されたのはなぜでしょうか。
岡本:理由は大きく3つあります。1つ目は、「無形文化のデジタル資産化」です。NFTなどのデジタル技術は、文化資源の記録、発信、来訪者との継続的な接点形成を支える補助手段となり得ます。これにより、単なる一過性の行事で終わらせず、その価値を中長期的に維持・活用できる基盤が整います。
2つ目は、「NFTが生む拡散性」です。特にデジタルネイティブな若年層やインバウンド層にとって、NFTを所有することは「その場所、その瞬間に立ち会った」という唯一無二の証明、いわばデジタル上の思い出や勲章になります。この「所有する喜び」がSNSでの自発的な発信を促し、お祭りの魅力を世界中へダイレクトに届ける強力なエンジンとなると考えました。
3つ目は、「ブロックチェーンによる信頼担保と継続接点の構築」です。NFTチケットは、それが確かなものであるという証明になるだけでなく、購入者のデータが個人情報に紐づかない形で、ブロックチェーン上に残ります。これまで来場者との関係性が当日限りであった地域のお祭りにおいて、来場者とデジタル上で繋がり続け、翌年以降の告知やファンコミュニティ化へ繋げられる点は、収益を安定させる上で極めて大きなメリットとなると考えたのです。

