会議室で消えていく「現場の良い直感」
「これは絶対に顧客に喜ばれるはずだ!」
現場の最前線で顧客と向き合うマーケターや企画担当者なら、これまでの経験と観察から導き出された「単なる思いつきではない直感的判断」を持つ瞬間があるはずです。しかし、いざその企画を会議室で提案すると、経営陣や上司からこう問われます。
「その直感が正しいという、客観的な定量的なデータはあるの?」
返す言葉に詰まり、有望な企画がそこで頓挫してしまう。あるいは、根拠となるデータを提示できず、結局無難な施策提案に落ち着いてしまう。そんな悔しい経験をしたことはないでしょうか。
組織として投資を行う以上、個人の思い込み(確証バイアス)によるリスクを排除し、客観的なデータによって判断の妥当性を検証することは、ビジネスにおいて当然の流れです。その一方で、データで証明しきれなかった多くの「良い直感」が消えていく現実を、私は非常にもったいないと感じています。
本連載では、こうした「直感とデータ」の間に横たわる深い溝を乗り越えるための実践的なアプローチを解説していきます。
Take Away:この記事で得られる3つのヒント
・属人的な「現場の直感」を、誰もが納得できる「適切な仮説」へと変換するプロセス
・確証バイアスや「アンケートの罠」を抜け出し、顧客の「無言の行動データ」を直視する視点
・生成AIを「思考のパートナー」として活用し、顧客との認識のズレを客観的に修正する実践的な手法
感性とデータ、両極端な現場での原体験
私自身、マーケターとして両極端な環境に身を置き、この「直感とデータ」の狭間で多くの葛藤を抱えてきました。
顧客体験と感性を極めるオリエンタルランドから、徹底したデータ主義を貫くソフトバンクへと転身したときのことです。当初、私は顧客への熱い想いやインサイトを中心に提案を行いました。しかし、上司から返ってきたのは「今の話が顧客に刺さる根拠はなんですか?」という妥当性への問い。その反省から、今度は需要調査や市場規模などの定量データで、守りを固めて提案に臨みました。
ところが、次の反応は「なぜ今、この戦略をやる必要があるのか?」というものでした。 データは現状を説明してくれても、決断の根拠となる「物語の軸」にはならなかったのです。
通信や金融といった異業種を渡り歩いたマーケターとして、そして現在、積水ハウス イノコムでCRO(Chief Research Officer)を務める中で確信しているのは、人を動かす戦略には「感性(直感)」と「データ(論理)」の融合が不可欠だということです。
